13話 戦闘開始
「なんでDランクっ? もしかしてボス?」
「いや違う。ボスがこんないきなり現れるわけない。雑魚だよ」
「……じゃあ、もしかしてこのダンジョン……」
「かなり難易度が高いな。おそらく、冒険者ランクで言えば、銀級以上が適正レベルだろう」
アラド達の間に、一気に緊張感が走った。
「Dランク以上の魔物と戦ったことは?」
「ないわよ。私、そもそも戦闘自体ほとんど経験ないし……」
「ごめん。私もDとは戦ったことないよ」
3人のうち、誰一人としてDランク以上の魔物とは交戦経験を持っていない。
となると、選択肢は2つある。
「どうする? 逃げる? まだ入り口まで近いから」
ミーシャが逃走を提案した。
それは妥当な判断だった。負けて、殺されればすべてを失うのだから。
「いいや、逃げない」
「そうよ。戦うに決まってるでしょ?」
が、アラドとアーリンの二人は即座に反対する。
なぜならば……
「Dランクって言っても、たかが一匹だ」
アラドは宝箱を見つめながら言った。
「そうよ。それに、もうこのダンジョンの情報はハンドブックに登録されちゃったんだから、逃げ帰ったりすれば、その間に誰かに攻略されちゃうでしょ! せっかく見つけたのに!」
そう、二人は目の前の欲望にすっかり飲み込まれていた。
逃げ出したりすれば、何も得られない。
例え負けて死ぬ可能性があったとしても、それは我慢できないことだった。
「えぇ~……」
ミーシャは金に目がくらんでいる二人を見て、ため息をつく。
「俺が前に出て翻弄する。その間に、二人は援護を頼むぞ」
アラドはそう言って、二人の返事を待たずに前に出る。
グレートゴブリンは、手に巨大な棍棒のようなものを握っていて、それを構えてアラドを迎撃する体制をとった。
「うぉおおおおっ!」
アラドは覚悟を決めて咆哮をあげる。
それと同時に、ゴブリンも武器を構え、そして振り下ろす準備をした。
「ちっ、あの馬鹿……『シールド』!」
アーリンは咄嗟に物理防御力を向上させる補助呪文をアラドに向けて唱えた。
彼の身体の表面に物理攻撃を緩衝するエネルギー体が満ちる。
その直後、グレートゴブリンの棍棒がアラドの右肩に振り下ろされた。
ズドォォンという衝撃。そして土埃。
「アラドッ!」
ミーシャが叫ぶ。が、土煙のせいでどうなったのか、彼女にはわからなかったが……
「ミーシャ。落ち着いて。あいつは無事だから」
サーチの魔法を使っているアーリンには、何が起きたのか、はっきりと見えていた。
そして土煙が晴れると、そこには血まみれの大きな死体が一つ。
そして右肩を少しだけ落としているアラドが立っていた。
「イテテテ……一発食らっちまったよ」
「このバカッ! 私がシールドを使わなかったら、致命傷だったわよ!」
バコンッ!
アーリンは彼の頭を殴った。
が、まだシールドの効果が切れていないおかげで、その攻撃も緩和されて、アラドにダメージはほとんどない。
「あはは、でも勝ったんだし、良いだろ?」
「……ふん」
と、アーリンは首を振った。
「それじゃあ早速戦利品でも回収しますか」
アラドは、首なし死体となったグレートゴブリンの遺体を漁り、荷物をチェックした。
ゴブリンが握っていた大きな棍棒は、一応武器として使えなくもないが、持ち運ぶにはあまりに大きすぎるので無視。
次にチェックしたのはグレートゴブリンの腰袋だった。
中に入っていたのはなんと金貨1枚。
つまり、300Gという結構な金額だった。
「あははは、もうゴブリン退治の報酬をかる~く上回ったな!
十倍だ十倍!」
アラドはその金を二人に見せながら、更に気づいた。
「この袋、持ち運びにちょうど良いな。でかいし」
「そうだね。確かに良いかも」と、ミーシャも同意する。「この先もっとアイテムがあるだろうし」
アラドはそれまで使っていた標準的なサイズの腰袋を、そのままグレートゴブリンが使っていたもの――『大きめの腰袋(通常品質)』に移し替えた。
「はい。宝箱の鍵も空いたわよ」
と、その時、後方に立っていたアーリンが言った。
「え? 俺が鍵をあけるって言っただろ!」
「あんたの下手くそな鍵開けに付き合ってたら、他の冒険者に追いつかれちゃうかもしれないでしょ?」
そう言って、アーリンは宝箱を開けた。
中に入っていたのは『金貨5枚=1500G』と『緑色の指輪(未鑑定)』だった。
「うわぁ! 美味しすぎ! もう1800Gも稼いじゃったよぉ!」
アーリンはそれを手に、歓喜する。
彼女の両方の目に『G』の文字が浮かぶ。
1800Gというのは、新米兵士が一月で稼ぐ給料とおよそ同程度。
それをわずか数刻の間に稼いだのだから、確かに非常に美味しい話だった。
……とは言っても、その非常に効率の良い稼ぎは、ハイリスク・ハイリターンによる利益。
「それで、どうする? まだ奥に進む? それとも引き返す?」
ミーシャはそう言って立ち止まる。
「まあ、引き返すのもアリだな。ダンジョンを発見した者には、それだけでギルドからボーナスが出る。
このレベルのダンジョンを見つけたってことは、一気に冒険者ランクが上がることもあり得ると思うし」
大金を手に入れて、アラドも少し冷静になっていた。
Dランクの魔物が入り口近辺にいきなり現れるということは、この先はもっと危険になることも考えられる。
それに、そもそもダンジョン攻略をするつもりでここに来たわけでもない。
よってポーションやテントと言った、ダンジョン攻略に必須とされるアイテムも持ち合わせがない。
このまま奥に進めば危険も強くなる……アラドの考えは妥当だと言えた。
「いーや絶対進むべきでしょ!
グレートゴブリンは結構強かったけど、勝てないってほどじゃないし!
大体、アイテムの品質は奥に行けば行くほど上がるんだから!」
しかしアーリンは断固として受け入れない。
彼女の欲の皮のつっぱりぶりは、並大抵ではないのだった。
「でもなぁ……」
「あぶないよぉ」
今回の意見は2対1。
数で言えばアーリンが不利なはずだったが、時として、多数決が意思決定の全てとは言えないときもある。
「絶対に行くから。私一人でも行くから!」
ジタバタ、ブンブンと手足を振るアーリンを見て、アラドとミーシャの二人はため息をつくしかなかった。
「分かったよ。まったく」
「うん。しかたないね」
二人はため息をつきながらも、彼女に従うことにした。
それに、ダンジョン攻略による利益が非常に大きいのも事実。
デメリットばかりではない。
3人はゆっくりとした足取りで、更に洞窟の奥へと進む。
足音がこだまし、不気味な印象がどんどんと強くなる。
暫く進むと、またしてもグレートゴブリンと遭遇した。
どうやら、このダンジョンではグレートゴブリンが標準的なモンスターらしい。
Dランクのモンスターではあるものの、敵の知能は低く、行動パターンも単純。
2戦目以降は特に苦戦することもなく、アラドの剣によってゴブリンは敗れていった。
複数体と同時に遭遇しても同じこと。
敵の知能があまり高くないのか、連携した動きはなく、結局のところ単体で出現した時と大差はない。
「ふぅ、美味しい美味しい!」
戦利品の金貨を手にしながら、アーリンは笑う。
「Dランクのモンスターも、大したことないじゃない」
そして、3人の間からは徐々に緊張が解け、ゆったりとした空気が支配しはじめた。
Dランクのモンスターを簡単に狩るというのは、かなりの成功体験だった。
Dランクといえば、『強敵』という印象を持つのが一般的。腕に自信の無い人間であれば、戦闘を避けるレベルのモンスター。
それをこれだけの数、連続して倒し続けると……
「私達、結構強いんじゃない?」
「倒してるのは俺だけどな」
「アラドすごいよ!」
調子に乗るのも当然のことかもしれない。
足取りは軽くなり、そこまではかなり慎重に周囲の様子を探りながら進んでいたのが、次第に早足で道を進むようになっていった。
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現在までの獲得品
3000G
大きな腰袋
緑の指輪(未鑑定品)




