新章 ヘッケルバイン②
ちょいな
「おい。正面から打って出て、見事に正目から躓いたぞ」
ミルコは監視カメラを見つめながらX1に静かな抗議を開始した。
「まぁ、安全に情報収集する必要があったあたからな」
「安全。これがか。教団が国を支配している状況だ。お前大体わかってたろ」
「まぁあある程度は予測できていたが、ここまでとはね」
「そういえばあの年表誰が作ったんだよ。というかお前いくつだったんだよ」
「アインシュタインと同級生と言えばわかってもらえるかな」
マルキンスが参加する。
「クローンを繰り返しているから当時からの人格が残っているかは疑問だがね」
良二も口をはさむ。
「そもそも、なぜ俺たちを生み出したんだ」
ミルコは少し目線を外す。
X1が答えた。
「一個の限界と一個の可能性の研究のためだ。それにはそれ以外が必要だ。そうであることは何の検証にもならない」
良二が静かに言った。
「研究のための命か」
「それは人間すべてにおいていえることだ。お前たちに限ったことではない」
教団警察本部の一室で大介は教団員に現状を報告しつつ、モニターでミルコたちの様子を見ていた。
「特任警部、君の感触では嘘ではないと」
「嘘をつく必要と意味もないので。佯狂としたとしてメリットが感じられません」
「本当に狂っているということは」
「わかりませんが。論理的に証明しろと言われると決めては」
「長年の勘というものか。了解した。教団Zの教義説明をしつつ、様子を見よう」
「拘束程度は」
「1で構わない。ただし、録画をし続けろ。何かあればポータルを送る」
「承知しました」
得体のしれない者たちに対して警戒レベル1の拘束。にもかかわらずポータルの出動も想定しているというのか。
大介は違和感をぬぐい切れぬまま職務を全うする決意をした。
「日本消すか」
結社の本部で良一がつぶやく。
「あちら側に良の因子は存在していないのだろう」
大柄の男が質問する。
「固着前にはね。今は本体がいるだろう。マルキンスにはしてやられたよ」
お前がやられたとは珍しいなと言った男は立ち上がり窓際に立った。
「父さんはAIに人格を移したらしい。どうも引き際が潔すぎるともおもったんだよ」
「天才が二人だとさすがの良一様もお手上げかい」
良一はこれまでの無表情が嘘かのようにニヤリと笑った。
「生命の樹の実はこちらにある。賢者の石はそもそもイレギュラーなものだ。形而上学に興味はない」
「知恵の実と生命の実をそろえれば神となれるってことか」
「神話では知恵の実を食べてしまって追放されたことになっているが、人類が知識に飢えて渇望している理由がわかるかい」
「知識に飢えているということは知恵の樹の実を食していないということか」
「惜しいね。ただ食していなければ知恵はない」
「神話の話だろう」
「そういう逃げ方は良くない。すべてが無になる」
「もったいつけてないで教えろよ」
「知恵の樹の実を食べたのは誰だ」
「アダムとイブじゃないのか」
「俺たち人間はアダムとイブの子孫か」
「そういうことになっているのじゃないか。よくわからないが」
「だとしたら、2人から始まって、増殖し続けて、知恵は等分され続けてきたと言えるか」
「急に現実味を帯びてきたな」
「人類は交配を続けて進化しているという見方もあるが、最終的には足して二で割る。組み合わせの妙でしかない」
「知恵の樹の実の知識も全人類に分配されていると」
「だから少子化精神で知識の合一を目指したのだよ」
「恐ろしいな。だか、それが本当だとしたら、すべての人類の精神が一つになれば知恵の樹の実の力が一つになると」
「仮説だが、おそらくほぼ正しい。ジェリスの体に使われた生命の樹の実と合わせればヤハウェと並ぶことができるやも」
「穏やかじゃないな」
「だが神を目指すことはない。そこにおそらく意味はない。現実がすべてだとしたら我々が存在する理由があるはず」
「神の御戯れじゃないのか」
「完全無欠の神がいたとして、なぜ劣るものを作る必要があったのか。それも自分たちの姿に似せて」
「何かつかんでるのか」
「神話の話だよ。そう真剣にならなくとも」
良一は笑っていた。
ありがとうございました。




