第十一話 永正二年、清酒
この作品は、歴史的な史実とは別次元の物語です。
妄想的で非常識、そして変態的な展開ではありますが、
今後ともよろしくお願いいたします。
このところ、村長宅の子供三人組が遊びに来ている。作業中は邪魔をしないように近づいてこないが、昼頃と夕飯前は必ず質問攻めだ。
安蔵君は「これナニ?あれナニ?」と手当たり次第。
夕さんは「何好きとかこれ嫌い」と自分の話をして、俺の好みを聞いてくる。
亥助君は「この刀は……この弓は……他にどんな武器……」と、武器が好みのようだ。
だが、全員共通の関心事は食べ物のことだった。数日前に隣の源三さんと息子の源太郎さんから、包丁のお礼にと猪の肉をいただいたのだ。
それを味噌ベースの調味料に漬けた肉を、軽くソテーしていく。
軽く切って味見兼毒見をしてから、三兄弟の前に等分した皿を置いた。
「どうぞ~ 美味しいよ~」
初めはビクビクしていたが、ソテーした肉の匂いが胃を刺激し、食欲に抗うことすらさせない。食べて数秒で「美味しい!」とか「ウマ~」と、芸人のようなリアクションをしてくれて、作った甲斐があった。残りの肉をソテーして、村長宅に差し入れだ。それと、どぶろくを炭などでろ過器を作ったので、簡易清酒も差し入れた。
途中、源三さんにも清酒と肉をおすそ分けし、村長宅で食事だ。当然、酒のつまみに肉、まあご飯にも合うけれど、久しぶりの透きとおった酒をしみじみと楽しむ。十六歳ではなく、生前を含めて四十二年の中年だしね。酒に関しては、過去も現在も問題なしだ。
前世での飲食の記憶からか、欲望が抑えられない十六歳(中年)の俺。
実家では色々作れたが、不安定な鹿島では危険なので、北条に保護してもらう計画をしていた。それまでは我慢するしかなかったのだ。竹刀と防具やガチャポンプと鰻の蒲焼もどきは披露したが、この十六年でそれだけだった。
翌日、いつもの作業をこなし、昼の休憩時間に急にパンのことを思い出した。無性に食べたくなり苦悶していたら、夕さんが「どうしたの?」と問いかけてくる。パンについて口の中で涎が出るくらいの説明をして、俺も夕さんも苦悶している……。
さっそく小麦粉など材料を注文した。後は、素焼きの煉瓦を作り、次回の本格的なパンを制作する予定だ。酵母はブドウで作れるので、源三さんに山葡萄が近くにあるか聞いてみたら、
「酒と肉のお返しに源太郎に取りに行かせる!」
と言ってきたので、
「酒は、どぶろくがあれば作れますからいつでも声かけて下さい。」
と伝えたら、目を見開きニカッと笑い去っていった。
午後はパン用煉瓦の準備でその日を終えた。
次の日、早雲さんと氏綱さんが二人でやってきて酒のことを聞いてきた。どぶろくから清酒に変わる過程を見て驚き、二人に清酒を出して味見をさせる。しばし沈黙し、二人で話し合いをして、「後日、合わせたい者がいるから」と言い残し、帰っていった。
井戸の水汲みのために、また例のポンプを作り、俺と友蔵さんに設置した。友蔵さんは「これが例のからくりですか~」と顎に手をやり頷いていた。どうやら「例のからくり」と呼ばれているらしい。
「いつもお世話になってますからね、便利ですよ!」
と言って軽く流し、使い方を説明した。前世の水道に慣れた俺としては物足りないが、有ると便利だ。
数日後、材料が揃った。煉瓦も出来上がり、組み立てて乾燥したら完成だ。今回は、カマドで酒粕の蒸しパンを作る予定だ。朝から下準備していた小麦がいい感じに膨らみ、蒸し器で十分ほどで完成した。村長宅で「今日は昼にパンを作る」と伝えたので、家族でやってきた。源三・源太郎親子も山葡萄持参でやってくる。そして、氏綱さんもいる。
試食……。粗熱をとって、ふっくらした蒸しパンに皆の目が釘付けだ。毒見として一口。
砂糖はないがほんのりと甘味にニンマリしてしまった。人数分切り分けて各自、
「「「パク!!!」」」
大好評だった。二回ほど作って試食しての繰り返しをして、次回は窯で本格的に石窯パンを作ると宣言して解散となった。
年も近い氏綱さんが気さくに、「家の者にも食べさせたいと」と言うので、残った蒸しパンとレシピを氏綱さんに渡し、ニコニコしながら帰っていった。ポンプの情報も伝わっていて、しっかり観察して、動かし使用感を確かめていた。
「家の者にも楽をさせたいから~」
作れとは言わない氏綱さんに、「何を言っているんだよ」と思いつつも、オーダーに応える俺だった。
午後は、夕さんに山葡萄の加工作業をお願いして、亥助君は「山葡萄取りに行く」と言って森へ出かけた。安蔵君は留守番だ。今日の出来事で確実に三人の食欲の管理者に内定した。俺に対して協力的に行動してくれ、有難く思う。
山葡萄が発酵していい感じだ。小麦粉と練り合わせ膨らんだ物を乾燥させ、ドライイーストを作り保存している。たくさんの山葡萄は、遊びでワインを作ってみた。山葡萄だから味は分からないが、酒が飲みたい。けれど、亥助君の苦労を腐らせるのももったいないからね。
幼稚で語彙力が乏しいことは自覚しておりますので、
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