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ハズレ王子 Ⅱ 〜輪廻の輪から外れた俺は転生させられて王子になる〜  作者: さつき けい


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18/65

18・向かうこと


「すみません、至急のお願いに来ました」


俺はヤーガスア領主の執務室に入る。


突然の訪問に部屋がざわつく。


「コリルか。 今朝とは別件か?」


「ええ、何度も申し訳ありません」


俺は視線を周りに向け、人払いを頼む。


ザッジが眉を寄せた顔でブツブツ言いながら腰を浮かせた。


「こちらへ」


カッチリとした執事服の老人がするりと近寄って来て、俺たちを奥の小部屋に案内する。


ザッジが悔しそうに顔を歪めていた。



 

 どうやら魔道具で防御結界や盗聴防止が施された部屋のようだ。


「体調が悪いそうだな。 顔色が良くないぞ」


そんなことは分かってる。


「今はそれどころではないので」


先ほどの執事が自らお茶を運んで来た。


俺は自分の護衛もすべて部屋から出し、領主にも出来るだけ人を減らしてもらう。


「ツデ国の話を訊きたいのですが」


俺の言葉に義大叔父おおおじは、むうっと唸った。


「今さら、もう遅い」


そうか、そうなのか。




「私はツデ国の女王から、あの娘を預かった」


それだけだと言う。 


「何故、イロエストは従属国のツデに軍を送らなかったのですか?」 


「いや、何度か送っているぞ」


イロエストは魔獣の被害に遭っているツデ国から度々救援を求められ、何度も遠征隊を送り込んでいた。


しかし、たいした交易のない、言わばイロエストにとって、あまり利益の無い国。


軍隊といっても少人数しか出さなかった。 


周囲が湿地帯や森という足場の悪さも兵士たちには嫌がられ、最近では食い詰めた平民などを募集して、僅かな兵士と共に向かわせたという。


「そんなのがツデ国で闘っていると思いますか?」


黙り込んだ義大叔父おおおじも「無理だろう」と分かっているのだ。




 俺はギリッと唇を噛む。


「俺に行かせてください」


義大叔父おおおじは驚いて目を剥く。


「馬鹿を言うな!。


ブガタリアの王子であるお前を行かせられるものか。


ツデとブガタリアは国交もないのだぞ」


「分かっています」


だから。


「イロエストの依頼としてです。


従属国ツデの、まだ幼い王女であるマルマーリア王女殿下からの嘆願を受けた、イロエストの心優しい王弟殿下からのご依頼があった。


それで動きます」


義大叔父おおおじは考え込む。


「危険な魔獣だ」


俺はニヤリと口元を歪める。


「魔獣のことなら、ブガタリアにお任せください」


そうだ、相手は国ではない。


魔獣なのだ。


それなら何とかなる、かもしれない。




「本当か?」


「ダメなら、出来る限りのことをして戻って来ます」


一度目を閉じ、カッと目を見開いた義大叔父おおおじは「やってみろ」と言った。 


俺が立ち上がると、


「ただし、宴までには戻って来い」


と言う。


「設営のための人出は残して行きますよ」


パルレイクさんや兵士ではない者はここに残る。


もし俺に何かあれば、宴はヴェルバート兄にお願いするつもりだ。


グリフォンならひとっ飛びでここまで来られる。


「そういうことではないのだが」


義大叔父おおおじは困った顔で頭を掻いた。


「正式な文書を作らせよう。 上手くいけば必ず褒賞を授ける」


それが大国イロエストの意地なのだろう。


俺はニッコリ笑って頷いた。




 部屋に戻ると、エオジさんや酪農場から兵士長など、責任者が集まって来ている。


マルはピアと侍女付きで別室にいるそうだ。


 俺はギディが用意した椅子に座る。


全員がザッと整列して俺に礼を取った。


「出陣会議だと伺いましたが」


兵士長は壮年のバッキバキの脳筋だ。


早くもうれしそうな顔をしている。


「ああ。 この中に北方面の魔獣に詳しい者はいるか」


「北なら分かりますよ」


数年前に北から流れてきた兵士がいた。


「魔獣の生態を出来るだけ詳しく教えてくれ」


「分かりました」


その兵士を中心に会議が始まる。




 ギディとクオ兄がお茶を出したり、軽食を用意したりと忙しい。


東の砦から伝令が戻り、出発の準備を始めると返事が来た。


次の伝令は黒鴉の魔鳥だ。


合流地点を書いた紙を持たせ、夜明けと共に再び放つ。


「一日でも早く移動したい。


ここから北に向かい、途中で東の砦の部隊と合流。


さらに砦から兵士を増員し、ここにも残す」


他国からどんな奴らが集まって来るか分からない。


俺たち精鋭部隊が出た後、ピアやマルに何かあっては困る。


小赤はパルレイクさんに任せた。




 翌朝の出立の予定を組み、全員に準備と心構えをさせる。


「集合は酪農場前。 出発は夜明けと同時。


ブガタリアに手紙を送る者は今日中に書いておけ」


「はいっ」


「解散!」


バタバタと兵士たちが部屋を出て行く。


すでに真夜中。


俺の眠気は飛んでいるが、気を張っているだけだと分かる。


短時間でも横になって休むことにした。




 明かりを消した寝室に誰かが入って来る。


「コリル」


俺は子供の頃から薄闇に目が慣れているので、ピアの姿はハッキリと見えた。


「ピア、どうした?」


俺は横になったまま、ベッドの脇に座り込んだ彼女に声を掛けた。


細かい表情までは分からないが心配して来てくれたのは分かる。


「今から向かっても遅いかもしれませんよ」


数日前に魔獣に襲われたとしたら、屍しか残っていないかもしれない。


「そうだね」


それでも、マルは帰りたがっていた。


皆んなに迷惑をかけて、怒られて、国に帰されるのを願っていた。




「護衛がいない王女と聞いて、すぐに気がつくべきだった」


絶対にそんなことはあり得ない。


国が滅ばない限り。 


「もう二度とヤーガスアのような国を出したくない」


マルの帰る場所を失くしてはいけない。


「コリル、あなたのせいでは」


「分かってる。 心配ばかりかけて、ごめん」


ピアの頬に手を伸ばす。

 

その手が彼女の涙に触れるまえにしっかりと握られた。


彼女の息が聞こえ、俺の唇に柔らかい唇が長く重なる。


笑顔にまだ少し涙が残っていた。


「ご武運を」


それはブガタリアの女性が恋人を送り出す言葉。


「ああ、すぐ戻る」


それが脳筋たちの愛の言葉。


俺は再び目を閉じ、彼女の後ろ姿は見なかった。




 酪農場から夜明けと同時にゴゴゴが三十体、出発する。


「ツンツン、ごめんな」


キュッ


今回、俺はチィチィを置いて来た。


領主館の裏口で、ピアの護衛にとパルレイクさんに預けたのだ。


【ダイジョブ、スグ、アエル】


うん、そうだね。


グルル グルッ


キッ キー


ガー ガー


気合い十分のグロンはミツキとムネキにも気合いを入れている。


ゴーフ


【マカセテ】


ゼフはいつもより載せている荷物が少ない。


走る気満々だ。


食糧係の御者を振り落とすなよ。




 一旦、砦に一番近い村に入る。


俺たちの班は、留守番のリドイさんの代わりに東の部族の諜報員が案内役として加わる。


「さすが殿下の部隊はゴゴゴから違いますね」


感心してるのか飽きれているのか、イマイチ分からん。


 ブガタリアはここから西になるが、今回は北のツデへ走る。


班ごとに砦から来る兵士を道案内に一人加え、ツデ国との国境の町を目指す。


俺はツデ国王に宛てた王弟殿下の書状を持っているので、そこで入国の手続きになる。


 砦の兵士たちの一部はそのまま領主館と酪農場へと向かってもらう。


「殿下、ご武運を!」


女性兵士たちの激励を受ける。


「ああ、すぐ戻る。 お前たちも気を付けてくれ」


礼を取り、兵士たちは二手に別れた。




 ここから班ごとにバラバラに出発し、国境の町で再び合流となる。


「追い付かないものは置いて行く」


「おうっ!」


すぐに出る隊もあれば、十分に準備に時間を取る者もいる。


「行こう」


俺たちは軽く休憩を取った後に出発した。




 森の中の道を進む。


「クオ兄」


俺はグロンをクオ兄が騎乗するミツキに近づける。


「ごめんなさい、戦闘は苦手なのに」


「いや、いいんだ。 戦闘になるとは限らないからな」


薄暗い中、小さな魔道具のカンテラがゴゴゴの行く先を照らす。


「武力以外のことだって必要になるかもしれないだろう?」


「うん」


本当は俺が一番助かる。


やっぱり食事が取れないのは困るんだ。


食べ盛りだしね、俺。



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