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[第二章:変わる日常、潜む者]その1

 夜の[アグラーヤ]において、[幻想森モリ―シャ]に分類される地域は、空にある二つの月に照らされる。

 鮮やかな輝きと揺らぎのあるそこは、澄んだ夜の海に勝るとも劣らない美しさを発揮している。

 そんな、この星においてどこにでもある光景の中、進んでいくものがあった。

 形は少し角ばっているものの、紡錘形に近い。前後に長く尖った胴体部に、後方に推進機構のついた縦長の部位が四つ見られる。

 胴体中央には、滑空を目的とした大きな翼がついていた。

 前後に長く、横に短い。そして、胴体上部にはレドームらしき形状。

 これらの特徴を持つ航空艦はこう呼ばれている。

 [箱舟レダーヤ]と。

 各都市間を、[幻想森モリ―シャ]や、通常の空を道として往くその船は、この星において広く使われる都市間の移動手段であり、物資輸送の要だ。

 現在、[幻想森モリ―シャ]の多数発生により地面や海は相当な面積が減り、大陸間の繋がりも途中に[モリ―シャ]があることで長距離に渡って断たれている。

 そのため、都市間の陸路の大半はすぐに行き止まりになるなど、使い物にならなかった。

 海路は使えなくはないが、[モリ―シャ]の存在で海と接している地は少ない。故に、どこでも利用できるわけではない。

 そう言った事情から、現在安定して移動、輸送ができるのは空路のみであり、そこを往く箱舟として、[箱舟レダーヤ]は開発、建造が行われていた。

 そして、この種の航空艦は多くのものを一度に運ぶため、大半は巨大にできている。

 艦種によっては、中に居住することさえできた。

 ただ、今[幻想森モリ―シャ]を行く航空艦は、[箱舟レダーヤ]にしては小さい。

 普通の用途のものなら、この艦より二回りは大きいはずだ。にも関わらず、この不自然な大きさには、怪しさがあった。

 そして何より怪しいのは、その航空艦は、通常では視認が難しい状態にあることであった。

 艦の表面はぼやけた靄のような、液体のようなもので覆われており、艦表面の全体にまで広がるそれはゆっくりと、[モリ―シャ]の透けた空間と同化、あるいは混ざるような様子を見せている。

 その動きは、容器に入った液体の上部が濁ることで下に沈んだ物体を隠すように、内側にある小型艦を完璧ではないもののそれなり以上に隠し、一目で気づくことはできないようにしていた。

 そのような状態を、[変動範囲値]25以上が算出される透けた液体を散布して艦体表面に付着させて起こすこれこそ、変化の幅が大きい時の[有波]の性質を利用した、風景同化迷彩。常に不安定で見た目の揺れもある[幻想森モリ―シャ]だからこそ、隠蔽の際の揺らぎも見づらく、かなり質の高い隠蔽を実現するものである。

 そんな迷彩が施された小型の航空艦が、静かに[幻想森モリ―シャ]を進んでいく。

 …そして幾らかの時間が経ったとき、その艦は一つの都市にたどり着く。

「…」

 [フォレスト・アラヤ]。そこに幾つかある空中艦が離発着するための港の端に、その艦は静かに停泊する。

 ついで、その側面に合った壁が開き、中から二人の人影がでてくる。

「…よくもまぁ、こんなところまで逃げてきたものだ」

 そう言うのは、流線形の四肢と頭部を持った、まさにロボットといった出で立ちの男だ。

 バイザー型の頭部をしたそれは、履帯のついた足で静かに港の滑走路に降り立つ。

 それに続くのは、背の低い少女だ。

「…」

 機械の角を二本覗かせ、白の短髪を夜風に靡かせた彼女は、男の後ろを歩きながら呟く。

「…そんなに、殺したい?」

「…ああ。勿論だ」

 少女の言葉に、男は頷く。

 何を殺したいのかと、少女は言っていない。

 しかし、彼女が言わんとすることは、男には分かっているようであった。

「…俺は必ず殺す。今までも、これからも。奴らを許すことはない」

「…そう。不思議なもの」

 少女はぼうっとした様子で、怒りの籠った男の言葉にそう返した。

「…さて。そろそろ迎えのはずだが…?」

「言っていたら来た。あそこを見る」

 少女の言葉に、男は彼女が指さす方を見る。

 すると、小型の車が夜中にも関わらずライト一つ付けずに向かって来るのが見える。

 二人が見ている間に車は彼らの目の前に来、停止。すぐに運転席の扉が開き、一人の男が姿を現す。

「これはどうも、ブイラド。それにタイプス」

 二人を出迎えたのは、少しくたびれた格好をした細身の中年の男だ。

 服のところどころが縮れているため、よりくたびれた印象の彼は、笑顔で二人に対応する。

「よく来てくれたね、ええ」

「ああ」

「うん」

 ブイラドと呼ばれた男は低い声で短く、タイプスと呼ばれた方は機械的に返答する。

「君たちが何をしに来たのかは聞いているよ。…アレを追ってきたんだろう?」

「ああ、そうだ」

「なら、さっそく僕らの家へ行こう。…すぐにでも、探すのを始めよう。なぁに、昼間先走った奴がすぐに見つけられたんだ、なんとかなるさ。ええ」

「だと、いいな」

 男はそう言う。

 それから彼と少女は中年の男に促され、車に乗り込み、その場を静かに去る。

 そうして、港に不法侵入した彼らはすぐ、闇に紛れて姿を消すのだった。

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