終奏…連
今年も、雪が降る。
白く覆われた空から、天使が落とす純白の羽が地上に薄く、薄く積もっていく。世界を眠りに誘う柔らかなゆりかごに刻まれる足跡が、優しい時間を掻き乱す蹂躙者に見えた。
その無骨な人間の存在すらもその懐に抱くかのように、降り止まぬ白い花弁はただ静かに、時間を銀色に染めていく。
瓶の中の砂が零れ落ちていく音が聞こえる。
両手で掬った粉雪が、宿す体温に溶けて消えていくかのように。
命の砂時計は、それでも残された時間を教えてはくれない。
己の手の上で溶けて消えていく姿の儚さと、見上げた空から舞い落ちてくる天使の羽の儚さと、その違いは何処にあるのだろう。片方は白い世界の一部になり、片方は温もりに消えていく。
天使の羽が生で、硝子の欠片が死。
違う、と。
過去の記憶はそう告げた。
降り積もる雪も、溶けて水となってしまった雪も、共に死だと。
どちらも、己の意思とは関係なく、外界の気紛れで命の砂は奪われる。今は子守唄を歌っている天使も、神が目を覚ませばその光の眩しさに歌を忘れてしまうから。
太陽が昇れば、春が来れば、冬が去れば、雪は大地の涙となる。流れ流れて、やがて辿り着く先で、大河の一滴となろう。
雪が、降っている。
足跡が消されていく。存在の証。白い世界に、眠りの夢に、紛れていく。




