元勇者のTS少女の親友が周知したり呼び出されたりする話
翌日、朝。
いつものように登校して、席に座った頃。
「なんだ、やっぱ付き合ってたのかよ」
「……ああ」
隣の席に座るクラスメイトにカナメと付き合っている旨を伝える。
昨日まではめんどくさかった奴だが、今日に限っては自然とその話題に移れるのでありがたい。……自分から実は付き合ってるんだ、なんて言い辛いわけで。
「……すまんな。カナメと相談して隠すことにしてたんだ」
「ほー」
昨日カナメと話し合って、とりあえず、俺とカナメが付き合っていると周知することになった。
付き合ってるフリをするのなら、まずはこれだ。カナメの友達との約束が何なのかは分からないが、周囲に知らせないのであれば、わざわざフリをする必要がない。
「なんでまた隠してたんだ?」
「……それは、出来れば聞かないでくれると助かる」
都合の悪いことは誤魔化しつつ、付き合ってると言う事実だけを伝える。
とりあえず、今話している内容がクラスに広まってくれれば当座の目標は達成できるだろう。
……おそらく、カナメに告白する男も減るはずだ。
「……ま、いいか。これで諦めもつく」
「……うん?」
と、クラスメイトが小さく呟く。
よく聞き取れず、何を言ったのか少し気になって――。
「なんでもない。ま、おめでとうと言っとくよ」
「……ありがとう」
――しかし、聞く前に話を打ち切られてしまった。
……一体なんだったのやら。
◆
その日の授業は何事もなく終わった。
そして、帰ろうと机から教科書を取り出し――ふと気付く。机の中に封筒が入っている。
なんだろうと開けて見て見ると、呼び出しの手紙だった。
丸っこい女子の字で書かれていて、放課後に屋上まで来て欲しいとのこと。
――これは一体?
「……」
どうしたものかと首を傾げる。
まるで告白の手紙みたいだ。
……しかし、今日付き合ってると言ったばかりなんだが。
「……」
なんとなくカナメの方を見る。
クラスの女子と話をしているようだった。
「……」
……まあ、無視するわけにもいかないか。
席を立ち、屋上へ向かうことにした。
◆
屋上への扉を開けると、そこにはもう先客がいた。
顔を見ると見覚えがある。去年同じクラスだった女子だ。出席番号が同じで、日直を一緒にする機会が多かったように思う。
「来てくれたんですね」
「……ああ」
返事をしつつ、一体なんの用かと近づく。
なんとなく、彼女の姿に違和感を覚え――。
――ああ、と気付く。少し瘦せた。
去年はもう少しぽっちゃりとしていたような気がする。
「呼び出してしまってすみません。一つ聞きたいことがあったんです」
「……なんだ?」
数メートル離れたところで立ち止まる。
「一条さんとつき合ってると聞きました」
「……ああ」
「……それで、あなたが一条さんのどんなところが好きか、教えて欲しいんです」
………………なに?
予想してなかった言葉に混乱する。
……カナメの、どんなところが好きか?
「……なぜ、そんなことを?」
わけがわからない。何故そんなことを?
ここに来るまでに何の話かと色々考えていたけれど、これは全く想定していなかった。
「理由は言えません。でも、できれば教えて欲しいんです」
「……」
……なんなのだろうか。
思わず頭を掻きつつ――。
――まあ、いいか
そう思う。
彼女はわざわざ呼び出してまで質問しているわけで。真面目に答えた方がいいか、と、そう思い頭を切り替える。
「……」
……とはいえ、カナメのどんなところが好きか、ねえ。
改めて考えると難しいことだった。
可愛いと思うし、目の色は宝石みたいだと思う。髪は綺麗だし、笑顔は見ているだけで癒される。長年付き合っているから気安いし、一緒に居て全く苦にならない。
思い出もあるし、情もある。借りも貸しも沢山あって、どちらが何を貸したかなんて覚えていないほどだ。
だから、どこが好きかと言うと……。
「……特に、無いな」
「え?」
「理由なんてない。強いて言うなら、カナメがカナメだから俺は好きになった」
結局、そういうことになるのだと思う。
ここが好き、なんて一言で言い表せるような仲でもない。
特にカナメが異世界から帰ってきてからは、色んな事情が錯綜して訳が分からなくなっている。俺もここ数か月随分と悩んだものだ。
……だから。
「……答えになってないかもしれないけど、それが全てだよ」
「……そうですか」
彼女の望む答えではないと思う。
我ながら訳の分からないことを言っていると思った。
――しかし。
「廉次君」
「……ああ」
「真剣に答えてくれてありがとうございます」
俯いていた彼女の顔が上がる。
その顔には笑顔が浮かんでいた。
「この度はおめでとうございます」
「……ああ、ありがとう」
清々しささえ感じる顔に少し面食らいながら、言葉を返す。
さっきの言葉の何が良かったのかは分からないが、まあ、納得してくれたのならいいのかもしれない。
「……最後に、一つだけいいですか?」
「……ああ」
「去年はありがとうございました。廉次君と一緒に日直するのは楽しかったです」
「……」
そう言って、彼女は去っていった。
屋上に一人残り、よく分からないままに頭を掻く。
……まあ、笑ってくれていたし、これで良かったのかもしれない。
そう思い、俺も歩き出した。




