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17.門番

「くらいなさいっ! ブレイズショット!!」


 ディズが放った小さな火球がスケルトンに直撃する。

 瞬時に火球は軽い爆発を起こし、スケルトンが吹き飛んだ。

 骨があちらこちらに散らばり、脱臼だとか骨折では済まされない重症である。当然スケルトンが立ち上がることはない。



 現在、俺とディズがいるのはラフォリス地下迷宮の第3層。

 俺が危険察知スキルを活かして先導することで罠への心配もなくなり、「罠さえなければこんなもんよ」とディズベールは絶好調だ。

 モンスターを見つけるや否や魔法スキルを詠唱し、こちら側にモンスターがやってくる前に全て一撃で葬り去っている。

 

「相変わらず凄まじい火力だな。詠唱時間も短いようだし、使い勝手が良さそうなスキルだ」


「ふふふ、それほどでもあるわね。『ブレイズショット』だけで20レベル以下のモンスターなら大抵瞬殺よ」


 ディズ曰く、罠が脅威的な分、ラフォリス地下迷宮はモンスターの強さは控えめとなっているそうだ。

 ラフォリス地下迷宮第3層に沸いているモンスターはどれも15~20程度。ディズにとってはただの的以外のなにものでもない。


「さすがは20持ち”紅炎のディズベール”といったところか」


「あら、知ってたの」


「リンククリスタルのラフォリス雑談部屋でな。結構話題になってたぞ」


「あー、やっぱりね。遅かれ早かれそうなるとは思ってたわ。この右手の刻印もそうだけど、私って揉め事ばっかり起こしてるせいで、すぐ噂になるのよね――っと、ブレイズショット!」


 刻印とか揉め事より、その容姿によるものが大きいと思うんだがな。

 こんな奴が学校にいたら、下駄箱開けたらラブレターがずさぁっと落ちてくるような展開が本当にありえそうな気がするし。


「そういやディズはレベルはいくつなんだ? ――おっ、罠があるな。こっち通ろうぜ」


「38レベルよ」


 ん、なんか思ったより低いな。

 こんなに強いんだし、その倍くらいあっても驚かないのに。


「今低いとか思ったでしょ? 陸は顔に出やすいわねぇ。私が言うのもなんだけど38ってかなり高いんだからね? アトフで40レベルなんていってる人は10人もいないもの」


「まじか。じゃあ俺の27って初心者にしては凄いんじゃないか?」


「だからそう言ってるでしょ……。まあ、ありえないってほどじゃないんだけどね。肉体のレベルはスキルレベルと違って上がりやすさに個人差がないから、モンスターを倒してれば絶対に上がるもの。試しにレベルを見てみなさい? 多分上がってるわよ」



  【ステータス】

 レベル:29

 HP:2210 / 2210

 MP:1568 / 1568 



「お、本当に上がってるな。29になってる」 


「だから言ったでしょ? 自分より高いレベルのモンスターを倒すのが手っ取り早いけど、こうして数を倒しても陸くらいのレベルなら普通に上がるのよ」


 俺なんもしてないけどな。

 ディズが一撃で遠距離から倒すから、モンスターが近寄ってくることもないし。

 先生、僕も戦いたいです。


「――あっ、危険察知のレベルも1上がってる。罠、見つけまくってるからなぁ」


「むしろそっちが異常よ……」


 ディズが呆れるように頭を抱える。


 先程ディズから聞いた話だ。

 察知系のスキルは、パーティーでの需要の高さから人気のあるスキルの一つらしい。察知スキルを一つでも10レベル以上に出来ればパーティーには一生困らないというのは有名な話だとか。

 10レベルくらいなら、と簡単に思えるかもしれないが、パッシブスキルのレベル上げは通常のアクションスキルに比べ遥かに難しく、それこそが需要の多さに繋がっているとのことだ。


 危険察知、か。

 練習できるようなものでもないし、ホントなんでこんなにさくさく上がるんだろうな。

 感覚的なもんだから、好きとか得意って感情が入り込むようなこともなさそうだし、相性が良かったとしかいえないよなぁ。


 『罠察知』、『敵意察知』、『財宝察知』、様々な察知スキルはあれど、危険察知はその汎用性のため抜きん出た人気があり、一度は修得する者も多いと聞いた。

 そんなスキルをアトフ移住10日目の俺が修得し、17レベルまで上げているというのだからディズの反応もわからなくはない。



「――ん、なんだか強そうなモンスターの気配がするな。距離はこっちの方向に50メートルほど。数は1体で、今までのとは明らかに違うな」


「驚いた……そこまでわかるものなの? 反則級じゃない」


「だな、俺自身そう思う。最近じゃかなり重宝してるしな。でもあれだ、俺からすればディズの火力も十分反則級だぞ」


「ありがとう……と言うべきなのかしらね。それより今はモンスターの件よ。そいつは多分第4層への入り口を守る門番ね」


「門番? エリアボスみたいなものか?」


「うーん、ちょっと違うわね。必ず同じ場所に沸いてるし、ドロップも落とさないもの。代わりに、倒せば次からは第4層までならワープゲートで自由に行き来できるようになるって特典があるわ」


 ほお、そりゃいいな。

 各層の入り口にあった変な装置はそういうことだったのか。

 レトロゲームじゃあるまいし、毎回最初からスタートとか時間的に無理があるもんな。


「ただ、さすがに私一人じゃボス級モンスターは厳しいのよね。陸が30秒タンクできるっていうなら勝機はあるけ――」

「よし、やろう」


 即答に決まっている。

 何せ今まで戦闘行為というものを一度もしていないのだ。

 こんな不完全燃焼みたいな状態で帰れるわけがない。


 ワープゲート? ついでに開放していこうじゃないか。

 

「はぁ……そう言うと思ったわ。まあ、29レベルもあれば即死はないから、無理そうだったら逃げましょ」


「了解だ」


 ソロならまだしも、ここまで世話になったディズを巻き添えにする気は俺にもない。無理だろうが戦っていたいというのが本心だとしてもだ。




 そして歩くこと数分。

 いくつかのモンスターと罠を掻い潜り……

 ついにやってきました門番さん。


 おぉ、でけえ!!

 腕だけで俺の身長くらいはあるぞこれ。

 何食べたらこんなに大きくなるんだ。

 後学のために教えていただきたいものですね、はい。

 

 俺とディズの前に立ちはだかるゴーレムの姿がそこにはあった。

 土色の体にはひびが所々に刻まれてはいるものの、ゴーレムという名に恥じない頑丈そうなボディをしている。


「あっ、コケ見っけ。トリートメント不足じゃありませんこと?」


「ったく、なに馬鹿なこと言ってるのよ! ――いい? 手筈通りにいくわよ?」


「ん、了解!」


 作戦は至って単純。

 俺がゴーレムとキャッキャウフフしている間にディズは魔法を詠唱する。

 ディズが詠唱を完了したら俺は逃げる。

 ディズは全力の魔法をゴーレムに打ち込む。

 これだけだ。

 わかりやすくて実にいい。

 

 よっしゃ、行くぞ!!

    

 ディズに合図を出し、俺は一気にゴーレムの近くまで駆け寄る。

 俺の仕事はタンク。なにはともあれゴーレムの敵対心ヘイトを俺に向けさせ続けなければ話にならない。常にゴーレムの攻撃範囲内を維持し、俺の存在を主張していきたい。

 

『――――――』


 ゴーレムの声にならない咆哮。

 間髪を容れずゴーレムが大きく振りかぶり、拳を俺へと落とす。

 

 勢いは凄いが……単調すぎんだろ!

 ――パリング!!


 ゴーレムの拳は藤娘の扇面を滑るようにして地面に落下した。

 衝撃で抉れた地面が石片となり俺を襲うが、今は気にしていられない。

 次から次へとゴーレムの攻撃が俺へと襲い掛かる。


「ほっ、よっ、ほい!!」


 ゴーレムの攻撃は確かに速いが、拳を引き戻す動作や攻撃に移るまでの動作といったそれ以外の部分がもっさりしているため、さほど脅威を感じない。

 一つ一つの攻撃に集中し、しっかりとパリングで捌いていく。


 ふーむ。

 拳しか使ってこないのか?

 『そろそろお見せしましょう……私のカポエイラをねッ!!』的な熱い展開があれば面白そうなんだけどな。



 振り払い……突き……振り払い……叩き潰し……叩き潰し……突き。

 ……攻撃パターンも読めてきたな。


「――ほら、次はこっち方向に振り払いだろ?」


 予想通りの地面を擦るような横薙ぎ攻撃。

 スキル『コマンド』で空中に固定化した石に乗り、それをやり過ごす。


 ふぅ……。

 さて、次はどうやって避けてやろうかな。


 ――って、あれ。

 そういや、ディズはどうなったんだ?

 もう30秒どころが数分は経っただろ。



「おーい、ディズ! まだなのかー!?」


 ゴーレムの突きをパリングで避けながらディズの方を振り返る。


「…………っあ!! ごめんなさい! こっちはいつでも大丈夫よ!!」


「おいおい、しっかりしてくれよ……」


 人が戦闘中だってのに、のんびり考え事とはいいご身分なこった。

 んじゃまあ、準備も出来てるみたいだし俺は高みの見物とさせてもらうかね。


 インベントリから石を10個ほど実体化し、それらにコマンドを使用する。

 思い描くのは、空中で階段状に固定化する石の姿。固定化する時間は1分でいいだろう。


 ――コマンド。


 発動と同時に浮かび上がった石を踏み台に、俺は上へと上へと移動する。

 一番上に配置した石に到着したところで下を見下ろしてみるが、なかなかいい景色だ。


 よし! これならゴーレムの攻撃が届くこともないし、ディズの魔法の範囲内ってこともないだろ。


「いつでもいいぞー!」


 地上で待機しているディズに呼びかける。

 そんな俺に対し、なにやらディズがぼそぼそと口を動かしているが上手く聞き取れない。


「なんだってー!? 聞こえない!」


「……ったく、なんでもないわよ!! そんなことより、撃つからね!! 降りてくるんじゃないわよ!」


 そう言ってディズが正面に両手を構えると、巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 ディズの髪色を彷彿とさせる真っ赤な炎で描かれた魔法陣だ。

 風になびいたローブと髪がちょっとした色気を演出し、見栄えもばっちり。なんというかこう、必殺技です! みたいな雰囲気が伝わってくる。


「――フレイム・プロミネンス!!」


 稲妻のような閃光。

 魔法陣から飛び出た巨大な炎がディズの前方を焼き尽くす。

 1秒にも満たない短い炎ではあったが、ゴーレムはおろか、その後ろの壁さえも抉り取るように一瞬で消滅させてしまった。手品師も真っ青なミラクルである。


 まじか…………。

 たった一撃かよ……。

 なんちゅう火力だ。


 これが紅炎のディズベールの所以ってわけか……。




「お疲れさん。最後の一撃はさすがだったな」


 地上に降りた俺は、ディズのところへ戻る。


「お疲れ様。陸こそ凄かったわよ。何がって聞かれたら困るけど、もう本当に凄かったとしか言いようがないわね。あなた人間?」


 ん? これは褒められてるのか?

 いや、違うよね絶対。


「人間じゃなかったらなんだと?」


 「ふーん」と怪しいものでも見るような目で俺を見るディズ。

 ディズの目には俺がゴーレムにでも見えているのだろうか。


「――とりあえず、こんな所で立ち話もなんだし一旦戻りましょうか。スイーツでも摘みながら、ゆっくり話しましょ」

 

「お、それはいいアイディアだな」


 ラフォリス地下迷宮には食べられそうなモンスターがいなかったので腹が満たせなかった。

 インベントリに保存食はいくつか入っているが、所詮は保存食。刺激たっぷりな男の簡単サバイバル料理や、お店のお洒落料理とは比べるのもおこがましい程である。


 それに時間だって遅くなってきたしな。

 宝を見つけられなかったのは残念っちゃ残念だが、今日は十分楽しめたし満足だ。


 満場一致で俺とディズはラフォリスへの大通りへと向かうことにした。

 

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