40 勝手に命名テープ草《ぐさ》
評価ありがとうございました。ということで、間隔短めで投稿です。
キター!と思ったけど、さっき恥ずかしい思いをしたので念のため確認。
うむ、月は出てない。
「お月様、まだで出ないよ?」
大地君がにやっと笑う。
「えいこサン、わかってやってるだろ。」
はい、その通り。
と言うわけにいかないので、困って微笑む。
大地君は岩に背を預けて夕日を見た。
空はだんだん紅くなっていく。
「…会議でえいこサンの話題が出た。ちょっと手を貸して欲しいってな。」
私が出来るような事?なんだろ。
「俺はえいこサンを利用するためにここで守ってんじゃねぇよって反論した。そもそも、こっちに来ちまった奴らまとめて面倒見れるように働いてる訳だし。そしたらウランさんに言われた。」
言葉を切って、1つ息をつく。
「えいこサンは既にこの国にとっても自分にとっても大切な人で、仲間だ。無理強いはしないが頼んでもいいかぐらい聞くべきだって。えいこサンは俺の同郷の友人だけど、俺の所有物じゃない。出来ることすら頼まれない辛さは知っているだろって、さ。その通りだ。」
大地君がこちらを、向く。夕陽が眩しい。
「えいこサンがこっちに来てすぐは、確かに俺がいたから助かったと自分でも思ってる。でも、それを恩に着せるつもりはない。俺が引っ張り込んだ訳だし。けど、俺は、もう、」
彼の手が私に伸びて、頰を撫ぜた。
「えいこサンを手放せない。」
強い瞳が私を貫く。
「俺のものになって欲しい。」
波の音がいやに響いて聞こえる。
「この世界では、愛の証を贈る事ができる。受け取って欲しい。」
こう言う時の表情はちょっとサンサン魔王ver.に似ているなと思った。
「ごめんね、受け取れない。」
真っ直ぐ彼の瞳を受け取って、そっと返す。彼の強い視線が、ふっと緩んだ。
「ダメ、か。
ま、俺の物にならなくてもいいから、俺の想いだけでも受け取ってもらえないか?それが有ると、色々加護とかあって便利そうだぜ?」
「受け取れない。」
大地君の愛の証は受け取れない。でも、それはウランさんの気持ちを断ったのとは違う理由。
だっせぇ。と小さく呟いて彼は問う。
「理由、聞いてもいいか?」
「愛の証って、一生に一度きりのでしょ。大地君は私に愛の証を渡すほど、私を愛してないから。」
「俺を信じらんねぇ?」
「違う。大地君が信頼出来るような人だからだよ。」
怪訝な表情の大地君に、にぱっと笑う。
「もし、私にちゃんと器があれば大地君はこんな事言わないでしょ。大地君は私が大地君の知らない所で傷つくのが怖いんだよ。海里君や月子ちゃんに祠の話しなかったのとおんなじ。」
「俺はえいこサン好きだぜ?」
「それは知ってる。」
「女としてだぞ?」
「うん、知ってる。」
それはささやかな恋だ。一生に一度きりの愛じゃない。
私だって自分の一志への想いが、愛なのが、後悔なのか、未練なのか何なのかなんて分からない。
けど、私は本物の愛をサンサンを通して感じた事はある。
百数年もの絆。たった2年で魔王を病ませる想い。
「もし、今その想いを私が受け取ったとして、その後月子ちゃんが私みたいに器なしでこの国に来たと仮定してね。私が強制的に帰る事になったら、大地君は月子ちゃんの側にいるでしょ。その時私に『一緒に居られなくて申し訳ない』って思うんじゃない?」
大地君は答えない。
「それが『一緒に居られないのが辛い』って思うようになったなら受け取る。」
頭では分かっててもどうにも出来ない強い想い。その吐け口になら、なってもいい。
恋愛感情と庇護欲をごっちゃにしたままの若者から、それが分かっちゃうくらいには歳食った私が『一生に一度の愛の証』を取り上げるわけにはいかない。
「ほんと、かなわねーわ。えいこサンには。」
しばらくして大地君は明るく言った。
「そんなとこも堪んねー。」
夕陽は彼の背中側にあるのに眩しそうな顔をする。
「そりゃ光栄です。」
いつかのように答えた。
結局タオルも使わず足は乾いてしまった。
しかし、塩でベタつくので水で流して軽くふく、大地君が。
「自分でふけるよ?」
「そっから転げられても困るし、脚上げたらスカートの中見えるぞ。」
魔法で空中から温んだ水をシャワーのように出す。
魔法って便利。と思って大地君に聞いたら、魔力自体と想像力で魔法を使うのだとか。来訪者は科学のある世界から来ているので、想像力のバリエーションが豊富だ。例えば今なら、海水を蒸留するようにイメージすれば良い。これを王都の井戸から持って来ようとすると、凄く魔力が必要だ。
なに、この来訪者チート。私、来訪者よね?
ずるいずるい。
「あ」
「ん?」
左の足の小指の内側がちょっと切れて血が滲んでた。
「貝でも踏んだかな?」
大地君が空気を掴むような仕草をして指に掌が当てる。
おお!魔法ってホント便利!
と思ったけど、だめでした。魔法防御してたわ。
「塩水がしみるほどでもないし、大丈夫だよ。」
「化膿したら困るだろが。」
岩の影に生えている花を葉をちぎる。王都でもあちこちで見かけるアロエの様な形の葉とかすみ草の様な花が咲いた雑草だ。
葉をパキッとちぎると、でろんとした液体の様な粘液の様なモノが出た。
それをちょっと伸ばして足の小指に器用に巻きつけられた。触ってもベタベタしないのに、絆創膏のテープの所の様にピッタリとくっつきフィットする。見た目も透明だから目立たない。
「どこにでも生えてる包帯みたいなもんだ。しかも傷口を傷めないし。変えるのさえ忘れなきゃ治りも早い。ま、帰ったらシャル達に治してもらえよ。
この植物の種を持って帰ったら一財産築けないかしら?無事帰れたらだけど。むふふ。
「えいこサン今下らない事考えてただろ?」
バレてる!
「別にお金が欲しいのでは無くて、向こうにもあったら便利だなーって。」
大地君がじとっと睨んだ後、悪い笑顔を浮かべる。
「流石にムカつくな。人の一世一代の告白ふっといて、今それを考えるか?えいこサンは自覚が足りねぇ。キスしていいか?」
「ダメです。」
どさくさに紛れてなんて事言うんだ。この歩くエロめ。
「しゃあねぇ。じゃあこっちで。」
大地君が足に口付けた。
あばばばばばばばば。
「直には触れねぇよ。今はな。」
テテレテッテレー
えいこのイケメン耐性レベルが5になりました!
あ、テープ草巻いたとこか!良かった!
いや、良くない!しかも『今は』とか言った!
ケダモノか!いっそ猫?猫なの?やっぱり猫なのね?
猫だ猫。猫だから仕方ない、訳あるかぁ!
ヤバイ、顔に血が上がりすぎて、涙目だ。
ぐいっと引き下ろされて、大地君の腕の中に収まる。
「…だから自覚足りねぇって。今、その表情は唆るって言うんだよ。」
ぎゅっと強く抱きしめられる。
「何とか耐えるから。しばらく大人しくしとけ。」
反論したかったけど、藪蛇になったら困るから言う通りに抱かれておく。
せっかくのサンセットは見損ねました




