ストレイジ劇場
レディーナ視点
「レディーナ様!」
会場の入り口でマリアさんは待っていてくれた。
「マリアさん、素敵なワンピースね。良く似合っているわ。」
いつもより少し上等なピンクのワンピースは色素の薄い金髪に華やかな笑顔の彼女にとても良く似合っている。
一方の私は深緑のカジュアルなドレスに身を包み、私をエスコートしてくれているアルバートは少し着崩したシルバーのタキシードを着、胸に深緑のチーフを飾ってくれていた。
「じゃあ、お嬢様方参りましょうか?」
にこっと微笑んで促すアルバートに私は力強く頷く。
「楽しんで頂けると嬉しいわ」
「はい!」
マリアさんと微笑み合ってから、歩き出した。
ここは『ストレイジ劇場』。
由緒あるこの劇場は大昔の戦火の中でも崩れる事なく、今でも大きくそびえ立っている、この国のシンボルの一つだ。
外観の美しい装飾は全て職人の手で彫られたものらしい。会場内に入ると大きく赤い階段がこれでもかと存在感を表している。階段の左右にある扉にも細やかな装飾があり、こげ茶色で重い雰囲気のそこにも歴史を感じられた。
何度見ても飽きない景色に目を奪われながら私とマリアさんとで並んで階段を一歩ずつ上がる。アルバートは私達の後ろに付いて同じく見上げながら登っている。
今日の席は二階席で、いわゆるVIPルームなるものの一つだ。
個室になっているので誰の目も気にする事なく寛げ、ちょっとした飲食も許されている。
舞台から少し遠いものの、席からは檀上全てが見渡せる造りとなっている。
ソファは5人以上座れる程広く、お尻の下のクッションはどこまでも沈み込んでしまうようなフカフカさだ。
そのソファにマリアさん、私、アルバートの順で座ると早速チョコレートとカクテルが差し出された。もちろんノンアルコールだ。
「マリアさん、ここのチョコレートとってもおいしいのよ!」
一口頬り込むと蕩ける甘味を舌に感じ、程よい苦みが後から付いてきた。
自然と顔が緩む私を見てマリアさんと、アルバートも同じ様にチョコレートを口に含んだ。
劇の見所や演者の説明、フォンダン様の演劇の素晴らしさを興奮気味に話しているとオーケストラの音が響き、厳かに演劇がスタートする。
一気に劇場内の空気が変わり私はのめり込む様に夢中で演劇を眺めた。
・・・・・・・・・・
「はぁー…。素晴らしかったわ」
劇を見終わると、昂揚感と寂しさが胸にじんわりと広がった。
「素晴らしい演出だったね」
「あたし、感動いたしました!」
アルバートとマリアさんも興奮した様に頷き合っていた。
(楽しんで貰えたみたいで、良かった!)
時間も忘れてあそこが良かった、ここが素晴らしかった、音楽が、照明が…と感想を話し合っていると
、お客様、失礼いたします…。と気遣う言葉が掛けられた。
はっとして辺りを伺うと残っている観客は私達を含めて数名だった。
「も、申し訳ありません…」
時間と、我を忘れて興奮していた事に気付き、真っ赤になった顔を下げた。
帰り支度を直ちに整えて、会場を出て足早に階段を降りる。
私は恥ずかしさと焦りで忘れていた。
ここが、例のあの場所であると言う事を…。