第九話証明の一歩
第九話証明の一歩
師匠にセフィナが泊まることへの許可を貰うことが出来た。
だが、師匠がセフィナに優しく接するかどうかは別なのは理解出来ている。
まずは利用価値を示さなければ追い出されるどころか山の一員にされかねない。
床に降りた師匠は圧を強め、セフィナに命を下した。
「聖女ならば、まずはこの山を片せ」
道場中の重圧に右膝を床につけたセフィナは師匠の言葉を守るために義手の激しい駆動音と共に無理に行動しようとした。
「聖女なのだろう、ならばこの程度で膝を折るな」
膝をついたセフィナに対して師匠が向けるのは傲慢な貴族がゴミを漁り食糧を探している貧民を見下すような瞳だ。
さすがの師匠相手でもセフィナにその瞳を向けられるのは看過できない。
約束を守れるのなら俺が山の仲間入りをすることになったとしても構わない。
「師匠、圧を抑えてもらえませんか」
絶対に堪えるんだ。ここで膝を折っては師匠に利用価値が無いと判断されてしまう。
足をふらつかせている俺を見るなり、師匠は長めのため息を吐き圧を抑えた。
「聖女同様に子鹿か否かを証明してみせろ」
向けられた拳を師匠は鼻で笑い
「精進しろ、今のままならば聖女も価値なしと看做し始末する」と言い残し去っていった。
あんなに嬉しそうに鼻で笑う師匠を初めて見たと少し心が弾んでしまっている俺がいるのも事実だ。
普段ならば師匠が鼻で笑う時には見込み薄の合図だというのに、精進しろだなんて初めてだ。
セフィナを始末させるわけにはいかないが、ここまで踏み込んで伝える時は鼓舞も兼ねている傾向が多かった。
「なんだか、楽しそうですねグレンさん」
「そっ、そう見えるか? こんな状況だっていうのにすまない」
「良いんですよ。グレンさんが楽しそうなら私も頑張れそうですから……私、認めてもらえるように頑張ります」
セフィナは震えながら自らを鼓舞している。
俺にはそう見えてならない。
「安心してくれセフィナ、俺もついてる。一緒に師匠に証明してやろう。俺たちが夫婦なんだと」
こういうのは気恥ずかしいが、今回は師匠に証明しなければならない。
セフィナを少しでも鼓舞出来るのなら……いいや、これは俺自身の鼓舞のためでもある。
俺自身師匠に認めてほしいとそう感じているのが正直なところだ。
「回復魔法を頼む。俺が治った人たちから寮まで送っていく」
「分かりました。私に任せてください、これでも聖女でしたから」
気がかりなのは寮に送るまでに司教様と呼ばれていた奴らにセフィナが襲われないかどうかだ。
「セフィナ、回復魔法の前に式神を呼んでおいてくれないか? さっきのこともある、セフィナが襲われないか心配なんだ」
「グレンさんは心配性ですね。ですが、同意見です」
式神紙と詠唱を使用し、セフィナは魔鳥の式神を召喚した。
『良い判断じゃよ、お二人さん。セフィナの守りならばワシに任せておけ。今回ばかりは回復作業を手伝わせてもらうぞ』
式神はセフィナの義手を見るなり手伝うと判断した。
理由を予想するのは容易だった。
なぜなら小さくなっているとはいえ未だに駆動音が鳴り続けていることから首を縦に振る以外の選択肢はないからだ。
セフィナのことを式神に任せた上で、俺たちは山を片すことにした。
限りなく薄らと聞こえる山にされている人たちの呼吸音を聞いた俺は師匠が普段より加減をしていると判断した。
積まれている人がこの状態ならば何かしら師匠の逆鱗に触れたが抑えた証拠だ。
感情が昂るほど師匠は加減が上手くなる……そのことは俺が身をもって知っている。
そしてこの状態が二度続いた際の師匠は加減をしない。
俺の先輩はそれで殺されている。
実際その遺体を片したことさえある。
そのことから師匠の「始末する」は鼓舞であると同時に本気で証明しなければ現実にされてしまうことだ。
駆動音と共に光を放つ義手でセフィナは一人を治療した。
式神はセフィナと合わせ治療を唱えた。
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