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英雄の法  作者: 西表山cat
序章 始まりは二人
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第8話     魔獣

『おい、勉強道具とか結局、全部置いていくのかよ?』

『あぁ。よく考えたら家には本がいっぱいあるし帰り間際にみんなに釣られて一緒に教室からつい持ち帰っちゃったけどいらないや』

 そんな会話をしながら学園の前門で待つこと30分ほどするとこちらに向かってくる入学の時にお世話になった姿と変わらぬ顔なじみの御者の姿を見つける。

「ケルス様、遅くなり申し訳ございません」

「気にするな、さぁすぐに帰ろう」

「はい、それではこちらのほうにどうぞ」

 そういいながら馬車の中へと促される。

「この方が帰り道の護衛をしていただくホルン殿です」

『ごつ!』

 思わずもれた啓の言葉にケルスも同意せざるを得なかった。それほど馬車に控えていたのはケルスから見れば屈強そうだったのだ。

「一人なのか?」

「えぇ。1年前と比べ魔獣と出くわす事もほぼなくなりましたし御当主様からもあまり多く護衛を付けても帰りが遅くなるとの事でしたので」

「心配なのか? 大丈夫だ。任せろ、いざ魔獣が出たとしてもすぐに蹴散らしてやるよ」

 馬車の中に控えていたホルンからずいぶん頼もしい言葉が聞こえた。

「えぇ、魔獣が出ないのが一番ですが・・・いざというときはお願いします」

「あぁもちろんだ」

「それではケルス様、走らせます。ご注意ください」

「あぁ」

 馬車の中で啓は思う。馬車ってゆれがひどいらしいけど自分は耐えられるだろうか・・・と。

『だいじょうぶじゃないのか? 俺が耐えられるんだし』

『ケルス・・・口調が御者とだいぶ違うじゃないか。やさしさを感じないぞ』

『一生付き合うお前と違って御者は所詮他人だからな。啓にいちいちやさしく話しかけてたら身がもたないよ』

『・・・・・・』




『ケルス、朝出発してそろそろ夜になるがどれほど掛かるんだ?』

『えーと・・・以前学園に向かってきたときは三日ぐらいだったが、あれから護衛も減ってるし魔獣の襲撃も無く順調に行けば・・・二日ぐらいじゃないか?』

「そろそろ暗くなりますし、今日はこのあたりで野宿をしましょうか」

 そういいながら御者は馬車を止め野宿の準備を始める。準備がおわり出来上がった夜食を食べながら思う。

『啓、日本・・・での食べ物はこちらでは再現できそうか?』

『あん? 似たような食材と調味料があれば出来るだろうがたぶん相当めんどくさいぞ?』

『・・・・・・そうか、いつかは再現してみたいものだな』

『あぁ、是非チャレンジしてくれ。後余計な心配かもしれないが出来るだけ料理も含めてあまり俺の知識は周りの人に教えないほうがいいぞ?』

『・・・・・・ん、何でだ? まさか料理一つで啓の正体がばれる心配でもしてるのか?』

 聞く前に自分で理由を考えたようだが啓の考えていた内容とはほど遠い答えだった。答えはあまり明確なものではないが出来るだけわかりやすく伝えられるように考える。

『過剰な・・・過剰な心配かもしれないが俺は些細な事でも、おれ自身がこの世界に与える影響を恐れているんだ』

『それは考えすぎだろ? 食べ物一つでなにが変わる?』

 そう、ケルスの考え方も理解できるのだ。食べ物一つで変わる事などそれほどない。だが・・・あの世界では変わったことがあった。そしてそれは極普通の素晴らしい、そしてもっともおぞましい利用方法だった。

『ケルス、変わるんだよ。考えすぎかもしれないけど。例えば・・・銃』

『銃? あぁ物語によく出てきたあの武器か』

『そう、あの銃だ。例えば俺が火薬の作り方を知っていて善意をもって炭鉱などで利用できるようにしたとしよう。使い方は・・・そうだな、とりあえず硬い岩盤の破壊だ』

『あぁ』

『この火薬、俺が一切悪意ある使用方法を教えずとも恐らくこの行動だけで銃に似た武器が作られるはずだ』

『まさか! 考えすぎだろそんな事・・・あるはずが・・・』

『いや、たぶんある。実際に俺の世界では火薬・・・だけではないが、その進化はめざましかった。文明が進めば進むほどより便利により豊かに・・・・・・んでもってより傷つけやすく、より殺しやすく』

『・・・・・・なるほどね、でもさすがに食事は関係ないだろ?』

『人間教えた物が歪んで発展する事も多いんだよ。火薬は比較的分かりやすいが食事は例えていうと・・・』





「おい」

 唐突に護衛のホルンから声がかかる。もしかしたら啓との会話でなにか表情が変わっていたのかも知れないと考えたが理由は違うようだ。無言でホルンは腰から下げた鞘から剣を引き抜く。

『魔物だ。ケルス気をつけろ』

『魔物!? 今朝めったに出ないって言ってたの』

「さがってろ!」

 目の前に現れたのはうなり声を上げる犬のような生物だった。遠めにも爪が鋭く筋肉がやたらとついていそうな体をしているという事に目を瞑れば。

『魔ポチと名付けよう』

『・・・緊張感が削がれた。責任取れ』

「ランヤっていう種族だな。目の前に一匹しかいないところを見ると少なくとも二匹はどこかに潜んでるぞ」

 それを聞いて御者が慌てる。

「ケルス様、すぐに馬車へ!」

「・・・! あぁ!」

 目の前のの出来事を観察しランヤは避難した自分と御者を弱いと見たのかホルンを避けながら向かってくる。

「お前の相手は俺だ!」

 大きく剣を振り上げ横を通りすぎるランヤを切りつける。避ける事ができずランヤは胴体の真ん中付近を半分ほど裂かれ、悲鳴をあげその場に倒れ足をばたばたさせている。

『物語のようにすぐには死なないな・・・』

『当たり前だ。動物がそんなに簡単に死ぬか』

『啓、魔物はじめてなんだろ? どうしてそんな事わかる』

『俺の世界にも似たような生き物がいたしな・・・って、今度は後ろから――――――』

 前方のランヤを切りつけてる間に馬車走りよって来たのか、後方に二体のランヤを見つける。前にいたランヤの相手をしていたホルンと馬車の距離はそれほど離れていなかった。だが動きの早いランヤはその距離をチャンスと感じたのかすばやく馬車を壊そうとするどい爪でドアをきりつける。

「ちっ」




『まずくない?』

『ケルス・・・何のために魔法を勉強してたんだよ?』

『いや・・・だってこれ無理だよ。俺の魔法じゃ殺せないぞ?』

『別に殺さなくていいんだ。ホルンさんが来るまでの時間を稼げれば』

『なんでだよ?』

『借りるぞ、体』

 この会話わずか3秒、会話する時間がもったいないと啓が二頭のランヤーが切り裂いているドアに向かって火球を放つ。ドアを切り裂いているランヤは衝撃で後ろすこしに吹っ飛ぶ。

『おい! 火球のせいでドアが全開になったぞ!』

『いや、コレで終わりだ』

 ランヤが吹っ飛ばされてる間にホルンがドアの前に立つ。その様子を見てランヤしばらく馬車を見つめながら周囲を歩き回っていたがホルンがドアの前から一歩も動かない様子を見て森に去っていった。




「ふぅ・・・」

「ホルンさん、ありがとうございました」

「数が少なくて対処できただけだ。それにしても本当に魔物が出るとはな・・・」

「・・・壊れた扉は明日どこかの町に立ち寄って直すとしとしましょう」

 今まで自分と同じく馬車の中にいた御者がさりげなく会話に加わる。このおっさん・・・本当に戦闘能力ないんだなと思いながら先ほどの出来事を振り返る。

『なんであの二匹、何もせず森に帰ったんだ?』

『最初の一匹が殺されるところを見てたからな。弱いやつを狙うって知能があるなら、強いやつを避ける知能もあるのが当然だろ?』

『・・・納得できるけど、ならドアが開いてから火球放てばよかったじゃん』

『今度機会があったらやってみろ。空いてから? 突き出した手を先に噛み千切られるかもしれないぞ? 俺はそんな冒険したくなかったからすぐに放ったけどな』

『・・・・・・』

 想像して顔を引きつらせるケルス。

「今日は疲れたろう、もう寝な! 焚き火の見張り番やってるから安心しろ。」

「はい、それでは私は失礼して・・・」

「はぁ・・・おやすみ」

 その晩、結局魔物は二度と来る事は無く無事に朝を迎えることが出来た。





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