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ハズレ王子 Ⅱ 〜輪廻の輪から外れた俺は転生させられて王子になる〜  作者: さつき けい


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16・情けないこと


 ヤーガスアは大国イロエストに操られ、ブガタリアの王族である俺を誘拐しようとした。


それが失敗に終わると、今度はイロエストの王弟、現在のヤーガスア領主と一緒にブガタリアに乗り込んで来たのだ。


「その時、面会したヤーガスア王族最後の王女の名前が『タラリヤ』だ」


実際には魔道具の人形だったわけだが。


被害者は俺自身だ。


忘れるもんか。


クオ兄が眉を寄せて不快な顔をすると、何故か侍女の女性は肩を落とした。




「そんなつもりはありませんでした。


ただ、名前を貸して欲しいと言われ、渋々許可しただけなのです」


俺は目を閉じる。


どうしても訊いておかなければならないことがある。


返事によっては外交問題になるかもしれない。


 俺は改めてじっと彼女を見つめる。


「あなたは、ヤーガスア王族の一人なのですか?」


血の繋がりがあるのかどうか。


それが問題。


「いいえ!、あ、でも、王族では、あります」


養女なのだそうだ。


名前だけの王族か。


 ヤーガスアの古い部族の娘。


ある日、国の偉い人がやって来て、否応なく契約を結ばされたらしい。


何人かの娘たちが王宮に呼ばれて教育を受け、その中から誰かが王族として嫁がされることになっていたという。


ああ、俺がヤーガスアを継ぐことになっていたら、この女性を充てがう予定だったということか。


「分かりました」


俺はカリマ母さんの姿を思い出して、胸が詰まる。





 そして、苦い気持ちのまま、立ち上がった。


「しばらくの間、貴女を拘束させていただく。


貴女が何故、ツデ国にいたのか等、まだ訊きたいことがあるので。


その間はマルマーリア姫とは離れていてもらう」


「はい」


少しホッとしたような、小さな声が答える。


「エオジさん。 そちらの部屋に彼女を隔離。


騎士たちは全員こっちの部屋に移動。


明日にでも領主に事情を話して、酪農場のほうへ移す」


ガチムチ騎士たちにはこっちの護衛部屋は狭いだろうが、一晩だけ我慢してもらおう。


エオジさんが頷く。


女性兵士二人が付き添い、侍女はエオジさんと一緒に別の部屋へと移って行った。




 騎士たちのことはズキ兄に任せ、俺はギディと共に寝室に入る。


とっとと身に付けた服を脱ぎ捨てて浴室に向かう。


頭から水を浴び、熱くなった身体を冷やす。


 彼女も被害者だ。


それは分かっている。


良識ある誰かが、もしかしたら彼女の本当の親か身内がツデ国に逃したのだろう。


年齢はおそらく二十代。


礼儀を身に付けた女性ならツデ国でも貴重だろうから、姫の侍女になったのだと簡単に想像出来る。


 ブガタリアとヤーガスアの因縁は深い。


ブガタリアはヤーガスアを嫌い、ヤーガスアはブガタリアを恨んでいる。


お互いに相手のほうが悪いと堂々巡りを繰り返していた。


だけど、ヤーガスアという国はもう無い。


後ろ盾を失くした女性。


俺が同じ立場だったなら、いつバレるかと思うと怖くて、毎日怯えて過ごすだろう。




 ドンドンと、扉を叩く音がする。


「コリル様」


ギディが自分が濡れるのも構わず入って来て、俺を浴室から引き摺り出す。


どうやら長時間、水を浴びていたらしい。


「コリル様のせいではありませんよ」


大きな布を俺に被せ、ゴシゴシと拭き始める。


「ツンツンたちが心配するので、そのまま寝てください」


髪もまだしっとりしたままの俺を、ギディはベッドに放り込んだ。


「うん」


枕に顔を埋め、くぐもった声で返事をする。


キュルン


チィチィ


身体の上に軽い重みを感じると、俺は何故か安心した。


ありがとう、ギディ、ツンツン、チィ……。


グウ。




 翌朝、目が覚めたら裸だった。


昨夜は下着をつけるのもしんどかったんだと気付く。


ツンツンとチィチィが俺の毛布の上に乗って寝ている。


その滑らかな身体を撫でると、眼球の無いツンツンが首を上げた。


「ごめん、起こしたか」


【ダイジョブ、コリルモ、ダイジョブ?】


「うん、大丈夫だ」


そうだ。 俺はまだブガタリアの王族なんだ。


しっかりしなくちゃ。


 着替えて、顔を洗って、ツンツンたちを呼び寄せて寝室を出る。


護衛用のベッドのある部屋からあぶれた兵士たちが床に転がっていた。


それを避けながら歩き、俺は廊下に出てたところでエオジさんとギディに捕まる。


「ギディ、マルはどうした」


「まだ眠っておいでますから」


嘘つけ。 俺が無茶しないか気になって抜けて来たな。


ゼッタイ引かないって顔してるから、何を言っても無駄だろうな。




「領主の別館か、酪農場か。 どっちを先に行く?」


エオジさんの言葉に、俺は「領主のところだ」と答えた。


 庭を抜ける別館への道を歩いていると、何故かザッジの姿があった。


別館の窓を覗き込むように見ている。


「こんなところで何をしている」


機嫌の悪い俺の声に飛び上がるように振り向いた。


「こ、コリル様、おはようございます」


「お前に愛称で呼ぶ許可を与えた記憶はない」


ブガタリアの血筋か、十七歳になった俺はザッジよりも上背がある。


しかも、今は首手足と胴回りに詰め物をしているから、特に身体が大きく見えるはずだ。


「申し訳ございません!、殿下」


顔を赤くしたり青くしたりしながら、ザッジは逃げて行った。


アイツが見ていた窓を確認して、後で注意しておこう。




 別館の玄関で取り次ぎを頼む。


朝食を誘われて食堂へ案内された。


「何かあったのか?」


細長い、二十人くらい座れる食卓の上座らしい右端に領主夫婦が向かい合って座っていた。


俺は領主の隣に座る。


「お食事をしながらでよろしいかしら」


俺がシェーサイル妃の言葉に「ええ」と頷くと、食事が運ばれて来る。


 エオジさんたち護衛騎士は左端に固まって立っている。


いつの間にかギディが給仕を手伝っていた。


配膳を確認し終えたピアが領主夫人の隣に座る。


俺の対面だ。


「おはよう、ピア嬢」


「おはようございます、殿下」


軽く視線を絡ませて微笑む。


うん、今日もピアはステキだ。




「マルマーリア姫の侍女の件です」


話を切り出した俺の後ろにギディが付いた。


イロエストの一般的な料理というのはよく分からないが、義大叔父おおおじがクオ兄を引き抜こうとするくらいだから想像はつく。


「ふむ、何か問題があったか?」


ギディが配膳される料理をさり気なく片付けていく。


「彼女はブガタリアで預かります」


俺は結論から伝える。


「何故だ」


義大叔父おおおじは隣に座る俺に顔を向けた。


「ご存知だったんでしょう?。


彼女がヤーガスアの『タラリヤ王女』だと」


「それが何か問題があるのか?」


やっぱり知ってやがった。


ギディが彼女の正体を知っていたのも、領主が誰かを使って伝えたのだろう。


俺の腹の中が燃えるように熱くなる。


ああ、三年前、俺がヤーガスアの暴徒に刺された傷が。




 ほとんど手を付けていない料理が片付けられる。


ギディが俺から離れ、エオジさんに何か囁いているのが見えた。


俺はチラリとピアを見る。


シェーサイル妃を優先して、こちらには興味なさそうにしてくれていた。


俺もここで争う気はない。


「彼女はブガタリアにとっては罪人です。


放っておくと、またヤーガスアの残党にかつがれる恐れがある。


だから、ブガタリアに引き渡しを要求します」


ツデ国というのはよく分からないが、イロエストの従属国なら王弟殿下に許可さえもらえば良いだろう。


「もし引き渡しに時間が必要なら、こちらにいる間だけでも尋問の許可をください」


ギディが自分では俺を抑えられないと判断したのか、いつの間にか俺の後ろにエオジさんが立っていた。


「手荒なことはするなよ」


「もちろん、そんなことしません」


「ならば許可しよう。


一応、あの二人についてはヤーガスア領に居る間はそちらに任せることになっておるしな」


「ありがとうございます」


俺はデザートの果物にさえ手を出さずに立ち上がる。


シェーサイル妃とピアにも挨拶をして食堂を出た。


さて、次はどこだっけ。



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