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[第一章:フタカとタシカの世界]その2

「っていうか、なんで一緒に乗ってるのよ」

 どうにか乗ったバスの中、つり革を握って立ちながら、るいは隣のラピラリに問うた。

「なんで、ですの?」

 同じようにつり革を握って立つラピラリは、ニヤニヤしながら言う。

「…ラピラリは、補習関係にでしょうが。私と違って、大抵の成績はトップクラスじゃない」

「それはそうですわ。それだけ頑張っているのですもの!」

 胸を張ってラピラリは言う。

 るいの言う通り、ラピラリの成績は非常に優秀だ。

 同じ特殊服飾学科の授業に限らず、共通科目やその他の教科も非常に高い成績を収めている。それは特にここ二か月あたりで顕著であり、るいなどその足元にも及ばない。

 そのような状況にある以上、ラピラリは当然のことながら補習とは無縁だ。

 わざわざるいと共にバスに乗る必要もない。

 なら、学校前ではなく別のバス停に用があるのかというと、どうやらそういうわけではないらしい。

「…わたくしも、あ・え・て・補習を受けに行くのですわ」

「?なんでよ。いらないのに…」

 るいは首を傾げる。

「もちろん、成績の問題じゃないですわ」

「ならなによ?」

「ふっふっふ」

 不敵に笑って、ラピラリは自身とるいを指さす。

「…勝負ですわ」

「勝負?」

「ええ、そうですわ。あなたと授業での質問にどれだけ答えられるのかの勝負をするために、行くのですわっ」

 そう言ってラピラリは改めて指をるいに突きつける。

「いつもの、勝負ですわよっ!」

 ラピラリはるいに絡むようになってから、幾度となく勝負を挑んできている。

 それは、ラピラリが最初は完全敗北していた服作りのことに限らず、ありとあらゆることに及んでいる。

 別に競うのが特段好きと言うわけではないようなのだが、とにかくるいと勝負することに執着しているようなのであった。

「…ふん、ラピラリ。私がこれ以上そんな誘いに乗ると思うの?そもそもラピラリと私には成績に差がある。やっても勝てないのは分かり切ってる。勝負なんて…」

 わざわざ負けが確定しているような戦いに挑む意味などない。

 やったところで、敗北感と悔しさを味わうだけであるからだ。ゆえに、負けず嫌いな性格も災いして、いつもは高確率で乗せられてしまう誘いを、るいは突っぱねようとした……が。

「おやおやおや?るい~、戦う前から負けを決めつけるなんて、随分弱気ですわねぇ。ビビったのですのぉ?」

「な…なんですってぇ?」

 にやにやとした顔で言ってくるラピラリに、るいの目が吊り上がる。

「わたくし、今日の補修内容は調べましたのよ。そしたらなんと。あなたが共通科目の中で唯一まともに理解をしている、は・ずのところじゃありませんか!まさか、[不確定存在者]にとって常識も常識の[有波]のことでも、[確定存在者]のわたくしに敗北の自信が?あなたはその程度ですのぉ?」

「ぐ…っ」

 ラピラリは頬を擦りつけながらるいを煽ってくる。

 それに彼女はプルプルと震える。

「…はぁ。あなたが唯一今のわたくしに迫れる可能性があるところでも勝負を実質放棄するとは。るいは落ちるとこまで落ちましたわね。もはやどんな勝負もわたくしの勝ちが確定している」

 ラピラリはため息をつき、肩をすくめる。

「残念ですわ。服作りで敗北した時から、あなたをライバルと見て競ってきたのに、そのライバルがこの体たらく。ええ、本当に残念ですわ」

「…む、むぅ…!」

 ちょうどそこで、バスが学校前のバス停の一つ前に停車する。

 ラピラリはそこで見せびらかすようなため息をつきながら、

「…それじゃぁ、わたくしはこれで失礼しますわ。あなたにはもはや、私をどうにかしてでも負かしてやろうという意思もないのですわね」

そう言い、ラピラリはバスの出口へと歩き出そうとする。

 …だが、その歩みは一歩とないうちに止められた。

「ラピラリぃ。好き放題言ってくれるじゃない…」

「…」

 手だ。

 るいの右手が、かなり力強くラピラリの右手を掴んでいる。

 それによって彼女は進めなくなるのだが、るいに背を向けたまま、ラピラリは何故かほくそ笑む。

「…いくら私でもね。[有波]関連のこと全部ぐらいは完全に分かってるわ。だから、ラピラリ」

 るいは腕を引いてラピラリを振り向かせる。

「いいじゃない!勝負よ!今日の授業でどっちがより多く手を上げて発言して、質問に答えられるか、競ってやろうじゃない!私の力、みせてあげるわよ!」

 指を突きつけ、るいはラピラリに宣言する。

 それを受けた彼女は笑う。

「…ふふ。それは頼もしいですわ。せいぜい、回答に詰まってわたくしに補足なんてされないように」

「ふん、むしろ私がしてやるわよっ」

 そう言って、るいは戦意を感じる力強い目でラピラリを見る。

 彼女はにやにやしたまま、るいを見返す。

 そんな中で、バスは再発進していった。


▽ー▽


 [フォレスト・アラヤ総合学園]とは、この都市の二割の面積を占める巨大な学園だ。

 この学園は、中央にある九つの塔を中心に、全部で八つの区画に分けられるのだが、その区画一つ一つに大型校舎が存在する。内部の教室の種類は対応する学科によってかなり異なっており、るいたちの特殊服飾学科においては裁縫のための教室が多い。

 そんな校舎に加え、体育館や講堂、運動場、学内の森林、その他様々な区画を含めて、この学園は[フォレスト・アラヤ]の総面積、その二割を占めているのだった。

 当然、そこに関わる者は非常に多くなり、平時はかなり賑わっている。だが、現在は連休のため、人の姿はまばらだ。

 一応、部活動などに来ている者の姿は上から見ればある程度確認できるが、総面積がかなりある都合、全体で見ればいないに等しい。それに、建物の影に隠れ、他の者には確認しがたい。

 個々人の認識上は、自分たち以外には誰もいないように思えるだろう。

 そんな中、学園の左下、特殊服飾学科を含む区画の校舎の一教室で、その補習授業は開始されようとしていた。

「この補修授業は基礎的内容だし、今回は専門の先生じゃなく、私が担当するわね」

 授業開始のチャイムと共にそう言い、本来の担当教員とは違う女性は教室の前の教壇に立った。

 腕や足に[ユレオサエ]はなく、頭には電球らしきものがついている。どうやら、機械系の[確定存在者]のようだ。

 恰好は、黒を基調としたインナースーツの上に、この学校のセーラー制服をジャンパー型に改造したものを羽織り、首には白のスカーフ。腰横に三つのひだのあるスカートの一部を吊り下げてあるという、少し変わったものである。

 そんな彼女は教室を見回す。

 前側、つまり教壇に近い席は五つほど埋まっており、そこには生徒が座っている。所属学科はまばらであるが、これは今回の内容がどの学科も共通で習う内容であるため、学科関係なく集められているからだ。

 いるのはいずれも[確定存在者]。

 青年と背の低い少女の二人はやる気のようだが、他三人は頬杖をついて面倒くさそうにしている。さらに、そのうち一人は眠りこけていた。

「…前側は割と普通の補習勢の様子のようだけど」

 そう言って、女性…アンペアは教室の後ろの方に視線を移す。

 そこには、女性方見て右にるい、その左隣にラピラリが座っていた。

(…るい、今度は何の勝負、しかけられたの?)

 アンペアの見る先で、るいはラピラリを、やたらと力のこもった目線で見ている。

 負けてたまるかと言う、闘志を感じる目だ。

 そしてそれは、るいとラピラリの担任でもあるアンペアにとっては見慣れたものである。

(いつも通りのようね)

 普段からるいとラピラリはアンペアの見ている前でよく勝負している。

 アンペアは最初、ラピラリから急に、高頻度でるいに仕掛けられるようになったときは驚き、るいが怒ったようであるために止めにも入っていた。だが、今となっては二人の関係性をある程度捉えられたこともあり、特段何かを思うことも対応することもない。

(仲を悪化させるようなものじゃないみたいだし。むしろ、あんなに勝負を続けられるのは仲が悪くないからだろうし)

 実際、アンペアの思う通り、ラピラリによく怒るるいではあるが、別にラピラリを嫌っているわけではない。  

 特段好きと言うわけでもないが、一応友達のような関係は築いている。彼女に話しかけられれば普通に応じるし、場合によっては一緒に課題に取り組むこともある。

 仲が良い、というと少し語弊があるかもしれないが、悪くないことは確実に言える。

 それを理解しているからこそ、見守ることをアンペアは選択していた。

(…さて)

 アンペアはニヤニヤしてるいを見ているラピラリを見る。

(わざわざ出なくていい補習に出てきて。ここで何の勝負をするのかな?)

 ある程度の予想はついたアンペアであるが、提案主であろうラピラリに聞いておくことにする。

 彼女はあまり周りに迷惑はかける達ではない上、邪魔になる勝負はしかけないだろうが、一応確認しておくのだ。

「ラピラリ。今日はまた、なんの勝負をするの?」

 アンペアの言葉に、ラピラリは視線をるいからアンペアの方へ動かす。

 そして、にっこりと笑い、

「…先生、簡単なことですわ。今日の授業でどれだけ先生からの質問に正しく答えられるか。その数を競うのが、今回の内容ですわ」

「へぇ」

(成績が芳しくないるいには、いい勝負ね)

 勉強に関する競争は、成績の悪い者にとってはモチベーションを上げてくれる分、都合がいいだろう。

(ラピラリって度々るいにプラスになる勝負をしかけるわよねぇ)

 などとアンペアは思いつつ、ラピラリの言葉を聞く。

「わたくしたちは回答勝負をする。そういうわけで、どんどん質問してください。るいも自信はあるようですし。後、必要なわたくしを授業進行に使ってくださいまし。わたくしたちのために、授業時間が多少れてしまっていますし」

 確かに、アンペアがるいとラピラリの様子を見て話しかけているだけで、二分程は無駄になっている。

 その詫びも兼ね、好成績の優等生が授業への協力を申し出ているのだ。

(うん。この授業内容は私の担当分野じゃなくて上手くいかないところもあるだろうし、ラピラリの協力はありがたいわ)

 断る理由はない。

「そうね。じゃぁ、場合によってはラピラリに協力してもらいましょう」

 そう言った後、アンペアはるいに視線を移す。

「るい?頑張ってね?ちゃんとこの授業で理解して、追試でいい点とれるように」

「…後、わたくしとの勝負にも勝てるように、ですわよ」

 若干被せるようにラピラリはるいに言う。

「…分かってるわよ、先生。追試はとるし、ラピラリにも勝つ」

 るいはラピラリを目を少し吊り上げて見、指先を突きつける。

「…ラピラリ。最近負けてばかりだけど、今日は勝ってやるわ…!」

「ふふっ、その息ですわ」

 言って、ラピラリは嬉しそうに笑う。

 そんな彼女らを他の生徒が、なんなんだこいつら、とでも言いたげな視線を向ける中、アンペアは言う。

「それじゃぁ、始めましょうか。理科基礎の授業を…世界を構成するもの、[有波]についての部分を」

 そうして、補習授業は開始される。

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