19話 新しい目標 前編
下銀級への昇格を果たしたアラド達は、冒険者ギルドでの仕事に励んだ。
ダンジョン攻略をすることは無かったものの、Dランク程度のモンスターを狩ったり、捕獲したりといった内容。
決して簡単な仕事ではないものの、Dランクダンジョンを素潜りで攻略可能なアラド達にとっては、やや退屈な内容ではあった。
そして仕事を終えた、とある日の夕方。
「あ~も~……一ヶ月経っても、まだ下銀級かぁ……先が思いやられるなぁ」
アーリンは夕食のテーブルにばったりと体を倒してしまった。
「なんだよ。順調だし、問題ないだろ?」
アラドは油の滴る肉を口に運びながら、そう言う。
「そうだよー。毎日おいしいものたくさん食べられて、幸せ♪」
ミーシャもご機嫌な表情。
アラド達と再会した時にはすっかりやせ細っていた体も、今はかなり肉付きがよくなっている。
むしろ少し良すぎるくらい。
「幸せとかじゃなくてさぁ!」
アーリンは机を叩く。コップに注がれた林檎ジュースがこぼれる。
「依頼をこなし初めてから稼いだ金額、分かってる? 丸々一ヶ月かけてたったの6000Gよ!? こんなんじゃあ全然お話にならないでしょ!」
「おいおい、世間一般の人間だってこれくらいの金で働いてるんだし、文句言うなよ」
そう。一般人の給料は月平均2000~3000Gほど。
それが3人と考えれば月に6000Gの収入は決して悪くない。
生活も十分できるし、むしろ生活費はたっぷりと余っているくらいだった。
「……でも、ダンジョン攻略したときは、一日で100万G以上の稼ぎがあったわけでしょ?」
しかし、アーリンにとってはそんなものははした金としか思えなかった。
なぜならダンジョン攻略で得た装備品などの総計は100万Gの価値を超えるから。
「そうは言っても……未踏査ダンジョンなんて簡単には見つからないんだから、言ってても始まらないだろ?」
「分かってるわよ。でも、私だって馬鹿じゃないんだから、ちゃんと考えがあるわけよ。この一ヶ月、どうすれば新しいダンジョンを見つけられるのか考えてみて、一つ素晴らしいアイデアが思いついたわけ」
ミーシャの目に、Gの文字が浮かんだ。
――どうやらまた、ろくでもない考えらしい。
と、アラドは辟易としながらも、興味があるフリをした。
「……へぇ、どんな?」
「二人共、私達がダンジョンを見つけた時のことは覚えてる?」
「ん? ああ、あのときはゴブリンをおいかけていったら、偶然ダンジョンにたどり着いたな」
「そう。そのとおり。だから、今後もその方法をつかいましょ? 魔物たちをわざとギリギリのところで逃して、追いかける。それで魔物たちの巣窟が見つかるってスンポーよ」
アーリンはドヤ顔で語ったが、アラドは申し訳無さそうに首を横にふる。
「あのなぁ。世の中そんなに甘くないぞ。モンスターが必ずしもダンジョンから湧いてくるわけじゃないって、知ってるだろ?確かにモンスターが発生した起源はダンジョンにあるって言われてはいるが……」
「分かってる。分かってるわよ。でも、ダンジョン探しを依頼をこなすのと平行して進めてもいいでしょ? 試行回数を増やせば、いつか必ずダンジョンが見つかるはずでしょ」
アーリンの言葉に、熱がこもりはじめる。
しかしアラドは、冷たく否定を続ける。
「魔物を泳がせて、追いかけるのを毎回やるのか? そんなことをしていたら、依頼をこなすのに掛かる時間が今の倍になって、稼ぎは半減するぞ」
「別に良いでしょ。どうせダンジョン攻略と比べたら、依頼達成の利益なんてちっぽけな石ころみたいなものなんだから!」
「いいや、依頼を確実にこなしていけば、ランクアップへの道も近づくんだぞ。ランクが上がれば依頼のレベルもあがって、報酬も確実に増えていくんだ。不確かな利益に目をくらませて、遠回りしてもしょうがないだろ」
「なにを!? あんたが今使ってる武器だって、ダンジョンで見つけたものでしょ? その武器を使い始めてから、めちゃくちゃ調子が良いって、いっつも言ってるじゃん。ダンジョンに行けば、もっといい装備が拾えるかもしれないしさぁ! それに、ランクだってそうでしょ? ダンジョンで一気に石級から銀級まで上がったのよ?」
アーリンの怒涛の攻勢に、アラドはたじろいた。
確かに言われてみればそのとおりで、アーリンの意見が正しいのかもしれない。と、考えが傾き始めたからだった。
「それは……たしかにそうだけど……」
「あの!」
と、白熱する討論に、ミーシャが割り込んだ。
「それだったら、私が聞いてみようか?」
「え? どういう意味?」
「私が魔物と話をして、ダンジョンの在り処を聞き出すの。それが一番可能性が高い方法だと思う」
「……そういえば、ミーシャは魔物の言葉が理解できるんだったな」
そこで、3人はすっかり忘れていたことに気づく。
半魔であるミーシャの特権。『魔物言葉』のスキルだった。
ダンジョンとは魔物たちの住処。魔物たちに聞き出すのが早いという考えは、理にかなっている。
むしろ今の今まで、そのことに気づいていなかった方が不思議なくらいに。
「それは試してみる価値がありそうだ」
アラドはミーシャの提案に納得。
そして早速次の日から作戦は決行されることになった。




