白奏…玖
「あの子は、幸せだった?」
再度紡がれた同じ問い。違うのは、その問うべき相手がはっきりしていた事。
「こんな所に閉じ込められて…。自由を奪われて…」
息子が幸せだったことを、彼女は知りたいのか。
「ただその死を待つ大人達を、どれ程、憎んでいたでしょうね…」
それとも、己の罪をここで懺悔したいだけなのか。
泣き声が大きくなる。崩れ落ちてしまった母親を支えるように父親もまた膝を折る。そこに、ようやく白服を纏った大人が歩み寄る。
彼は幸せでしたよ。
ご両親にお会いしている時の笑顔を覚えているでしょう?
踵を返した背中に大人の慰めの声を聞きながら、四季は悼みの部屋を後にする。
「思い出した」
追いかけてきた六花に対しての言葉だったのかは定かではない。談話室に戻る白い廊下を歩く四季の脳裏に蘇る光景がある。
世界の崩壊を願う者。
違った。
一人だけ、それを否定した者がいた。
「幸せを奪わないでくれ」
一つの欠片が願い、数多の欠片が拒絶しなかった世界の崩壊は、そこにある命の終焉も同時に意味していた。
会えなくなる。
そんな哀しいことを言わないで。
「…馬鹿だね」
無表情の彼が、あの時だけは泣き出しそうな顔をしていた。可能性の未来を想像して、それがもたらす大きな悲しみに、心を痛めていた表情。
白服の大人に呼ばれて、談話室を出て行った時のあの笑顔。
「幸せだったのか。その答えを、あの二人が一番よく知っている」
談話室に続く扉を開ける。差し込んでくる光に反射する白に数秒奪われた視界が取り戻した窓の外の世界で、桜の花びらが喜びの舞を踊っていた。
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