9話 冒険者としての第一歩 前編
「とりあえず、入団できてよかったな」
「入団なんて当たり前でしょ?」
「でも良かったぁ。こうして本当に三人でパーティを組めて」
アラド達はギルド内で正式な団印章の発行を待ちながら、笑っていた。
結局のところ、大昔からの夢、冒険者になれることが嬉しいらしい。
あまり笑わないアーリンからも、今は微笑がこぼれていた。
「そこの三人。書類が出来たからこっちにこい」
冒険者ギルド支部長、ホーマンが言った。
そして彼は儀礼的に新規入団者へと説明をはじめた。
「アラド・ミッシング。アーリン・カッディ。ミーシャ。まずは入団おめでとう。と、言っておこう」
そう言って、ホーマンはくすんだ灰色のバッジをテーブルの上に置いた。
「これは冒険者の石級であることを証明するバッジだ。見てわかるところにつけておきなさい」
「えー! 石級からスタートなの?」
アーリンがそれを見て大げさに叫んだ。
「当たり前だ。誰だろうと、最初は下石級から。それが冒険者ギルド鉄の掟だ」
石級とは、冒険者ギルドの階級のことだった。
石級、鉄級、銅級、銀級、金級、白銀級、そして伝説級。
石から金までの5つの区分はさらに上、中、下の三段階に分けられている。
つまり、下石級とは一番下の階級だった。
「私の実力見たでしょ? 銅級くらいからスタートしてもいいじゃん!」
アーリンは駄々をこねる。
「駄目なものは駄目だ。良いか、ギルドにおける階級は強さの指標じゃない。あくまでギルドに対する貢献度の高さを示すものだ。お前がもしも仮に世界最強だったとしても、やっぱり石級からスタートするのは変わらない」
ホーマンがはっきりと言うと、アーリンも反論の言葉は出てこず、
「ぶぅ」
と、不機嫌そうに声を漏らすだけ。
「ともかく、まずはこのバッジをつけろ。
で、次はこれだ。冒険者手帳。これが重要なんだ」
ホーマンはテーブルの上に三冊の手帳らしきものを置いた。
それほど分厚くない。片手で持てるほどの、小さな手帳。
ページはごくわずか、ほんの十数ページほどしかない。
「これがハンドブックかぁ」
アラドは目を輝かせ、それを手にとった。
冒険者のハンドブック。
それは彼が冒険者を目指す理由の一つだった。
ハンドブックには6大神の1柱、友神ローウンの祝福によって授けられた2つの機能がある。
1つは共有情報へのアクセス。
もう一つは所持者のステータス表示。
1つ目の共有情報とは、冒険者が記録した魔物やアイテム、地図などの情報を共有できること。
世界中のどこかで、誰かがハンドブックに情報を記録すればその情報はローウンに伝わり、そしてすべてのハンドブックへと伝達される。
所持者は知りたい情報を念じて本を開くだけで、記録されているあらゆる情報にアクセスが可能。
また、記録は所持者が観測することによって自動的に行われるため、ペンを用意する必要もない。
「あー、これがあれば、ダンジョン情報にもアクセスできるんでしょ?ならさ、早速どこかにトライしない?」
アーリンは上機嫌につぶやいた。
「未踏査のダンジョンを攻略して、攻略報酬と秘宝集め! それが冒険者の醍醐味でしょ?」
アーリンは結構向こう見ずなんだよな……と、アラドは苦い顔をした。
確かに彼女の言う通り、未踏査ダンジョン攻略に伴う報酬は莫大なものになる。
ダンジョンに生成された宝物、ユニークモンスターのドロップ品、そしてボスドロップ品。
難易度によって物品の価値は大きく異るものの、少なくとも数万Gの収入は確実と言われている。
「無理だ無理。未踏査ダンジョンなんて大抵は発見者によって攻略されるか、そうでなくても早いもの勝ちの競争になるか、あるいは高難易度過ぎて誰もクリア出来てないかのどれかだよ」
と、ホーマンが若人の夢をくじいた。
実際のところ、未踏査ダンジョン攻略は一攫千金の代名詞といえるほどだが、それにありつける冒険者の数は非常に少なかったし、期待しても得られるような類のものでもない。
幸運か、圧倒的な力、どちらかがなければそれを手に入れることはかなわない。
「えーっ……つまんないなぁ」
「それより、ステータスの確認からだ。二人はステータスを調べたことは?」
アラドは二人に聞いた。
「騎士団に入団した時に調べたけど……もう覚えてないよ」
「私も入学式の時に調べたかな」
「なら、結構昔のことだな。今調べたら、また成長している部分があるかもしれないだろ?」
そう言って、アラドはハンドブックを開きながら言う。「ステータス、表示」
言葉に応じて、ハンドブックは仄かに光を発した。
そして白紙に見えたページに、ゆっくりと言葉が浮かび上がる。
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アラド・ミッシング
レベル20
冒険者ギルド所属:下石級
基本能力
筋力:B- 耐久:B- 持久:B 技術:D- 知力:E 魔力:E
一般スキル
剣術:B- 指揮:D 生存術:D 鍵開け:E-
魔法
神聖魔法(最下級)
特異能力
剣術の才覚
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「まあ、こんなものかな?」
アラドは自分のステータスを見て小さくうなずく。
「ミーシャはどうだ?」
そしてアラドはミーシャの手帳を覗き込んで、彼女のステータスを確認した。
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ミーシャ
冒険者ギルド所属:下石級
レベル:18
基本能力
筋力:B- 耐久:B 持久:C 技術:F 知力:F 魔力:A
一般スキル
剣術:D 信仰:B 魔物言葉:B
魔法
神聖魔法(中級) 地獄魔法
特異能力
ふたつの魂
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「意外に身体能力が高い。俺と大差ないんだな……」
ミーシャのステータスを見たアラドは内心でちょびっとショックを受けた。
「アーリン。お前は?」
アラドは当然、アーリンのステータスに興味を持ったが、
「私のは秘密。個人ジョーホーよ」
アーリンはパタンとハンドブックを閉ざしてしまった。