裏話 元勇者のTS少女が話を聞いたり罪悪感を感じたりする話
教室の中。廉次が手紙を読み、廊下へと出ていくのが見えた。
なので、周囲にいた女友達に一言声をかけ、立ち上がる。そして廉次の後をつけることにして――。
「……」
思う。あの手紙……雰囲気から見るに、恐らく告白の呼び出しか、それに準ずるものだ。なんとなくそう感じた。証拠はないけど直感で。勇者パワーだ。
そして、そうとなれば私がするべきことは一つしかない。趣味が悪いと言われようが、この目で確認して顛末を見届ける。フリとはいえ付き合っている以上、万が一にも廉次がその女を受け入れるとは思わないけど、それでも。
「……」
……というか、付き合ってると周知したその日のうちに呼び出しとか何考えてるのかな? こうやって出歯亀してる私も性格悪いけど、正直どうかと思うよ……。
「……まあ」
本当に付き合ってるわけじゃないんだけど。
「……はぁ」
情けない現状に溜息をつきつつ、廉次の後ろを歩く。
廉次も廉次だ。あんなの無視すればいいのに。フリでも恋人がいる以上、女のあからさまな呼び出しなんて無視しても誰も悪く言わない。恋人がいる相手に告白する方が悪いのだから。
………………とはいえ、そういうとこも廉次か。
そう思う。律儀なとこも廉次のいいところの一つだ。それは否定したくない。
『来てくれたんですね』
『……ああ』
そんなこんなを考えているうちに、廉次はその女と向き合っていた。屋上の真ん中のところ。私はその声が聞こえるあたりに腰を下ろす。屋上の扉の横にある窓が少し開いていたので顔近づけた。
「……あの女」
見覚えがある。去年廉次と一緒に日直をしていた女だ。
そういえば、廉次と会話して嬉しそうに笑っていたような。当時はあまり気にしてなかったけれど……もしかしたら。
『一条さんとつき合ってると聞きました』
『……ああ』
廉次と女の声。
廉次のことは信じているけれど、それでも胸の辺りがモヤモヤとする。
『……それで、あなたが一条さんのどんなところが好きか、教えて欲しいんです』
……ん?
私のどんなところが好きか?
一瞬発言の意味が分からなくて悩み……そしてなんとなく理解する。
この女、もしかしてまだ諦めてないんだろうか。だから、廉次の好みを調べようとしている?
そういえば、前より痩せている気がする。努力したのかもしれない。ダイエットは簡単じゃないと聞いた。とても苦しいと。それを成し遂げるくらい廉次のことが好きだと言うのなら――。
「……」
苛立ちと、少しの感心。
廉次に手を出そうとしているのは腹が立つけど、それでも頑張ったことまでは否定するつもりはない。
……腹は立つけど。
「……」
でも、気になる。
この質問に対し、廉次はどう答えるのか。
――廉次は、私のどんなところが好きなんだろう。
好かれているのは理解している。それが友情か恋愛かはまだ分からないけれど、それでも好意があることは間違いない。
『……特に、無いな』
……え?
しかし、廉次の答えはそれで……一瞬目の前が真っ暗になる。
特にない? じゃあ私のこと好きじゃないの?
……そんな、そんなのって。
じわりと目の奥が熱くなる。悲しくて、苦しい。信じたくない。
足から力が抜けて、膝から崩れ落ちそうになって――。
『理由なんてない。強いて言うなら、カナメがカナメだから俺は好きになった』
――でも、そんな声が聞こえて来た。
『……答えになってないかもしれないけど、それが全てだよ』
……それは……それは?
私が私だから? 好きになった?
……なんだかすごいこと言われてない?
私が私だからって……これ以上ないくらい肯定されているのでは?
「……」
思い出す。似たような言葉を聞いたことがあった。
帰って来たばかりの頃に。変わった私の姿を見て、それでも廉次は私をカナメとして扱ってくれた。
カナメはカナメだから、と。姿が変わっても私は私だと。廉次はそう言ってくれて。
あの時は認めてもらえた喜びしかなかったけれど……。
……もしかして、あの言葉は……とてつもない重みがあったのでは?
……胸の辺りが暖かい。
『――去年はありがとうございました。廉次君と一緒に日直するのは楽しかったです』
「……あ」
気付く。
あの女がこちらに向けて歩いてくる。
咄嗟に魔法を使って姿を隠した。
壁際に立ち、目の前を女が通り過ぎるのを待つ。
……扉が開き、すれ違う。その頬にいくつもの雫が見えた。
「……」
……声を押し殺して階段を下りていく姿を見送る。
そんな後姿を見ていると、複雑な思いが湧きだしてきて。
「……困ったな」
……喜びがある。廉次が私を肯定してくれた喜び。
私が私だからと言ってくれたこと。かつての幸いを思い出したこと。
でも、それと同時に少しの罪悪感もあって。
だって、あの女は確かに廉次のことが好きだったんだろうから。
「……誠実じゃなかったかも」
いまさらそんなことを思う。あの女は失恋した。私と廉次が付き合ったからだ。
……しかし、それは本当じゃない。どこまで行ってもフリでしかなかった。
……嘘で人の想いを否定してしまって、それが後ろめたい。
「……」
譲る気はない。廉次の彼女は私だ。
今はフリだったとしても、必ず本当にする。
……でも。
……喜びと、罪悪感。
このままじゃいけないと、そう思った。




