思わぬ暴言
部屋に残されたザイラスは、非難の口調を隠そうともせずに言った。
「我らが王子よ、ご婦人に対する敬意を忘れてはなりませんと申したでしょうに」
普段なら、兄が弟を諭すように注意する男だが、この日のザイラスは、リダル王から受けた恩恵と裏切りの罪悪感で心が乱れていた。アトラス自身の心が乱れていることを気遣う余裕もなく、彼はアトラスを責め続けた。
「我がルージ国とシュレーブ国の体面をお考えください。姫君に敬意を払えないなど愚か者のすること」
この時、アトラスもまた心の整理がつかず気が高ぶっていた。
「ザイラス。お前は私が愚か者の野蛮人だとでも」
「そうは申しておりません。我らが王子が愚か者ではない故に、行動に注意してくれと申し上げているのです」
「黙れ。下賤の父親の息子が、口が過ぎよう」
一瞬、二人の間に沈黙が走った。父親の出自が卑しいと言うことはザイラスが密かに気にかけていることは、アトラスもよく知っている。素直な心で言えば、アトラスはザイラスに兄のような親近感と信頼感を抱いている。ただ、この時は口が滑った。ただ、致命的な言葉であったが故に、アトラスから投げかけられた言葉はザイラスの心に深く刻まれた。アトラスも自分の過ちに舌打ちしたくなる思いとともに、訳のわからない怒りや不満が心の中で渦巻いて、謝罪をする機会を失った。
「下がれ。お前の顔は見たくもない」
アトラスの指示に、ザイラスは一礼して従ったが、その表情に失望感や悲しさを隠しては居なかった。アトラスは近習の者たちとも昼食を供にせず、一人で部屋に閉じこもった。




