魔王の蠢動
そのころ、薄暗い部屋の中で、何人もの少年少女が話し合っていた。
「俺達はこれからどうしたらいいんだ……」
頭を抱えて悩んでいるのは、『魔教会』の信者たちである。
彼らの魔王の呼びかけに応じたものたちは、教会の本部に集まっていた。
もっとも、本部と言っても大した大きさではなく、ごく普通の教会である。
魔王の力『覚醒』で魔力に目覚めたとはいっても彼らは社会的には学生に過ぎなかったので、せいぜい適当な教会の神父を追い出してのっとる程度の事しかできなかった。
「本当に世界の征服なんかできるのかな……」
一人の少年が不安そうにつぶやく。
魔王の檄に応じて魔力が覚醒した時は、これで特別な人間になれたと喜んだ。
真面目に学校行ったり働いたりして競争に苦しむよりも、楽して支配者になれると思ったんからである。魔力に覚醒した仲間を集めて世界を征服しようと意気込んだが、現実は甘くなかった。
今の社会で魔力などあっても、それをはるかに上回る科学の力に対抗できないからである。
炎を出せても、光線ビームを放っても、それで何かができると言うものではない。
「俺達の力程度じゃ……何もできないよ……」
今までした事と言えば銀行から金を盗んだり、デモをしてアピールした程度。
彼らの力をみた民衆は最初は驚いたりもしたが、だからと言って彼らに平伏したりはしなかった。
社会に浸透しているシルフOSによって、大した事じゃないと広められてしまったからである。
「それに……俺達の魔力は弱すぎる。本来の力に比べたら……」
実は、彼らの太古の悪魔の力はある世界に封じられている。地球に生きている彼らはその分身に過ぎなかったので、魔力は弱かった。
「みんな、何を弱気になってるんだ。力が弱いなら、数を集めれば良いだろ」
そういって仲間を励ます者もいたが、大部分の者は暗い顔をしたままである。
「でも……俺達の仲間になった奴は多くない。みんなあいつらに取られてしまった」
「せっかく覚醒した悪魔たちも、ほとんどがヒノモト学園に送られてしまった……」
一人の少年が忌々しそうに言うと、皆がその思いを共有した。
彼らが簡単に仲間を集める事ができていたのは最初のうちだけで、すぐに謎の組織に邪魔されるようになってしまった。
彼らに敵対する『新誠組』は大人たちが構成する組織で、社会的信用がある大帝グループとシルフOSの力で簡単に情報を集める事ができる。
そのせいで、せっかく覚醒を促せた悪魔の魂をもつ者を『魔教会』よりも先に接触され、どんどんと取り込まれていった。
さらに、彼らのリーダー『魔王ルシフィル』が致命的なダメージを負ってしまった。
「動けない……」
ポツンとつぶやく少年は豪華な椅子に座っているが、足が硬直化して一歩も動けない様子である。
「魔王様……おいたわしい」
「愛する魔王様にこんなことして……あの佐藤メイとかいう女、絶対に許せないわ! 」
憤慨しているのは、メイを襲った少女たちである。
メイを覚醒させて仲間に引き入れるどころか、その力のせいで肉体が硬直化して動けなくなるという失敗を犯してしまったのだった。
「なあ……このままだと、俺達は終わりだぞ」
「警察も捜査しているみたいだし……」
調子に乗って魔法を使って窃盗をしたり、罪もない者を傷つけたりもしていた。
そのせいで『魔教会』はテロ集団扱いされるようになり、確実に追い詰められていた。
「いっそ解散して逃げ出すか? 」
「逃げるといっても、どこへいけば……? 」
彼らの中にはすでに家出したり学校を辞めたりしているのも多い。
今更元の生活に戻ろうとしても、無理だった。
「こんな事なら、力なんかに目覚めなければ良かった」
頭を抱えて後悔する。意味のない魔力に目覚めて調子に乗っていた事が悔やまれた。
その時、『魔王』を名乗る少年が口を開いた。
「俺達は、もう後には引けない。このまま平凡な人間として、力を隠して生きていくのか? 俺はそんなのは御免だ。せっかく覚醒したんだ。元の神にも匹敵する力を取り戻したい」
「で、でも、どうすれば……」
取り巻きの少年少女が聞くと、『魔王』はニヤッと笑った。
「くくく、あいつらが魔力に目覚めた者を集めているのは、かえって好都合だ。こうなったら最後の手段をとろうと思う」
地図を取り出し、一点を指し示す。
それは島根県にある『ヒノモト学園』がある場所だった。
「ここに魔力が強い者たちが集まっている。あいつらを生贄にささげて……」
『魔王』は自分の考えを説明すると、集まった少年少女たちの顔に恐怖が浮かんだ。
「で、でも。そんな事をしたら、世の中が滅茶苦茶になっちゃう……」
怯えの表情を浮かべる少女の一人を、『魔王』はジロリと睨み付けた。
「俺達が世界を支配するためには、そこまでして力を取り戻すしかないんだ。それとも、中途半端な力をもった化け物や犯罪者としてこの世界で生きていくか? 」
『魔王』の脅しに全員が一斉に下を向く。
確かに、これから何十年も身を隠して生きていくのは嫌だった。
「わ。わかった。やろう」
彼らは『魔王』に従い、最後の賭けとなる儀式の準備をするのだった。
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