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メイのやきもち

転校してずっと一緒に過ごしたメイとミスリは、どんどん仲良くなっていった。

同じ部屋で文字通り寝食を共にし、夜はお互いを癒し合う間柄である。

ミスリもメイと一緒にいることが楽しく、既に二人は親友となっていた。

しかし、そんなメイにも悩みがある。ミスリのあまりのモテっぷりにやきもきするのだ。

「ミ、ミスリさん。大地の国のモルト公爵長男、メンイケです。付き合ってください」

超絶イケメン貴公子から告白されるミスリ。

「……ごめんなさい。好きな人がいますので……」

「そ、そんな……」

がっくりと崩れ落ちるメンイケだった。こんな事が毎日のように繰り返されている。

「ね、ねえ。ミスリちゃんの好きな人って? 」

あまりにも同じことが繰り返されるので、メイは聞いてみる。

「それはもちろん、お兄ちゃんだよ~。メイちゃんも会ったら、きっと好きになるよ~」

目をキラキラさせて勇者について話し始める。

メイはあったこともない勇者に対して、複雑な思いを募らせていった。

そんなある日、ミスリはヒノモト学園の周りを案内してくれる。

「ここはお兄ちゃんの故郷なんだよ。この辺り一体全部スガイ家の土地なんだって」

以前は過疎が進んだ地域だったが、今はかなり様子が変わっていた。

オールフェイル世界とのゲートをここに通しているので、異世界からの移住者や大帝グルーフ関係者、ヒノモト学院の職員など住民が増えており、学園を中心として小さな町ができている。

新しく作られた商店街には、人間や獣人族、魔族の生徒達が楽しそうに行き交っていた。

基本的には町全体が菅井家の私有地なので、関係者以外立ち入り禁止になっており、生徒達も安心して元の姿で外を歩ける。

商店街を歩いてショッピングやグルメを楽しんだ後、メイはミスリに近くの丘に建っている大きな神社に案内された。

「ここは……? 」

「因幡神社。お兄ちゃんをお祭りしている神社なんだよ~」

ミスリは自慢そうに言う。神社の入り口には、巨大な『大暗黒天』の像が設置されていた。

「あらあら、いらっしゃい」

敷地に入ると、巫女服姿の20代の美女が出迎える。

「宇美お姉ちゃん、遊びに来たよ~。」

「こ、こんにちは」

「はい。こんにちわ。ゆっくりしていってね」

因幡神社宮司、因幡宇美はそういってにっこりと笑いかけるのだった。

彼女の後ろから、二人の幼児がひょこっと顔をだす。

「ミスリおねえちゃんだ! 」

「わーい! 遊んで! 」

ミスリの顔を見ると、じゃれ付いてきた。

黒髪黒目の五歳くらいの双子の男の子と女の子で、可愛らしい顔をしている。

「いいよ~。何して遊ぼうか? 」

ミスリは満面の笑みを浮かべて、二人を抱きしめるのだった。


メイも含めて五人でしばらく遊ぶと、二人の子供は疲れて昼寝を始める。

男の子はミスリの膝の上で安らかな寝息を立てていた。

「やっぱりケンイチ君はお兄ちゃんに似ているなぁ。ねえ、宇美お姉ちゃん、いい加減に白状してよ。この子たちのパパはお兄ちゃんなんでしょ! 」

ミスリは頭を撫でながらつぶやく。子供達がなついてくるのはうれしいが、その事だけははっきりしてほしいと思うのである。

「うふふ~想像にまかせるわ」

ミスリの追求に、宇美はわらってごまかす。これがいつもの挨拶だった。

「えっ? 勇者って、異世界で王様になってそこのお姫様と結婚しているんじゃなかったっけ? あなたがヒノモトって国の王妃様なの? 」

メイは驚いて宇美を見つめるが、彼女は笑って首を振った。

「違うわ。一応誘われたんだけどね。私にはこの土地を守る義務があるから断ったの。でも、今でもシンちゃんとは仲のいいアイジン関係なのよ」

屈託なく笑う宇美を、ミスリはうらやむ。

「いいなぁ……。私も早くなりたいんだけどなぁ……」

そんな事をつぶやくミスリに、メイは慌ててしまった。

「ね、ねえ。ミスリちゃんだまされているんだよ。その勇者って、女たらしの悪い人だよ! 」

顔を赤くしてそういうメイに、ミスリはきょとんとした顔になった。

「なんで? お兄ちゃんいい人だし、王様なんだから何人妾がいてもいいと思うんだけど……」

異世界では一夫多妻の例も多く、別にモラルに反する事でもなかった。むしろ甲斐性がある男は何人もの妻を持つのが普通とされていて、日本の一夫一妻制とは意識の違いがあった。

「いくら王様だからって、何人もの女の子に手を出すのはいけないの! 自分だけを愛してくれるような男の人じゃなきゃ! 」

「そんなの、無理だよぅ。お兄ちゃんを独占するなんて、お姉ちゃんたちに怒られるよぅ」

脳裏に王妃達の姿が思い浮かぶ。自分の姉であるアンリも含めて、全員がヒノモト国で確固たる地位を築いている立派な英雄である。まともに戦って一人で勝てるわけがない。

かといって身近で勇者を見てきたミスリにとって、今更他の男性なんて考えられなかった。

頭を抱えるミスリの頭を、宇美は優しく撫でる。

「大丈夫よ。シンちゃんはちょろいから、ちょっと甘えてあげたら簡単に落とせるよ。私の時も泣き真似して迫ったら、すっごく動揺して可愛かったな。そしてある日の昼下がり……」

「やっぱり! 」

ミスリはそれを聞いてプンプンと怒っている。

「まあまあ、いつかミスリちゃんもシンちゃんのお嫁さんになれるよ」

「……だといいんだけどね~。お兄ちゃん未だに私を子供扱いするんだから! この間会った時なんか、いきなり『高い高い』をされたんだよ!  」

不満そうに頬を膨らませるミスリ。彼女は充分美しく育っているが、義兄は子供どころか赤ちゃん扱いしてくるのである。

「あはは……シンちゃんはミスリちゃんが綺麗になったから、必死に目をそらしているんだよ。女の子に弱いからね~」

「そうなのかな? 」

ミスリはうれしそうな顔をする。

「もっとも、一度堕とすと、後はケダモノのように激しく……」

「キャー、やめて! 生々しい! 聞きたくない! }

キャッキャと話す二人の側で、メイは黙って考え込んでいた。

(その勇者って人、許せないよ!……ミスリちゃん純真だから、絶対その変態にだまされているんだよ。私が守らなきゃ! )

親友が年上の不倫男にベタ惚れであることが、メイは面白くない。出会ったことのない彼に、どんどん悪いイメージを持つようになるのだった。

本編はこちらになります


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活動報告に「反逆の勇者と道具袋」11巻と文庫版1巻の情報を載せました

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