18.スイーツ
初めてのパーティープレイ、初めてのダンジョン探索、さらにはそのダンジョン探索で4層を守る門番まで倒すという素敵な経験をした俺は、その場の流れ的なあれでディズのお気に入りだというカフェに来ていた。
カフェは巨大な大木を中身だけくりぬいたような外装で、椅子やテーブルはもちろん食器や品書きまで、店内見渡す限り全てが木製だと一目でわかる徹底ぶり。緑を感じさせる香りや、時折聞こえてくる葉擦れも合わさり、なんとも気持ちの良いものである。
出てくる料理にも今のところ外れはなく、知る人ぞ知る隠れたラフォリスの名店だというディズの話に偽りはないようだ。
「――と、いうわけだ」
「ふーん、そういうことだったのね」
俺の言葉に何度か頷き、ティーカップを手に取るディズ。
反省会、もとい俺への審問会もようやく落ち着きを見せ始めたようである。
事の始まりは、隠す必要もないだろうと俺のスキル構成をディズに話したことだ。
案の定とでもいうべき反応を示すディズに、俺は一つずつ説明していった。
使用することができないはずのバグスキル『パリング』。
所持しているアイテムに命令を与えて実行させる俺のオリジナルスキル『コマンド:アイテム』。
特に、この二つに対するディズの食いつきようは半端なく、料理と一緒に俺まで食い殺されるのではと思ったほどだ。
パリングを使っていることを話した時の『やっぱり人間じゃなかったんじゃない』というディズの言葉は今も俺の中に深く突き刺さっている。
「ってことは、門番戦の時のあれは陸のオリジナルスキルで浮かせてただけで、物としては正真正銘ただの石ころだったわけね? てっきり私の知らないマジックアイテムかなにかだと思ったわよ」
「そういうこったな。ディズが知らないようなマジックアイテムを初心者の俺が持ってるわけないだろ、それもあんなに大量に」
「だからびっくりしたんじゃない。あんなアイテムが出回ってたらバランス崩壊なんてもんじゃないもの。私達、後衛の魔法使いが使い始めたら大変なことになるわ」
そりゃそうだ。
空中に自由に設置できる足場なんてあれば、魔法使いはモンスターに近づかれることもなく、空からやりたい放題だ。
――ん? ってことはゴーレム戦での俺のタンクは完全に無意味だったんじゃ?
最初からディズに足場だけ提供して、空中からフレイムプロミネンスだかを撃ってもらっていれば……。
考えるのはよそう……悲しくなってきた……。
「でも石ってのがあれなんだよな。もうちょい硬くて攻撃や防御にも使えそうなのが欲しいところなんだよ。ある程度の強さのモンスターになると、石なんて当ててもまったく効かんし、防御に使おうにもいまいち頼りなくてな」
「そうね、そこは確かに改善すべきだと思うわ。魔法耐性のある金属板や、属性魔法が付与されたダガーとかいいんじゃないかしら」
「やっぱりそこらへんが無難かね。金のかからない範囲で色々試してみたけど、しっくりくるものもなくてな。金貨なんていいんじゃないかって試したこともあるけど、結果はお察しだ」
「そりゃそうよ、金貨にスキルなんて使えたら悪用できちゃうじゃない。アトフでコイントスが流行ってるのもそういう理由だもの」
皿のケーキをフォークでつつきながら関心もなさそうにディズが答える。
俺にとっては画期的ともいえる大発見だったのだが、やはりディズにとっては当たり前の事象だったようだ。
そう、金貨にはコマンドが効かなかった。
見た目的、インベントリ容量的に、金貨を石の代わりに出来ればと考えていたのに世知辛い世の中である。
ディズの言うように、金貨にスキルが効くのなら、複製など色々と悪用できてしまう可能性もあるので当然といえば当然なのだが。
それこそ俺のコマンドで加工すれば、表面は金貨でも中身は石、なんてものを量産できてしまう。クリスタルバンドは騙せなくても、人の目は騙せてしまうだろう。
「ってか、さっきから俺の話ばっかだけど、ディズはどうなんだよ。スキルレベルとかオリジナルスキルとかさ」
「ん? ははひ?」
ケーキを口に入れ、幸せそうな顔をしているディズがおぼつかない口調で声にする。
俺が「そうだ」と頷くと、ディズはちょっと待ってと片手を前にして、中のものを急ぎ飲み込んでいく。
「ふぅっ…………そういえば全然話してなかったわね。どうせだから一通り教えておくわ。レベルは38……と、これはさっきも言ったか。スキルは、ブレイズショット15レベル、フレイムカーテン14レベル、フレイム・プロミネンス21レベル。オリジナルスキルは、1度捉えた相手の位置を一定時間把握し続けられる『索敵』ね。……あとは……んー、意外と思いつかないものね。何か聞きたいこととかある?」
ここにきて明かされるディズの真実。
ただ、身体的データの開示がないことには遺憾の意を隠し切れない。
いや、お約束的な展開になるのは想像できるし聞いたりはしないけどね。
「その索敵とやらで位置を把握できるってのは、視覚とか聴覚に頼らなくてもってことだよな?」
「ええ、一度存在をはっきり認識さえできれば、たとえ目を瞑ってようが私には手にとるようにそいつの位置がわかるわ。フレイムカーテンで視界を遮ってってのが私の常套手段ね」
フレイムカーテンがどんなスキルか見たことはない。だが、大体どんな感じになるのか想像できるから不思議なものだ。
視界一面広がる炎で右も左もわからなくなったモンスター達を一方的に虐殺していくディズの姿が目に浮かぶ。
「うん、ディズとは相性の良さそうなスキルだな」
「まあね、一発一発の攻撃が重い私みたいなのにはありがたいわ――あっ、これと同じの下さい」
ディズが近くを通りかかった店員に追加の注文をする。
既に片手では数えられない量の皿が積み重なっているというのに、まだ食べ足りないらしい。
回転寿司にでもきているのかと疑いたくなる。
「さすがに食いすぎじゃないか?」
「いいの、今日は気分がいいから特別よ。っていうか、陸に言われたくないわよ。あんた10品越えてるじゃない」
「いやいや、男と女の胃袋を一緒にするなよ。1日の消費カロリーが違うんだよ――あ、すいません、これ3つ下さい」
品書きから『店長おすすめ!!』とでかでか書かれた一品を指差し、俺も一緒に注文しておく。
おすすめだというなら食べざるを得ない。
「あんたねぇ……」
「まあ、細かいことは気にするな。ただ一ついえることは我慢は体によくないってことだ」
だってこんなに美味しいんだもん。
店の雰囲気も最高だし、祝杯も兼ねているんだ。
今食べないでいつ食べるというのだろうか。
「ありがとうございました。またのご利用お待ちしています」
若干引き気味な女性店員に見送られ、俺とディズは店を出る。
「ああー、ちょっと食いすぎたな……」
「そうね……。はあ……なんで張り合っちゃったんだろ、私……」
ぷっくりと膨らんだお腹をさすりながら、ディズが溜息まじりにポツリと呟く。
俺は着物だからいいものの、ディズのへそ出しスタイルでみっともなく膨らんだお腹はなんとも不恰好なものだ。
負のスパイラルを断ち切るのが遅すぎた……。
怒涛の勢いでディズが注文を繰り返し、負けじと俺も対抗して注文する。そんなことを繰り返していたら二人してこのザマだ。
空腹は最大のソースだというなら、満腹は一体なんだというのか。楽しい食事のはずが、最後のほうは苦痛以外のなにものでもなかった。
20品を最後にするという停戦協定を結ばなければ今頃どうなっていたことやら。
「……解散、だな。いや、今日は本当に楽しかった。ありがとな」
気が付けば――いや、気付いてはいたが外はすっかり真っ暗である。
二人揃ってこんな調子じゃ、これから2次会ということもありえないだろう。
楽しい時間にも終わりはくるもの。名残惜しいがお開きの時間だ。
ただ、このまま『はいさよなら』といくにはもったいなすぎる。
「「フレンド登録――」」
打ち消しあう二人の声。
タイミングと内容が完全にかぶった。
これはなかなか気恥ずかしい。
恥ずかしいことでもないのに恥ずかしい。
なんというか甘酸っぱい。
ディズも俺と似たような心境らしく、わざとらしく目を逸らし髪をいじっている。
今日会ったばかりの俺が言うのもおかしいかもしれないが、ディズらしくない反応だ。
なんかもう…………
甘酸っぱいんじゃー。
「――ほれ、フレンド登録しようぜ」
クリスタルバンドが巻かれた右手を差し出す。
俺も男だ。ここは俺がリードしよう。
でも、とても……むず痒いです。
「そうね、フレンド登録は大事よね」
うん、大事大事。
とっても大事。
俺の手を握り返すディズ。
心なしかその頬は赤く見える。
【フレンド登録】
フレンド登録依頼が申請されました。
登録を承認しますか?
コンソールに表示されるシステムメッセージ。
俺からフレンド申請しようと思ったのに、どうやら先を越されたようだ。
「承認っと……んじゃ改めてよろしくな。また機会があれば一緒に狩りにでも行こうぜ」
「ええ、こちらこそよろしく」
ディズにとって、俺とのパーティーにメリットがあるのかはわからない。それでも、ディズだってフレンド登録を望んでくれていたわけだし、嫌われているということはないはず。
狩りが無理でも、こうして一緒に食事を楽しむくらいはできるだろう。
「よし、今度こそ解散だな」
照れ隠しというわけでもないが、ここから盛り上げるようなトークスキルを俺は持ち合わせてはいない。
フレンド登録も終わったことだし、変なことを口走る前にさっさと退散するとしよう。
「またな」
「じゃあね、陸――」
ディズに背を向け、我が家へと歩き出す。
今日は楽しかったけど疲れた。
ゆっくり風呂にでも浸かりたい気分だ。
ふふふ、風呂に浮かべるアヒルを大量に購入したからな。
アトフで売ってるのは意外だったが今日はいい買い物をした。
ああ、楽しみすぎる。
今日は本当に素晴らしい1日だ。
「――”また明日ね”」
別れ際に微かに聞こえたディズのその言葉に、俺は深い疑問を抱くこともなく帰宅した。




