6話 冒険者ギルドへ 前編
アラド、ミーシャ、アーリンの3人は、3人とも、居場所と目標があるはずだった。
アラドは黄金傭兵団で世界最高の剣士になること。
ミーシャは神聖騎士として、弱者を救う戦士になること。
アーリンはスコフィール魔法学校で、魔道士の資格を手に入れること。
それが三人とも、田舎のボロ屋で再開している。
誰一人夢を叶えることもなく、夢やぶれて逃げ帰ってきていた。
「……ともかく、掃除するぞ。良いな」
アラドはアーリンに言った。
「そうね。まあ……任せるわ。それよりミーシャ。あんたやけに痩せてるけど、大丈夫?」
「えっと……うーん……」
ミーシャは曖昧な返事をする。
が、旧知の仲であるアーリンにごまかしはきかない。
「しょうがない。私が食べ物はなんとかするから、二人は家を綺麗にしておいて」
「ああ、分かった」
お互いがお互いに、なにか深い事情を抱えている。
そして、その傷はまだあまりに新鮮で、いくら親友とは言っても、傷口に触れるのはまだ早すぎる。
3人は3人ともそのように考えたのか、『どうしてここに逃げ帰ってきたのか』ということについて追求するものはいなかった。
アラドがほとんど一人でアーリンの家の掃除を済ませた頃、アーリンが帰ってきた。
その手にはりんごが山のように抱えられていた。
「それ、どうしたんだ? まさか盗ったんじゃないだろうな?」
「しつれーなこと言わないでよね。ちゃんとお金を払って買ってきたわよ」
「……なら良いんだけどな」
3人は綺麗になった床に座り込んで、りんごを食べはじめた。
甘くて、わずかに酸味のあるフリンク産の新鮮なりんごは、彼らの臓腑に染み渡った。
とくにミーシャにとってそれは格別らしく、ほとんど無言で、飲み下すように貪っていた。
「それで、これからどうするつもりなんだ?」
ひとしきり食事を終えたところで、アラドが言った。
「「……」」
アーリンとミーシャは黙り込んで、食べる手をとめた。
恐ろしく重苦しい空気が場を支配した。
アラドは驚いていた。この二人が、そこまで落ち込むような出来事がこの世に存在しているとは。
『これからどうするつもりなのか』
その場の三人にとって、これほど深刻な問は他に考えられないほどだった。
なにせ三人にとって、今までの人生は至極シンプルでわかりやすいものだったから。
悩むことなどなにもない。夢に向かって突き進むのみ。
……しかし、今のアラドにこの先のことが考えられないのと同じく、他の二人も先のことを考える余裕はまったくないらしかった。
「この村に残るのか? それとも、もう少し大きな街に引っ越して新しい生活を始めるとか」
しかし、アラドは黙らない。
自分が沈黙してしまえば、沈痛な空気が完全に場を支配して、二度と立ち上がれなくなるような気がしたからだった。
二人からの返事はない。
「こうなったらさ、3人で冒険者をやらないか?」
しかし、その提言が意外な反応を起こした。
アーリンとミーシャの目に、力が宿った。
「冒険者って……バッカじゃないの?」
アーリンは、語気を荒げた。
「ま、まあ私は全然やれなくはないけど」
『やれなくはない』というのは、アーリンにとって『やりたい』の比喩的表現であることを、親友のアラドは知っていた。
「私も良いよ。他にやることも無いし。それに……二人と一緒ならなんでも良いよ」
ミーシャはそう言って、アラドとアーリンの二人を抱き寄せた。
温もりが三人の中で増幅される。
アラドは、すっかり忘れていた希望を取り戻した。
「なら早速、行動開始だ」
アラドが言うと、3人はその場に立ち上がった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
冒険者。
彼らは傭兵などとは違って、大人数で構成されることはない。
多くとも5~6人程度の人数で行動を共にする。
そして魔物の討伐や、その根源である『ダンジョン』の攻略が主な仕事内容になる。
冒険者になる手段は一つ。
仕事の仲介や最低限度の管理を行う『冒険者ギルド』に所属すること。
ギルドは世界各地に点在していて、ある程度の規模以上の街であれば一つは必ず存在している。
リサカの街は田舎でもなければ、都会でもない。なんの特徴もない、平凡な街だった。
そしてそこには冒険者ギルドもあった。
冒険者ギルドリサカ支部。ギルドを取り仕切るのは『禿頭のハーマン』
43才男性、冒険者ランク金級の熟練冒険者だった。
といっても、今はギルドの役員としての仕事に追われ、現役として戦うことはほとんどない。
「すみません。俺たち3人をギルドに入れてもらえませんか」
そこに、3人の男女が訪ねてきた。
リーダー格らしき、17,8歳ほどの少年は、カウンターの上に300Gの入った袋を置いた。
ギルドの入団には手数料が必要になる。それは一人あたり100G。節約すれば、一月の食費になるほどの金額だった。
「お前たち、入団希望者か?」
『禿頭のホーマン』は3人の若者達を見て顔をしかめた。
目の前に居るのは、まだ未成年らしき3人の男女。
――まあ、これくらいの年でギルドに入りたがるやつは珍しくもないが……大抵は話にならないんだよな。ノリでテストを受けて、夢破れて帰っていく。よくあるパターンだ。
ホーマンは3人を見て薄笑いを浮かべる。
問題点は、まず真ん中の少年。右腕がない。
魔法使いであれば、片腕が無くてもさほど問題は無いだろうが、剣のサイズから考えて、職業は戦士。
となると問題だ。まともに戦えるとは思えない。
それに、少年の両脇を固めている女もそれほど強そうには見えない。
革鎧に身を包んだ方は、痩せているし、力も弱そうだ。
もうひとりの魔法使い風の方の強さは未知数だが、この二人とつるんでいる自体でたかが知れているだろう。
「やめとけ。100Gは大金だぞ? それだけの小遣いを貯めるのは大変だったろ?」
と、ホーマンは笑う。
「入団試験で不合格になっても、金は帰ってこない。だから他の事に金を使えばどうだ? お菓子とか、本とかな」
ホーマンは嫌がらせでそう言ったわけではなく、むしろ良心的理由から辞退を進めた。100Gは結構な大金だ。大人ならば大したことはないが、子供にとっては違う。
「うっさいわね。やるって言ってるんだからさっさと試験を受けさせなさいよ」
その時、魔法使い風の女がつばを飛ばした。
「ははは……なかなか活きが良いな」
と、ホーマンは笑う。
――ったく、親切心で提案してやったのに。最近のガキは生意気だな。
内心ではやや苛ついてもいた。
それに考えてみれば、どうして俺がガキの財布事情に気を使わなきゃいけないんだ? とも思う。
「よし分かった。今からテストを始めよう」
そしてホーマンは手を叩いた。
どちらにせよ、退屈していたところでもあったし、暇つぶしに若人の夢を叩き潰すのも、悪くない。そんな残酷な気持ちになって笑う。
冒険者ギルドの入団試験通過率は、およそ10%。
意外なほどに難易度が高い試験でもあった。
冒険者は危険が大きい仕事であり、仕事を請け負うにはある程度の技能を保証しなくてはならないのが理由の一つだった。
もしもこれが兵士や傭兵の入団テストであったのなら、多少技能不足であっても、入団後に訓練を積むことも可能になる。
だが、冒険者ギルドにはそんな初心者救済システムはない。
冒険者ギルドは、そこに所属する人間に仕事を斡旋し、最低限の管理をするだけの役割しか無い。
よって、入団するには最初からある程度のレベルの実力がなくてはならないわけだった。




