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白奏…壱
掌をそっと添えた硝子はただ冷たくて、堅牢なる境界線の向こうの時間を教えてはくれない。
風に揺れる葉。
零れ落ちる陽光。
咲き誇る花々。
そのどれもが、色彩豊かなそれらは決して、こちらの世界に干渉しない。
この小さな掌で掴めるものなど、果たして如何程あるというのだろう。
砂が零れ落ちていく音が聞こえる。
残された時間を告げるのではなく、消えていく世界を伝える為の砂時計。
誰かが呼ばれた。頬に当たる空気の動きに背後を通り過ぎていく存在を知る。
窓から手を離して見遣った入り口から白い服を着た大人に導かれて部屋を出て行く姿がある。いつもの彼は絶対に笑ったりしないから、それだけで彼が呼ばれた理由を知る。
会いに行くのだ。
扉が閉められる前に窓の外へと視線を戻す。白い世界に扉が閉まる音が響いて、硝子玉の中だけが豊かな色彩に彩られる。
もう、どれ程会っていないのだろう。
幾ばくの季節が、会わずに巡ったのだろう。
忘れてしまった。
違う。数えようともしなかった。
気にも留めなかった。
零れ落ちていった砂の中に、探し出そうとした記憶は埋もれてしまった。遥か、遠い過去から、今までずっと。そして恐らく、この先も。




