顧問と新入部員が加わり、喧嘩部は更に賑わう事であろう。
「えー、こいつが今日から喧嘩部に入ったマリーナだ。」
喧嘩部の顧問をやっている俺の親父が、新入部員を紹介した。
「皆さん!よろしくお願いします!」
「マリーナ、よろしくね。」
「マユもよろしく!」
マユとマリーナが握手をした。
「マリーナさん、仲良くしましょう。」
「こちらこそ仲良くしましょう!ミル先輩!」
ミル先輩とも握手をした。
「マリーナ、よろしく頼むな。」
俺も握手をしようと左手を出した。
「あ、よろしく。」
マリーナは会釈を返した。
俺がレストランで調子に乗ったから嫌われてるのか・・・?
「「・・・・・」」
何故マユとミル先輩はこっちを睨んでるのだろうか。
「あ、そう言えば顧問なのに部活出来てからダイガの親父を見た事なかったな。」
ナイスだガント、見事に話題を作ってくれた。
「あー、俺は非常勤講師なんだよ。だから今まで見かけ無くても不思議じゃ無い。」
「え?非常勤講師が顧問とかやっても良いんですか?」
「やっている奴も結構いるぞ。俺の場合、給料は校長や教頭や一年と二年と三年の学年主任、果ては理事長とかから大量に貰って・・・」
「ちょっと待ってダイガパパ!貴方の台詞に理解不能な所があるのですが、校長や教頭から給料を貰っているってどう言う事ですか?」
ガントがツッコミを入れた。
「ギャンブルの必勝法とか物件をタダで手に入れる方法とか教えて、その利益の一部を貰っているんだ。もちろん合法だぞ。そのおかげで働かなくても金が入って入って。」
「うわー、公務員の風上にも置けなーい。」
「ガント、俺がギャンブルの必勝法で得た利益を校長とかに食わせっぱなしにするとでも思ってるのか?」
「利益を全部強奪するとでも言うんですか?」
「この世のあちこちに億単位で賭けれるカジノがある。そこに来た奴全員に俺が外れの情報を流す。もちろんそいつらの殆どが俺の顧客だ。俺の言う事は絶対に信じる。そして俺は情報料を貰い、俺の顧客は大金を失い破産する。」
「でもそれだと顧客が勝っても変わらないんじゃないんですか?」
ガントが良い所に気が付いた。
「ふっふっふっ、そこを考えていない俺では無い。外れた顧客の金は当然カジノに行く。その金を少しずつ奪うため、俺はその頃には鍵屋に就職している。」
「鍵屋で金庫の鍵でも売るつもりですか?」
「ピンポーン!当たり!」
「そんな事しなくても自分で金を奪えば良いじゃないですか。」
「だからお前は虐められるんだよ。」
「それ今関係ないでしょう!?」
「自分で金を奪ったらその金は何かしなければ増えないじゃないか。その点、鍵を売ってたくさんの奴に金を奪わせれば俺が何もしなくても奪った奴が買い物したりで金は増えて行く。第一カジノの金を奪ってもどう使い切れば良いんだ?一日に四人家族が一生暮らせる金を使ってもその内飽きるぞ?」
「あぁ・・・この親あってこの息子ありって感じだ・・・」
ガントは呆れて物も言えない様だ。
「ガント、将棋でもやらないか?」
そんなガントに俺は将棋の誘いをした。
「将棋か・・・良いぞ、やろう。」
ガントが了承し、俺は駒を並べた。
「一3角。」
「うっ、逃げ場無し・・・僕の負け。」
以上、三十二手を持って俺の勝ちだ。
「序盤の角で角を取るって戦法、意外と強いんだね。」
「マリーナ、長期戦だけが将棋じゃ無い。速攻で決着を付けるのも戦法の一つだ。」
こいつの場合、ガードが硬すぎて身動き取れなくて桂馬やらで銀とか金とか取れたからな。
「ダイガさん、次は私とやりましょう!」
「分かった、マユ。」
次はマユと将棋を指す。どれ位強いか楽しみだな。
「マユ、香車を置くのはそこじゃ無いぞ。」
「え?でも真っ直ぐ動くのはこれですよね、ダイガさん?」
「そこに置くのは飛車、香車は自陣の隅っこ。」
「あ、すいません。」
そして俺は並べ終わった。
「ダイガさん速いですね・・・良し、私も並べ終わりました!」
「待ってマユ、角はどこ行ったの?角落ちでやるの?」
「え・・・あ、忘れてました。マリーナさんありがとうございます。」
ぎこちないな、頼むぞ本当に・・・
「先手か後手かどっちにする?」
「え・・・?」
「先に打つか後に打つかどうする?」
「あ、じゃあ先で・・・」
こいつ、もしかして・・・
「えっと・・・何から動かそうかな・・・良し、じゃあこれで。」
マユは飛車の前の歩を二マス先に動かした。
「あの、マユさん?これは将棋でチェスじゃ無いんだけど・・・」
「え、何かおかしかったですか?」
ガントが指摘したマユの間違いに本人は気付いていない。
「なぁ、マユ?一つ聞くけど・・・お前将棋やった事ある?」
「え・・・?王様とか女王様とか騎士とかを動かすゲームじゃないんですか?」
「「「「「それチェス!!」」」」」
驚いた、このマユは将棋を知らなかったのだ。
「じゃあ、聞きますけど桂馬はどう動かせるか知ってますか?」
ミル先輩が質問した。
「確か・・・こう、こう、こう、こうで、後ろにも動かせます。」
「それナイトの動きですからね!?」
ミル先輩の言う通りだ。
良し、マユに将棋のやり方を徹底的に教えてやろう。
「角は上下左右には動かせないんだよ!斜めにしか進んだり戻ったり出来ないの!」
「え?でもさっきダイガさんが角を上下左右に動かしてましたよ、ダイガさんのお父様。」
「それはダイガが相手の陣の三マス以内に入って裏返したからだ。」
「あ、じゃあ三マス以内に入れば上下左右に動かせるんですね?」
「そうだ。」
角の動かし方を覚えた様だ。
「では、王手で角を裏返し!」
「自分の歩を無視するな!しかもそこだと俺の桂馬で取られるっつーの!!」
「え!?角より小さいのに桂馬で取って良いんですか!?」
「歩でも取れますけど・・・」
ガントが冷静にツッコミを入れた。
「歩で取れるのは相手の陣の三マス以内になって飛車になってからじゃ無いんですか!?」
「「「「「それはチェスのプロモーション!!しかも三マス以内じゃ無くて一マス以内だし!!」」」」」
何だかんだで、今日も喧嘩部は平和だ。