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12話 はじめての依頼と発見と 後編

☆未踏査ダンジョンーゴブリンの洞窟ー☆


 洞窟の中に入ると同時に、3人のハンドブックが振動をはじめた。

「な、何?」

 と、アーリンが本を取り出してページを開くと、そこにはこんな文字が。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

未踏査ダンジョン発見!

構造:洞窟型

難易度:不明

最低挑戦ランク:不明

モンスター傾向:不明

ーーーーーーーーーーーーーーーー


「やった! やっぱり未踏査ダンジョンじゃん! 大発見! スーパーラッキー!」


 アーリンはその手帳の内容を確認して、その場で飛び跳ねた。

 アラドとミーシャも、内心では喜びながら、アーリンの派手な喜びっぷりを見て、少しだけ冷静にもなっていた。


「まさかダンジョンをいきなり見つけるなんてな」

「すごい偶然だねぇ」

「いや、もしかしてさっきのゴブリン。このダンジョンに逃げ帰ったんじゃないかなぁ? 『家ににげろー』って言ってたし。きっとここがゴブリンの家なんだよ」


 ミーシャが言うことで、二人は改めてミーシャが魔物の言葉を理解できるということを思い出した。

 彼女の所持するスキル『魔物言葉』は、本来であれば人間には理解できない魔物の言葉を理解できる。

 先程のゴブリンの叫び声の意味も、理解していたというわけだった。


「つまり、ここがゴブリンの巣ってことか? だとするとこのダンジョン、大したことはないな」

 アラドは言う。

 ダンジョンの難易度は、そこに生息する魔物たちの強さによって決定する。

 当然、Fランクモンスターである、ゴブリンが主なモンスターのダンジョンであれば、ダンジョンの難易度も低い。


「なら、装備を整えたりしないで、素潜りしても良さそうね」


「そうだな。とりあえず奥に進んでみよう」


 そんな調子で、三人はダンジョンを進んだ。

 洞窟状のダンジョンということもあって、内部には光がなく、暗い。

 本来ならば、松明など周囲を明るくする道具が必要になるところだが、ミーシャの武器『アランの薪』は燃える剣。

 本来の用途とは少し違うものの、暗い場所を照らすのにも役に立つ。


「まさに『薪』ね」と、燃える剣を見てアーリンがつぶやいた。


 そのまま彼女(ミーシャ)が先頭に立って、三人は洞窟を進む。

 暗くて、ジメジメとしている。

 未踏査ダンジョンというだけあって、人間が荒らしたような形跡はない。


 道を歩きながら、アーリンはハンドブックを開いた。

「うわ、これ見てよ。すごーい」

 すると、ハンドブックには3人が進んだ道のりが正確に記されていていくのが見える。

 まるで見えないペンが、自動的にマッピングを行っているかのように。

「さすがは神様の力。ちょっとどういう原理なのか想像もつかないなぁ」

 

 アーリンは、魔法使いとして純粋にその原理に興味があるらしく、ハンドブックの動きをいつまでも楽しそうに観察していた。


「油断するなよ。ダンジョンの中は魔物だらけだからな。それにトラップもあるんだから」


「ヘーキヘーキ。私、『サーチ』の魔法使ってるから」

 と、そう言うアーリンの目は、うっすらと青く光っていた。


 サーチの魔法とは、周辺にある魔物、アイテム、トラップを観測できるようにする魔法。

 地味ながら、ダンジョン攻略を慎重に行う上では重要この上ない魔法でもある。


 ――向こう見ずのアーリンが、そんな地味な魔法を習得しているなんてな。

 と、アラドは内心で驚きながらも、安心していた。

 サーチがあれば、突然の不運に巻き込まれる可能性はぐっと低くなる。

 はじめてのダンジョン攻略とは言えど、これならなんとかなるかもしれない。

 そう思いながら道を進む。


「周辺には魔物は居ないね。それに、トラップも無いけど……ちょっと待って」

 しばらく進んだところで、アーリンは立ち止まって、前方の暗闇を指差した。

「あれ、宝箱じゃない?」


 宝箱。トレジャーボックス。中に詰まっているのは、文字通り宝物。

 宝箱の中身は、モンスターがドロップする品よりは基本的に高品質で、時には『神話級』のアイテムすら見つかる可能性もある。

 一体どこの誰が準備してくれたものなのかは不明だが、ダンジョンに入ればほとんど必ず発見されるものだった。


「ホントだ。形状は……木製で金属で補強されているタイプか。ってことは、レア度は2だな」


「そうだね」


 宝箱に接近したのは、アラドだった。

 彼は鍵開けのスキルをパーティの中で唯一所持しているので、それも当然のこと。


「よし、いくぞ」


 アラドは腰袋からピッキング道具を取り出し、鍵穴に入れた。

 ただ、彼のスキルレベルがE-ということもあって、鍵開けは簡単ではない。


 かちゃ、かちゃ、という金属がぶつかる音だけが、狭い洞窟の中をこだまする。

 1分、2分と時間だけが経過していく。

 アラドの表情も、次第に曇っていって、笑顔が消えていく。


「ねえ、まだぁ?」

 アーリンは不満げだった。

「なんだったら、魔法で開けちゃうけど。『ピッキング』も使えるし」


「いや、無駄に精神力を使わないほうがいい。ダンジョンは続いているんだから、節約だ」

 

「そんなこと言って。ただ意地になってるだけでしょ?」

 

「ちがぁう! それに、もうすぐ開くから、見てろ」


 そう言って、アラドは意固地になって鍵穴ととっくみあった。

 そして更に数分の時間が経過したところで、「あ、ちょっとまって」と、アーリンが大きな声をあげた。


「……」

 しかし、アラドは鍵開けに集中しているので、それに気づかない。


「ちょっとアラド。前見て、前」


「もうちょっとなんだ。待ってくれ」


「それどころじゃ……」


 ウォオオオオン! 

 地響きのような唸り声が、洞窟の中に響いた。

 さすがのアラドも、鍵開けの手を休めて顔を挙げた。


「え?」


 そして、訪れたのは困惑だった。

 彼らの目の前には、自分たちの倍近くの背丈がある怪物が立っていた。

 肌の色は緑で、ゴブリンとよく似ているが、サイズが桁違い。重量も桁違い。


「グレートゴブリン……Dランクの魔物だっ!」

 アラドは立ち上がって仲間たちの傍に飛び退いた。

 彼も、実物を見るのははじめて。

 魔物図鑑で見た時よりもずっと大きく、力強いように見えた。

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