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7話 冒険者ギルドへ 中編

 最初のテスト相手は、魔法使い風の女。

 名前はアーリン・カッディというらしい。

 試験の舞台は、街を出てすぐのなにもない街道。

 正式な試験会場ではなかったが、そんなものは必要なかった。


「で、どうすれば合格なわけ?」

 アーリンは、両腕を組んで、戦う前からすでに勝ち誇ったような顔をしていた。


「……それはなんとも言えないな。戦ってみて、『こいつは出来るやつだ』と、思わせる事ができたら合格だと思ってくれていい」

 ホーマンは、笑っていた。

 が、アーリンから漂う余裕を感じていたので、『もしかしたら3人の中でこいつだけは合格するかもしれない』という予感もあった。


「分かったわ。攻撃はできるだけ当てないようにする」


「いやいや、当ててくれて構わないさ。私はこう見えても金級(ゴールド)の冒険者だからな」


 ホーマンは胸を叩いて笑う。


「へぇ、金級かぁ。結構やるみたいね」


「あははは、褒めてくれてありがとう」

 ホーマンは笑う。そして言う。

「それじゃあ、試験開始だ。いつでもどうぞ」


 開幕の合図と共に、アーリンの手が動いた。

 手の平をホーマンに向けると、その直後、無数の炎が発生した。

 一つ一つが握りこぶし大の炎が、回転しながら輪をつくり、ホーマンに向かって向かってくる。


――詠唱無し、魔法道具なし、代償なし……ってことは純魔法か? 馬鹿な!


 混乱しながら、ホーマンは飛び、その火の輪の真ん中を曲芸のようにくぐり抜けた。

 そしてそのまま地面をゴロゴロころがり、顔をあげると、勝ち誇った顔をしたアーリンがその手のひらを顔に向けていた。


「あははははは、すごい反射神経! さすがは金級だね」


「もういい。お前は合格だ!」

 ホーマンは立ち上がり、合格を宣言する。

「しかしお前、魔道士だったのか? なぜ言わなかった」


「私は魔道士じゃないよ。ただの魔法使い」

 ニコッとアーリンは笑った。しかしそれは正確とは言い難い。

 彼女は魔道士見習いだった。


「嘘をつけよ。今の詠唱なしで唱えた呪文は『純魔法』だろう? 魔道士以外は使えないはずだ」


「そうかもねぇ」

 と、アーリンはまともに取り合わない。


――どういうことだ? なんで純魔法を使えるような奴が冒険者に?


 ホーマンの中で疑問が膨れる。


 詠唱や精霊、魔道具の力に頼らず、独力のみで魔法を行使するのは『純魔法』と呼ばれる最も高等な魔法技術。

 魔法の才覚に満ちた0.1%以下の選ばれた人間のみが使うことを許される、最高の技術。

 純魔法が使える人間の殆どは魔法学校でその技術を極め、魔道士としての勝ち組の人生を歩んでいくことが約束されている。わざわざ冒険者になろうなどという人間はほとんど居ない。


「……まあいい。ともかく合格だ」


 ホーマンは改めて合格を宣言した。


――とんでもない新人が現れたな。これは。


 そう思いながら、次の試験対象であるミーシャを呼びつけた。


 


「えっと、ミーシャ……これがお前のフルネームなのか?」


「はい。私、半魔(ハーフ)だから家名がないんです!」

 ミーシャは元気いっぱいに答える。

 先程のアーリンとかいう女と違って、礼儀正しいところは好感がもてそうだ。と、ホーマンは思う。


「なるほど、そういうことだったんだな。しかし何の魔物とのハーフなんだ?」


「……サキュバスです」


 ホーマンはその返答に、困惑した。


「馬鹿な。サキュバスが人間と交わっても子供は生まれない。嘘をつくな」


「嘘じゃありません」


「サキュバスと人間との間に子供が生まれるとしたら、世の中半魔だらけで大変なことになるだろう。そうならないように、サキュバスは人間との子供は絶対にうまれない。知ってるだろ?」


 サキュバスは人間と交わることでエネルギーを得る特殊な魔物。

 交わるたびに子供を孕んだりすれば、きりがない。

 つまりありえない話だった。


「でも、生まれちゃったんです」

 ミーシャは首をかしげる。


 その態度に嘘くささはない。

 というか、嘘を付くメリットもない。

 半魔というのは人間社会においてデメリットしかもたらさない事実だから。


「ならその証拠はあるのか?」

 

「……いえ、無いです」


「そうか」

 ミーシャの姿を見ればわかるが、サキュバスらしき特性はなにもない。蠱惑的な感じも、豊満な肉付きもない。むしろ純朴そうで、頭のにぶそうな印象を受けるだけだった。

「まあいい。ともかく試験開始だ。かかってこい」


 ホーマンは話を打ち切って、試験を開始した。

 結局のところ、冒険者に必要なのは出自や名前ではなく、強さの証明に過ぎない。

 無駄な問答はやめて、本質的な能力を確認するべきだ。と、彼は考えたのだった。


「じゃあ行きますよ!」

 そう言って、ミーシャは腰から剣を抜いた。

 そして、剣を抜く時になにか妙なジャっというこすれるような音がしたかと思うと、その刀身は炎で燃えはじめた。


 刀身にはおそらく脂かなにかが塗られていて、刀の鍔には着火剤が仕込まれているらしかった。


――燃える剣、ということは聖騎士の真似事か? こいつも変わり種だな。


 その武器の特徴を見て、ホーマンは一瞬にしてミーシャの正体を見抜いた。

 剣に炎を纏わせるメリットは、一見すると非常に薄い。

 むしろ、持ち手側の管理の難しさなどのデメリットの方が大きくなるように見えるが、聖アラン教団に所属する聖騎士であれば話は別になる。


 聖アラン教において、炎は神聖なもの。

 そして炎を代償に用いて魔法を行使することも可能になる。


――もっとも、聖騎士の冒険者なんて、聞いたことがないがな。

 

 神に仕える戦士である聖騎士は副業厳禁。

 というか、金を稼ぐような卑しい行為全般が禁止される。

 つまりここに居るミーシャは聖騎士ではない。


――見様見真似でやっているだけの、素人の技だろう。


 というのがホーマンの見解だった。


「さてと、どんな技を見せてくれるか、楽しみだな」

 笑いながらホーマンは待ち構える。


「……『地獄第一階層:炎熱地獄』」


 だからミーシャが地獄魔法を繰り出した時にはホーマンの顔に大粒の汗が流れた。


 彼女の剣が纏っていた炎はゆらめき、地面に燃え広がり、そしてミーシャとホーマンを囲う闘技場のように円形に地面を囲んだ。


 そして、炎は徐々に勢いを増し、ホーマンの身体にうんざりするほどの熱を伝える。


 そのうえ、炎は一秒ごとに強くなる。


 ミーシャもその炎の闘技場の中に居る以上、熱で焼かれているはずだが、彼女の表情は崩れない。

 おそらくは何かしらの魔法によって炎に耐性を持たせているのだろう。


「馬鹿な、なぜ!」


 そしてホーマンは混乱する。

 地獄魔法の行使には魔法道具の一種、『アランの(まき)』と呼ばれる特別な最高品質装備(ユニークアイテム)と、代償としての炎が必要になる。


 アランの薪を所持しているのは、聖アラン教団の中でもエリートコース。

 神聖騎士団の正規団員のみ。


「なぜ地獄魔法を使えるんだ」


「……私、聖騎士だったんです」

 そう言いながら、ミーシャは燃える剣(アランの薪)を片手に距離を詰めてきた。


 ホーマンは叫ぶ。


「もういい。合格だ」


「え?」


「十分だ。お前は合格。最後のアラドとかいうやつを呼んでこい。それと、この魔法も解除しろ」


「ありがとうございますっ! えへへへ」

 ミーシャは笑いながら剣を鞘に戻した。

 剣から炎が消えると、それを代償に発動させていた地獄魔法も消え失せて、焼け焦げた地面が戻った。

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