グール
ヒノモト学園の女子寮
「もうすぐゴールデンウィークだね。メイちゃんはどうするの? 」
お風呂上りに、メイにマッサージしながらミスリは聞いた。
「うーん。今のところは予定ないけど……」
「それなら、ヒノモト国に遊びに来ない? 」
ミスリはそう誘う。
「いいの? 」
「うん。お兄ちゃんたちにも紹介したいし、私の故郷も見て欲しい。この学園の在校生なら、ヒノモト国にも自由にいけるんだよ」
異世界にいけると聞いて、メイも興味を持つ。
「そうか……なら、行こうかな? 」
「決まりだね~。なら、お兄ちゃんにも知らせておかないと」
ミスリが明るく笑ったとき、いきなり地面が揺れた。
「な、なに? 地震? 」
慌てて二人で大きなベッドの下にもぐりこむ。
グラグラと地面が振動し、数分たっても収まらなかった。
「こ、これは変だよ。こんな長く続く地震なんて……」
ミスリがつぶやいたとき、やっと少しずつ収まってくる。
おそるおそる外の様子を確認すると、異様な光景が目に入った。
「な、何あれ? 」
ヒノモト学園自体を多い尽くすように光の壁が立ち上がっている。
その時、部屋のパソコンが自動で立ち上がり、メイのパートナーシルフOSであるタルトの姿が映し出された。
「二人とも、大変だよ! ヒノモト学園を中心として、魔方陣が取り囲んでいる! 」
「魔方陣? 」
「うん。外で何者かが魔法を使っているんだ。逃げないと……」
タルトがつぶやくと同時に、魔方陣が輝きを増す。
「危ない! 『サイバーログイン』」
タルトが二人に魔法をかけ、魂をシルフワールドに避難させる。
次の瞬間、学園中が魔方陣から発せられる光に覆われた。
学園の外
「くくく……これで学園にいる連中に『覚醒』を促す事ができた」
車椅子に乗った少年が含み笑いをする。
その周りでは数十人の少年少女が、不安そうに彼を見つめていた。
「しかし、大丈夫でしょうか。我々に残された魔力をほとんど使ってしまいました。もし失敗したら」
「案ずるな。覚醒魔法と同時に洗脳魔法もかけて、我々と同じく悪魔の魂を持つ者を、魔力を吸い取る『魔鬼』にした。あいつらが魔力を集めてくれる」
『魔王』と呼ばれる少年は、自分たちの勝利を確信していた。
「それで、集めた魔力をどうするのですか? 」
「今日は地球と『地獄』の位置がもっとも近くなる『ヴァルプルギスの夜』だ。あいつらが必要な魔力を集めたら、『召喚』に移る。くくく……何も知らずに眠っている人間たちも。明日になれば地獄が出現した事を知って絶望するだろう」
少年は魔王にふさわしい邪悪な笑みを浮かべる。
周囲の悪魔の魂を持つ者たちも、思わず恐怖に震えた。
「で、でも、世界を滅ぼすなんて……やりすぎじゃ? 」
「ふん。今の社会のままじゃ。俺達はどうせ逃亡者のままだ。『地獄』とのゲートを開いて、我々の本来持っていた魔力を持つ『本能』を召喚して一体化する。そのあとは一度世界を破壊尽くして、俺達が新しい世界の支配者になるんだ」
『魔王ルシフィル』は高笑いする。
彼に従うものはもう後には引けず、後悔を感じながらも彼に協力するのだった。
ヒノモト学園
何人もの生徒達が、自室で頭を抑えてしゃがみこんでいた。
「な、なんだこれは? 」
「頭が痛い!」
彼らはメイと同じく、日本の各地から来た魔力に目覚めた人間『人魔族』である。
入学するときに暴走しないように魔力の上限をセットされていたが、魔方陣の影響によりその封印が解けようとしていた。
「お、おい。大丈夫か? 」
ルームメイトが心配して駆け寄る。
しばらく彼らは頭を抱えてうなっていたが、しばらくしたら静かになっていった。
「落ち着いたか? 保健室に連れて行って……」
立ち上がった彼らの顔をみて、ルームメイトは絶句する。
白目をむき、よだれをたらした顔をしていて、まるでゾンビだった。
「お、おい? その顔は……」
「ぐぅぅぅぅぅぅぅ」
まるでケモノのような唸り声をあげて迫ってくる。
「ぎゃああああ! 」
逃げる暇もなく、強引に彼らに押さえ込まれる。
化物のような顔になった者たちは、唇を尖らせて顔に迫った。
「や。やめてくれ! 俺にそんな趣味は……」
「ぶちゅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
同性なのにおもいっきり口に吸い付かれる。
「や、やめ……ぎゃぁぁぁぁ……」
吸い付かれた者から急速に力が抜けていく。
やがて、彼らも同じような姿になっていった。
「まりょくぅぅぅぅぅ……」
魔力を求めて学園内をさまよう『魔鬼』たち。
彼らによって、ヒノモト学園は大混乱に陥るのだった。
シルフワールドでその様子を見ていたタルトは、生徒達が次々と変わっていくのをみて焦っていた。
「これはまずいよ……放っておいたら、メイちゃんたちの肉体が危ない」
最初の魔法は魂をシルフワールドに入れる事で守る事ができたが、肉体は現実世界に置き去りである。
このままでは、無防備な状態を襲われて『魔鬼』になるのを防げなかった。
「そんな! どうすれば? 」
「私にもどうしていいか……ネットがつながらなくて、助けを求めることもでき……わっ! 」
いきなりシルフワールドが闇に堕ちる。
次の瞬間、二人は元の肉体に戻っていた。
「どうなったの? 」
「どうやら、停電したみたい」
学園の電気はすべて消えており、寮内は真っ暗になっていた。
「そんな……ここにいちゃダメだよ。ミスリちゃん、早く逃げよう」
メイは必死にミスリの手を引いて廊下に出る。
そこには、何人かの『魔鬼』がたむろしていた。
「……キヨラかなオトメ……のマリョク……」
ミスリをみるなり、唇を突き出して襲い掛かってくる。
「ミスリちゃんに手を出すな! 」
メイは必死にミスリを守ろうと、背中にかばって戦おうとするのだった。
「『安らぎの歌』」
メイが戦っている間に、ミスリは竪琴『琴座』を取り出して、催眠効果がある歌を奏でる。
しかし、操られているグールたちには聞かなかった。
「かみのたましい……まりょくぅぅぅぅぅ! 」
ものすごい力でメイを突き飛ばし、神族の魂を持ち魔力が高いミスリを押し倒す。
そのまま強引に唇を奪おうとした。
「いや! 」
「くっ! 離れろこの変態! ミスリちゃんは私のものだ! 」
メイは渾身の魔力を振り絞って、女グールを睨み付ける。
すると、彼女の体が硬直化していった。
「グア? 」
仲間の動きが止まったのを見て、残りのグールがメイに殺到する。
「『メドゥーサの瞳』」
メイの目から発せられる緑色の光を浴びたグールたちは、その場に立ち竦んだ。
「メイちゃん、ありがとう……」
立ち上がったミスリが例を言うが、メイは辛そうな顔をしていた。
「どうしたの? 」
「……やっぱり……私は怪物なんだね……」
悲しそうに自分の髪の毛を触る。
メイの髪はいつのまにか蛇に変わっていた。
「怪物なんかじゃないよ。だってメイちゃんは私を助けてくれたじゃない」
ミスリは正面からメイの目を見つめて、優しく話しかける。
「でも……」
「気づいている? 私は今メイちゃんの目を見ているよ。でも、硬直化していない」
そういわれてはっとなる。確かにミスリには何の影響もなかった。
「本当だ。なぜミスリちゃんは固まらないの? 」
「それは、メイちゃんが完全に魔力制御できているからだよ。硬直化の能力を完全にコントロールできたんだよ」
ミスリに言われて初めて気がつく。確かにメイの目からは、何の魔力も放出されてなかった。
「よかったね。今までマッサージを通じて魔力制御を鍛えていた成果が出ているよ。力を制御できる存在は、もう怪物なんかじゃない。単なる力をもった人だよ」
ミスリの言葉を聞き、今まで抱えていた不安が消えていく。
「ミスリちゃん。ありがとう! 大好き! 」
ミスリに抱きついて喜ぶメイだった。
「あ、あの、大好きはうれしいんだけど……あいつらが来たよ! 」
慌ててミスリは後ろを指差す。何人ものグールが迫ってきていた。
「私に任せて! 」
くるりと振り向いたメイは、満面の笑みを浮かべながら力を解放する。
迫ってきたグールたちはたちまち硬直化するのだった。
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