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━━━第二章・荒ぶる湖畔のスシ屋台━━━ 4


          * * *


 時はさかのぼり──一年前。

 天下をべる朝廷が白露はくろ様を討伐する為に送り込んだ征討軍と、それを阻止すべく鎮西地方ちんぜいちほうの住民達が立ち上がった義勇軍。

 その両軍が対峙たいじする平原の真ん中へ近づけば近づくほど、寒風が強くなってゆく。

 既に、敵方てきがたの総大将である青年は、一騎打ちが繰り広げられるであろう決戦場にて、腕を組んで立っていた。

「待たせたかのぅ?」

 おお太刀だちを持って赤髪をなびかせた師匠が、到着すると同時に問いかける。

「……………………」

 しかし、相手は一言も声を発しない。ただ、予想通りではあった。天下有数の実力者である彼は、無口な御仁ごじんだと聞いていたからだ。これから殺し合う敵同士で、多くを語る必要はあるまいと、師匠は一騎打ちの名乗り口上を始める。

「やぁやぁ、我こそは従四位鎮西(ちんぜい)兵衛尉ひょうえのじょう稲薙いなぎの 道就(みちなり)と申すなり」

 稲薙いなぎの 道就(みちなり)──これが師匠のフルネームであった。この稲薙いなぎというせいは、現代の名字に当たる。みやこの貴族のような高い身分でしか持ち得ない家名かめいであり、一般の農民がせいを名乗るのは許されていない。あと、鎮西ちんぜい兵衛尉ひょうえのじょうとは彼が務めていた鎮西府ちんぜいふの役職名である。

「そして、我らが<もののふ>のあざな紅蓮ぐれんおきなじゃあ!」

 そう名乗り終えると、おお太刀だちを横一文字に振るった道就みちなり。刀身があかく輝き、火花が飛び散る。

 次は青年の番であった。彼は落ち着いた声で、おごそかに名乗りを上げる。

「我こそは……、従一位鎮西将軍(ちんぜいしょうぐん)こおりの 利光としみつなり」

 よわいは二十を越えたあたりだろうか。本来ならばかぶとの下にかぶるべきもみ烏帽子えぼしから、さらりとれた神々《こうごう》しい銀髪。白地しらじ小葵こあおい雪輪ゆきわ鳳凰ほうおう金糸きんしであしらった有職文様ゆうそくもんよう気品きひんあふれる狩衣かりぎぬをその身にまとい、紫の生地に薄く浮かび上がる雲立涌くもたちわきはかまひざあたりで締めたすねて。靴は、黒い毛でおおわれている。

「<もののふ>のあざなは……、冬将軍」

 その足下から、一陣の冷たい風が舞い上がった。

 瞬間、心の底から凍り付くような恐怖というか威圧感が、道就みちなりの身体を硬直させる。やいばを交える前から、格の違いは歴然であった。

 そんな相手の様子を冷ややかに見ながら、さらに口上を続ける利光としみつ

みことのりにより……、鎮西ちんぜい巣食すくいし〝白露はくろ大蛇おろち〟なる[もののけ]を討伐とうばつしに来た。邪魔する者は、ことごとく朝敵ちょうてきと見なし成敗されるものと……、心得るがよい!」

 それを聞いた道就みちなりの顔つきが変わった。怒りによって金縛りが解け、身体中の筋肉がうねる。

白露はくろ様を[もののけ]扱いとは、このばちたりめがぁ!」

 高く跳び上がった道就みちなりは、おお太刀だちを大上段から振りかぶって、向唐竹こうからたけり。

 対する利光としみつは、腰の太刀には一向いっこうに手を掛ける様子も無く、腕を組んだまま。

「うおりゃああああああぁぁぁ」

 力任せの強烈な一撃が、大地をえぐった。土煙が舞い上がる。だが、これで終わりではないのだ。炎を巻き起こした刀身が地面を裂きながら横()ぎへ、すまし顔で避けた敵に襲いかかる。

「どうじゃあ! これぞ、ワシらの得意とする焔返ほむらがえし…………」

 だが、確実にとらえて斬ったはずの利光としみつは、すぐさまかすみのようにその姿を消していた。

 そして──。

「なんじゃとぅ!」

 道就みちなりが驚くのも無理はない。まったく予想だにしなかった背後から気配を感じたのだ。しかも、こちらに致命的なすきができたにも関わらず、敵は攻撃しなかった。完全になめられている。

 一方、この期に及んでいまだ腕組みを解かず、落ち着き払った声で問いかける利光としみつ

「ところで、一つ聞いておきたい……。の従一位とそなたの従四位では、天と地ほどの差が開いておるのに……何故なにゆえ、勝ち目の無い一騎打ちを挑むのだ……?」

 それは朝廷から授かった官位かんいの事である。

 由緒正ゆいしょただしき貴族の家柄いえがらが高い官位を独占していたのは今は昔。妖怪ようかい変化へんげ跳梁跋扈ちょうりょうばっこする世へ移り変わり、[もののけ]退治を余儀よぎなくされた中で、朝廷が臣下しんかに与えた褒賞ほうしょうが官位であった。

 すなわち、高い官位を持つ者は[もののけ]退治の功労こうろうが高かった者であり、朝廷が認めた強さのランクでもあるのだ。

「知れた事よ。男には負けると分かっていても、戦わねばならない時があるのじゃあ!」

 おお太刀だちを右肩にかつぎ、道就みちなり啖呵たんかをきった。

「そうか…………」

 その返答を聞き届けた利光としみつがついに、腕組みを解いた。右手が太刀のつかを握る。

また、唐突に時間を遡ります。


そして、従一位やら従四位などの官位が登場し、強さのランクになっております。

この設定も、今後に活かす予定です。

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