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8話 冒険者ギルドへ 後編

――どうなってるんだ? 魔道士くずれに、聖騎士くずれ……こんな奴らが、冒険者だと?


 ホーマンはミーシャの後ろ姿を見届けながら、考えていた。

 魔道士も聖騎士も、人生のエリートコース。

 普通に進んでいれば、冒険者などというアウトサイダーに身を堕とす必要もない。

 一体どんな理由があって、あいつらはここにいるんだろう。

 そして、二人を束ねている隻腕の男は一体何者なんだろう。

 疑問は膨れ上がり、期待と、恐怖も膨れ上がる。




「お前がアラド・ミッシングか」

 

「はい。お願いします」


 そしてアラドが現れた。

 アーリンと名乗る女も赤い髪色をしていたが、彼女よりはやや明るく、茶色に近い髪色をしている男。礼儀正しい、隻腕の男。

 

「さあこい」

 ホーマンは言う。もはや、油断は欠片もない……はずだったが。


「どうした、抜かないのか?」


「ちょ、ちょっとまってください」

 アラドという少年は、なぜか背中の剣を抜かない。というよりも、抜けないらしい。

 左手のぎこちない動きはまるでまだ使い慣れていないらしい。

 

――こいつ、利き腕を失ったのか。しかも、まだそれに慣れてないってことは、最近腕を失くしたばかりってことか。


 ホーマンの身体から力が抜けた。

 利き腕を失ったばかりの少年となれば、元々剣の心得が多少あったところで、出来ることはたかがしれている。

 残念ながら、彼は一人だけ入団できないだろう。

 ホーマンはそう思って、彼にわずかな同情心を持った。


「あ、よし」


 そしてようやくアラドは剣を抜くことに成功した。

 ホーマンはそれを見て肩をすくめて笑った。


 ――おいおい、冗談だろ?


 笑うしか無かった。

 アラドの持っている(グレートソード)は、ほとんど彼の身長ほどもある。

 両腕ですら使うのは難しいはず。それを、利き腕ではない片手で扱うなど……


「棄権しても良いんだぞ。テストが始まったら、俺も攻撃するからな」


 ホーマンは彼のためを思って忠告する。

 が、アラドは聞く耳を持たない。


「行きます」


 アラドが言った。

 それと同時に、彼は深く踏み込んで、飛んだ。

 身軽な動き。油断していたホーマンは、一瞬対応が遅れた。


 その時にホーマンは気づいた。

 片腕が無くても、機動力は下がらない。

 ……いやむしろ、身体が軽くなって、素早さが増すことは必然だったかもしれない。


 地面を蹴り、左右に揺さぶりをかけながら、アラドは高速で駆け寄ってくる。

 彼の身体の重心は、その大きな剣にあった。

 まるで、剣が本体で、身体の方が付属物のようにその後を追いかけているような錯覚を覚えるような、奇妙な動き。

 ホーマンもようやく剣を抜くが、その時になってアラドは更に重心を落とし、それはまるで野を駆ける狼のようだった。

 

 そして突然戦闘がはじまった。

 アラドの剣は低い場所から振り上げるように繰り出される。


 ガァン!!


 ホーマンはその剣を、剣で受け止めた。

 すると剣と剣はお互いに弾かれてしまう。


――片腕でこの威力か。


 ホーマンはまた驚いていた。

 片腕で振るっているにしてはかなりの威力がある。

 それはおそらく単純な剣の重みの影響だろう。

 

「さあ、そんなものか?」


 だから、ホーマンは心を鬼にして、剣を振り回す。

 アラドはその動きに適応し、彼の剣の多くを躱し、時にはその攻撃を弾き、舞うように戦い続けた。

 

「やはり回避主体の動きか。片腕ではこんなものか?」


 ホーマンは、アラドの立ち振舞いを見て、少し失望していた。

 確かに動きは素早い。

 それに、剣の威力もある。

 しかしそれは、あくまで『片腕にしては』というレベル。


 一定の実力がなければ、ギルドには入団はさせられない。

 それがお互いの利益のためだった。

 同情心から彼を合格させるような真似をすれば、結果として、彼はいつか実力不足によって失敗し、大きな損益を被る可能性もある。


 お互いのためにも、片腕であることを理由に判定を甘くするようなことは決してありえない。


 ――このままだと、不合格だな。


 ホーマンはそう思って、惰性で戦闘を続けていた。


「まだ合格になりませんか? それじゃあ、もう少し本気だしますね」


 少年の口から、そんな言葉が聞こえた。

 ただのハッタリだろう。と、ホーマンはそう思ったが、違った。


 アラドの身体は更に速度を増した。

 剣の動きも、それまでは比較的単調で、直線的だったものが、今はまるで蛇のように変幻自在に、そして捉えにくい動きへと変わった。


 ホーマンもその動きに対応しようとはするが、動きの予測があまりにも難しく、すべての攻撃を躱すのは至難の技。ほんの数秒の間に、ホーマンは複数の傷を負い、一歩後ろに下がっていた。


「分かった。もう十分だ」

 ホーマンは叫んだ。

 彼の腕からは血が流れ出ている。

「アラド、お前も合格だ」


「本当ですか!? マジで!?」


「ああ、だから先にギルドに戻ってろ。私もすぐに行く」


「わかりました! ホーマンさん、ありがとうございました!」


 アラドは喜び、飛び跳ねて街の方へと引き返していった。


 

 そして、アラドが引き換えしていくのを見て、ホーマンはその場に崩れ落ちた。アラドから受けたダメージが、想像を上回っていたからだ。


 彼が使っていた武器は、おそらくレアリティ一般品質(ノーマル)。しかも無駄に重くてでかい。

 にもかかわらず、ホーマンのダメージは深刻だった。


――まったく、どうなってるんだ? こいつら……どういう集まりなんだ!?



 単純な強さだけで言えば、今日の3人を上回る入団試験志望者は居た。

 だが、こんな奇妙で、同時に実力を兼ね備えている人間は初めてだった。


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