俺は、何者だ.....?
昔、とある教室でさ、俺はいつも一人の美少女と目が合っていたんだ。
彼女はいつも孤立していた。座席の隅っこにポツンと座ってね。
毎日毎日、本ばかりに没頭していた。
最初はよくある文学少女の類かと思っていたんだ。
だが、俺の予想は見事に外れた。
彼女はあえてそう振る舞っていただけだった。目立たないようにな。
まあ、無理もない。
数ヶ月間、俺は学校での彼女のライフスタイルをずっと観察していた。
今もなお囁かれ続けている噂によると、チェリアは学内でもトップクラスに君臨する三大美少女の一人だという。
つまり、とんでもなく人気者ってことだ。
それに比べて、ここには明確すぎる格差が存在する。
俺だ。俺なんて民話や童話によく出てくるような、ただの引き立て役の生徒さ。
イケメンでもなければ、秀才でもない。
いわゆる標準スペックってやつ。
しかし。
高嶺の花すぎて手に入るわけがないと思っていたが、
運命ってやつは憎い演出をしてくれる。
俺が彼女の美しい瞳に視線を送るたび、
彼女はいつも見つめ返して、俺に微笑みかけてくれたんだ。
頬を真っ赤に染めてな。
これが、彼女も俺に気があるというサインなのかどうか、当時の俺には分からなかった。
混乱。
困惑。
そして葛藤。
疑念と戸惑いで頭がおかしくなりそうだったその時、突然、チェリアが俺の机の上に一枚の手紙を置いていったんだ。
俺と会いたいらしい。
二人きりで話がしたい、と。
俺は彼女の後を追った。
これはチャンスだ。
最高の好機ってやつは二度は来ない。
そうだろな?
あぁ、その通りさ。
「イズミ……」
「……」
場所は校舎から直通の階段脇。
ここは静かだ。
他の生徒たちはもうとっくに下校している。
いるのは俺たち二人だけ。
何から話し始めればいいのか、さっぱり分からん。
うぐっ。
彼女はただ、俺の名前を呼んだだけ。
あっ、くそ!!
情けない。
俺はいつからこんなにヘタレになったんだ!!
ずっと前から彼女のことが好きだったんだろ!!
今ここで、バシッと伝えるしかない。
よし。
「……チェリア!」
俺は彼女の名前を呼び、階段の壁際へと彼女を追い詰めた。
顔が近すぎる。
彼女の吐息から、明らかに動揺しているのが伝わってくる。
またしても、彼女の頬は真っ赤に染まっていた。
「俺……実は、最初から君のことが好きだったんだ!!
俺と付き合ってくれ!!!」
告白してやった。
ただし、目は瞑ったままだがな。
おそらく、振られるのが怖かったんだろう。
あぁ。
心臓がいつも以上に激しく脈打っている!!
朝のランニングの後と比べても、この鼓動は明らかに異質だ!
ちくしょう。
この初めての経験ってやつは……
「イ、イズミ……?」
声が聞こえた!!
彼女が明らかに緊張しているのが分かる。
だが、俺はまだ目を開けることができない。
「……は、はい!?」
「それは……ダメ、かな」
その瞬間、俺は目をカッと開いた。
そこには、瞳をうっすらと細めたチェリアの姿があった。
明らかに恥ずかしがっているが、それを必死に隠そうとしている。
「でもっ!」
「しーっ!」
彼女のすらりとした人差し指が、俺の唇を塞いだ。
指先に滲む汗が、ほんのり塩っぱい。
俺は目を見開き、心臓が飛び出るかと思った。
「卒業したら、ね。うん、卒業したら」
「……」
俺が何かを言い返す前に、チェリアは俺の手をすり抜け、瀕死状態の俺を置き去りにしてそのまま去っていった。
ふぅ。
てっきり、こっぴどく振られるかと思ったぜ。
彼女がああ言うのなら、まだ望みはあるってことだ。
「……卒業したら、か」
帰り道もずっと考えていた。
一日、また一日。
一ヶ月、また一ヶ月。
そうしてついに、卒業の日がやってきた。
俺は無事に卒業した。
そして記念撮影のドサクサに紛れて、彼女をあの初めて告白した場所へと連れ出したんだ。
今回はお預けなんてナシだ。
なんなら、あの時の言葉をこちらから催促する必要さえなかった。
彼女の方から口を開いてくれたんだからな。
「イズミ……今日まで待っていてくれて、本当にありがとう……」
そんなわけで、
俺たちは晴れて公式に恋人同士となった。
あぁ、付き合い始めたんだ。
初デートは定番のスポットをいくつか巡った。
カフェ、映画館、公園、あるいは沖縄への旅行とかな。
すべては実を結んだ。
あの時、勇気を振り絞ったのは無駄じゃなかったってわけだ。
というか、俺って実は結構イケてないか?
あの三大美少女のチェリアを射止めたんだからな。
------------------------------
ある日、俺はドアを叩く音で目を覚ました。
このアパートに客が来るなんて滅多にない。
せいぜい、宅配便の配達員くらいだ。
……あるいは、
まさか……
いや。
そんなはずはない!!
「だ、だけど……その可能性もゼロじゃない!」
まったく、俺ってやつは。
疑念を振り払いながらベッドから飛び起き、期待に胸を膨らませてドアへと急いだ。
ドアの覗き穴から外を覗くと、そこにはバッチリお洒落をして綺麗に着飾ったチェリアが立っていた。
どういう風の吹き回しだ?
なぜ突然やってきた?
彼女が俺のアパートに来るのは、これが初めてのことだった。
俺はすぐに、何でもない風を装ってドアを開けた。
あぁ、顔を洗うのも忘れて、身だしなみを整える暇もなかったが、このありのままの姿でも俺は自信満々さ。
「おはよう、イズミ……!」
俺は薄く笑いながら、ポリポリと頭を掻いた。
なんとも温かい挨拶じゃないか。
「あぁ、おはよう。ところで、こんな朝早くに突撃なんて、一体どうしたんだ?」
「え? 突撃? メッセージなら数時間前に送っておいたんだけど……」
「えっ、マジで!?」
ふーむ。
「さっきからスマホを全然見てなかったんだ。すまん……」
「いいよ、別に……」
俺が彼女を部屋の中に招き入れる前に、突然チェリアが肉食獣さながらに急接近してきた。
なんだこれは。
いつもと様子が違う。
普段の彼女なら、こんな大胆な真似はしないはずだ。
俺の体はドアの裏側に押し付けられた。
互いの顔が至近距離で交差する。
その圧倒的な美しさに圧倒され、俺は床に尻餅をついた。
彼女は……
チェリアは、俺の体の上に馬乗りになって這い寄ってきた。
あの妖艶な笑み……
「チェ、チェリア……!?」
俺は彼女の正気を取り戻そうとした。
だが、もう遅かった。
そうだ。
手遅れだったんだ。
彼女は俺の唇に、獰猛にキスをしてきた!!
くそったれ!!
体が動かない。
まるで捕食者に組み伏せられた獲物になった気分だ。
そして、俺がその雰囲気に呑まれそうになったその時、
突然、脳裏に雷が落ちたかのような衝撃が走った。
一筋の閃光。
言葉では説明しがたい感覚。
確かなのは、思い出すべきではない記憶が、一気に脳内にフラッシュバックしたということだ。
凄惨な死闘……
飛び散る鮮血……
頭上に描かれたブラックホールの巨大な魔法陣。
それは、俺自身が創造した魔法。
そして俺の目の前では、金属の鎧を纏った一人の女戦士が、聖剣ラグナロクで俺の心臓を容赦なく突き刺していた。
その女は……
「……チェリア……!!!」
「……っ!!」
俺がその名前を叫んだ瞬間、チェリアは弾かれたように俺から身を引いた。
彼女の手は、今しがた唇を重ねていた自分の口元を覆っている。
その瞳は、信じられない現実に直面したかのように見開かれていた。
どうやら、彼女も同じ経験をしたらしい。
記憶の断片が、濁流のように脳内に流れ込んできたのだ。
「……ま、待て!!」
彼女がその記憶の中にいる勇者本人かどうかを確かめる前に……彼女は何一つ言い残さず、風のようにその場から逃げ去ってしまった。
一体全体、どうしてこんなことになっちまったんだ?
俺は、何者だ.....?
あの記憶の中で、俺は暗黒街を統べる魔王サタノスだった。
だが、俺は愛する女、チェリアの手によって殺されたはずなんだ。
------------------------------




