━━━第八章・氷炎の仇討ち━━━ 1
日差しをさえぎる雲も無く、空は青く澄んでいるにも関わらず──しんしんと降りしきる初雪が不思議な安らぎと共に、ダメージの蓄積した身体へ染みてゆく。
稲薙 双七の目が最初に映したのは、そのような雪に彩られたキツネ少女の顔だった。
「あっ、双ちゃん……、起きちゃった?」
視線を泳がせ、キサはもじもじしている。
後頭部に柔らかな感触──おそらく、膝枕してくれているのだろう。ものすごく気怠いので、ずっとそうしていたかったのだが、
「何をデレデレしているのですかぁ! はやく起きなさいっ!」
「うおわっ!」
突如として蹴りが飛んできたので、反射的に転がって起き上がる。背中の大太刀に手を掛け、臨戦態勢で辺りを見回した。
「ちょっと、邪魔しないでよぉ! せっかくイイトコだったのにぃ!」
長老とキサが、毎度お馴染みの口喧嘩を繰り広げたのを尻目に、付近の状況を確認しながらおぼろげな記憶と照らし合わせてゆく双七。
確か──ここは九露湖の近くで、滝があったはず。されど、そのようなモノはどこにも見当たらなかった。辺り一面の草木すら生えてない荒野に、彼は立っていたのだ。
「ニイサン、何きょとんとした顔してるんや。あのごっつうムカつく黒露大蛇は死にくさったでぇ。もう全部終わったんやっ!」
相変わらずの白いフンドシ一丁で、茶色い剛毛に覆われた筋肉を誇らしげに見せる、猿宝斎の声であった。反応して振り向いたはいいが、ますます混乱した様子の双七に、
「ああ、そういや言ってへんかったなぁ。ワテの相方はそこの長老やねん」
角刈りの額に輝く〝白い鱗〟を見せると同時に、さわやかな白い歯もきらりと光った。
その時──。
「お殿さま……、きれいですね……」
透き抜ける高い声を聞いて、ハッと息を呑む。
「ああ……」
続けて発せられた憎むべき仇の声を聞き、双七は──乱暴に師匠の大太刀を抜き放った。
「何が全部終わっただ……? まだだ……、まだ終わっちゃいねええええええぇぇぇ」
満身創痍の身体に残された最後の力を出し切るように、怠惰な心を吹き飛ばす雄叫びをあげる彼は──皆の視線を浴びつつ、よろけながらも一歩を踏み出した。
「ふ……、そのようだな……」
話が早くて助かる。そのハンサムで余裕に澄ました顔を見てると、無性にムカつくんだ。
「やめてよ、双ちゃんっ!」
「お殿さま……、だめ……」
師匠の仇である利光も、太刀を抜かずにこちらへ向かってくるが、険悪なオーラを放つ両者の間に立ちはだかったのは、それぞれの相方である彼女達。




