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【追放と絶望】堕ちた勇者と裏切りの代償

「これで、ようやく世界に平和が訪れる……!」


激しい雨が降りしきる荒野。


俺、アレンは息を弾ませながら、目の前に倒れ伏す巨大な魔族――魔王軍の最高幹部の骸を見下ろしていた。


全身は傷だらけで、魔力も底を突いている。


だが、心は晴れやかだった。


これで魔王軍の侵攻を食い止め、数え切れないほどの人々の命を救うことができたのだから。


「やり遂げたな、アレン」


背後から声が響いた。


振り返ると、共に死線を潜り抜けてきた親友であり、パーティーの副リーダーでもある魔法使いのレオンが立っていた。その後ろには、聖女や戦士といった頼もしい仲間たちの姿もある。


「ああ、レオン! お前たちのサポートがあったからこそだ。さあ、王都へ帰ろう。みんなが待って――」


笑顔で手を差し出した俺の言葉は、最後まで続くことはなかった。


――ドスッ!!


「……え?」


腹部に走った鋭い激痛。


視線を落とすと、俺の腹には深々と氷の刃が突き刺さっていた。


それを放ったのは他でもない、俺が最も信頼していた親友、レオンだった。


「レ、オン……? なにを……っ!」


「ご苦労だったな、『元』勇者様。お前の役目はここで終わりだ」


レオンの顔には、今まで見たこともないような、醜く歪んだ嘲りの笑みが浮かんでいた。


彼が指を鳴らすと、周囲の茂みから完全武装した王国軍の兵士たちが無数に現れ、一斉に俺を取り囲んだ。


彼らの手には、強力な魔力を封じる特殊な拘束具が握られている。


「勇者アレン! 貴様を反逆および大量虐殺の罪で拘束する!」


「大、量虐殺……!? なにを言っているんだ! 俺は魔族を倒して……!」


血を吐きながら抗議する俺の顔を、レオンが容赦なくブーツの底で踏みつけ、泥水の中に沈めた。


「まだすっとぼける気か? 辺境の街エルピスは、貴様の『暴走した魔法』によって跡形もなく消し飛んだ。この魔族の幹部も、その巻き添えを食らって死んだだけだ」


「なっ……エルピスの街は、お前が避難誘導を――!」


「口を閉じろ、人殺し」


冷たい声が降ってきた。


見上げると、いつも俺に優しく微笑みかけてくれていた聖女が、汚物を見るような目を向けていた。


「あなたのような悪魔と同じ空気を吸っていたなんて、反吐が出ます」


「俺は……俺はなにも……っ!」


信じていた仲間たちの冷酷な眼差し。


俺を縛り上げる兵士たちの罵声。


そこで俺は、すべてを理解した。


こいつらは最初から、俺を切り捨てるつもりだったのだ。


王族にとって、強すぎる力を持つ勇者は脅威でしかない。


そしてレオンは、「自分が真の勇者として歴史に名を残す」ために、俺を陥れたのだ。


魔王軍との死闘で俺がボロボロになるこの瞬間を、ずっと待っていたのだ。


一切の弁明も許されず、裁判すら行われなかった。


俺は手足を鎖で縛られたまま、馬車で引きずられ、世界の最果てと呼ばれる場所へと連行された。


『奈落の大穴』


底が見えないほど深く、光すらも呑み込む漆黒の巨大な縦穴。


一度落ちれば、致死量の瘴気と凶悪な魔物の群れによって一瞬で骨も残らず喰らい尽くされるという、絶対の死を意味する処刑場だった。


「さあ、お別れの時間だ、アレン」


穴の縁ギリギリに立たされた俺の耳元で、レオンが毒蛇のように囁いた。


「安心しろ。『狂った勇者アレンを、真の勇者である俺が討ち取った』という美談にして、後世まで語り継いでやるからよ。お前はただの踏み台だ」


「レ、オン……貴様ァッ!!」


「地獄で泣き喚いてろ、大罪人」


ドンッ、と。


背中を強く蹴り飛ばされた。


足場がなくなり、俺の体は重力に引かれて真っ逆さまに落ちていく。


遠ざかっていく地上の光。


見下ろして嗤うレオンたちの姿が、闇に溶けて見えなくなる。


(なんで……なんで俺がこんな目に!)


俺はただ、誰もが笑って暮らせる世界を作りたかっただけだ。


そのために、血を吐くような努力をして、何度も死にかけて、それでも人間を守るために戦ってきたのに。


その結果が、これか。これが、命を懸けて守りたかった「人間」の正体か。


『――なら、もういらない』


全身を叩きつけるような瘴気の風の中、俺の中で、何かが完全に壊れる音がした。


純粋だった正義感は、真っ黒なヘドロのような憎悪へと反転していく。


許さない。


絶対に許さない。


王国も、レオンも、俺を裏切った奴ら全員、一人残らず地獄へ引きずり落としてやる。


(もし神がいるなら、俺を助けろ……! いや、違う……!)


(神なんていらない。悪魔でもいい。この腐りきった世界をぶっ壊せる『力』を、俺にくれ……ッ!!!)


声にならない絶叫を上げながら、俺は一切の光が届かない、底なしの絶望へと呑み込まれていった。

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