第8話 オオカミ様と篭絡
拾い集めた木に灯した炎はバチバチと、燃やした木が音を立てながら熱を持つ。
あれからランを落ち着かせた後に感じたのは寒さだった。自分が気絶させた誰か分からない人よりも、暖を取る事を優先し今はランの横たえた体に自分を沈めただボーと焚き火を眺めた。重くはないかな? とは思ったがランは特に何も感じなかったようで体を丸め頭を伏せた。
「・・・お前の毛皮・・・結構暖かいな」
「・・・」
返事はない。ランは眠そうに自分を見つめてくる。
「悪いな。俺は起きたばかりだけどお前は眠いよな」
「ォゥンッ・・・」
「ははっ、もう眠れ」
やさしく撫でる。それだけで寝そうで寝なかったランは目を閉じ、眠りについた。
ランが寝てから暇になり、咄嗟に使った雷の魔法を思い返す。
―――使いやすかった
気のせいかもしれないが、そんな気分がした。
手に魔力を込め思い思いの形に具現化していく。
火― かなり扱いづらくなっている。燃え方が小さくイメージした形にしづらい。
水― 扱いやすくなっている。具現化する速度も良くなっているから治癒の力も強くなっているかもしれない。
氷― わずかに扱いやすくなっている。凍る速度は速いが気のせいかもしれない。
それ以外の魔法は音が出るので、火、水、氷それぞれを少しばかり弄った。見えたのは必然だったのかもしれない。水の膜を薄く伸ばす、写りこんだ顔はケルスのそれではなく、自分の前世の顔だった。
「・・・何で・・・俺の顔が! ふぅっ・・・何となくそんな予感がしてたけど、きついな・・・」
若い、第一印象はそれだった。黒髪、黒目、そしてケルスの顔立ちと比べれば明らかに変わる輪郭。そしてそれだけではもちろんなかった。起き上がってから一番最初に確認した体は、改めて見るとこれも随分変わっている。長旅で鍛えられていたはずの筋肉はなく、ゆるみきったそれは前世日本人らしいものだったのかもしれない。
(こりゃ、蹴り一発で骨が折れるのも当たり前か・・・)
完全に治った右手を弄りながら思ったのはそんな事だった。
―――ガバッ!
そんな擬音が似合うぐらい眠っていた少年は勢いよく起き上がった。仰向けの状態から足を上に振り上げ、反動で上半身を一気に起こす。それは実に"かっこいい"ものだった。
「おぉー」
パチパチと拍手。ランも少年が起き上がったと同時に目を覚ました。
「・・・俺に何をした?」
「魔法だよ。何言っても無駄だろうけど危なかったよ。あと少しで君、死んじゃう所だったんだよ?」
伝わらないだろう。たとえ
"君が俺に攻撃をしたら真後ろにいるランが怒っちゃって君をかみ殺そうとしたんだ。で、それを優しい自分が君を魔法で気絶させて助けたんだよ!"
と長々と説明してもきっと伝わらないだろう。
「ラン・・・とは、その"オオカミ"様の事か」
話の流れからするとランは"オオカミ"様と呼ばれているようだ。
「"オオカミ"・・・よく分からないけどコイツがランだよ。君を後ろから噛み殺そうとした」
「嘘だ!!」
強い否定の言葉。
「嘘じゃない」
―――バチバチ
焚き火を間に置き自分と少年は向かい合った。
「は、放せ、その方を解放しろ。"オオカミ"様はお前みたいな・・・お前みたいな奴に―――」
「お前は俺がこいつを捕らえているように見えるのか?」
少し顔が怖くなっているランを撫で、落ち着かせる。するとランもそれが気に入ったのか体を摺り寄せてきた。
「な、なっ! ―――」
「どうやらランはお前よりも俺のほうが好きなようだぞ?」
「ど、どうやって"オオカミ"様を篭絡した!」
「・・・は?」
篭絡って・・・その言葉を聴きながら啓は思う。
ラン、お前俺が寝てたときに何をしてたんだよ、と。
タグに復讐を追加したのに未だに始まらない・・・
そのうち・・・そのうち・・・




