11話 はじめての依頼と発見と 前編
リサカの街の北の街道にて、3人組の初戦闘が発生した。
「あ、ゴブリンだ」
見つけたのはミーシャ。
ゴブリンは街道から少し外れた草原になっている場所に居た。
その数は3匹。向こうは、まだこちらに気づいていない。
「よし、俺が行く」
アラドはそう言って姿勢を低くして、一歩前に出た。
彼はまだ片腕での実戦経験が薄かったが、だからこそ戦闘経験を積みたい。という気持ちがあったのかもしれない。
「うぉおおおおお!」
そして、アラドはそのまま3匹のゴブリンに向かって走った。
「ちょっと! 勝手に行動しないでよ!」
アーリンとミーシャは、そのすぐ後ろを追いかける。
が、アラドほど足が早くない二人は、追いかけても距離を離される一方だった。
ゴブリンとは、小型の二足歩行型の魔物である。
肌は基本的に緑。武器防具を扱う知能はあるが、人間ほど賢くもなく、人語も理解しない。
そして3匹のゴブリンは、自分たちに向かって走ってくる男の存在に気づくと、急いで武器を構えた。
彼らが所持しているのは、人間が廃棄したか、あるいは死体から剥ぎ取った装備品。
よって、それほど高価な品でもなく、ほころびの見える粗品ばかり。
「うぉりゃぁっ!」
アラドが剣を振るう。
勢いに任せた直線的な剣筋だが、速度も重量も一流。
剣は防具ごとゴブリンを真っ二つに切り裂き、上半身と下半身を生き別れにさせた。
「ゴボオォ!!!!」
切られたゴブリンは、血を吐きながら、弱々しい断末魔をあげる。
「ゴブゥイ!!!」
「ゴブゴブっ!!」
その悲惨な死に様を見た、残る二匹は闘争本能を奪われ、スタコラと背を向けて逃げ始めた。
『こいつらとは、勝負にならない』
と、ゴブリンは圧倒的な実力差を察知し、逃げるくらいの知能はあったらしい。
「まだまだぁっ」
ただ、ゴブリンの討伐が仕事である以上、アラドは逃走を認めることはない。
アラドは地面を蹴り、そして流れるようにもう一匹のゴブリンを後ろから切りつけた。
今度は斜めに切り下ろすように切りつけた。
またも一撃でゴブリンは二度と動けなくなった。
そして残る一匹は、飛ぶように走り続け、街道を更に東に外れていく。
そのまま背の高い草むらの中に隠れてしまい、その姿は見えなくなった。
「逃がすかよっ!」
ゴブリンの姿そのものは見えなくなったものの、草が揺れていることはわかる。
その草の揺れと音を頼りに、アラドは自分の背よりも高い草をかき分けながら進む。
「ちょっと! 待ちなさいって!」
「アラド。待ってよぉ」
アーリンとミーシャの二人も、彼に置いていかれないように後からついていく。
そのまま、ゴブリンとアラド。アラドと仲間二人の追いかけっこがしばらく続いた。
お互いに対象を視認できないでせいで、追いかけっこは中々終わらない。
彼らはどんどん街道から離れていって、そして不意に、無限に続くかと思われた草むらの迷宮を抜けた。
「ん?」
最初に草むらを抜けたのはアラドだった。
そこで立ち止まり、目の前にあるものを見て驚いた。
草むらを抜けた先には、大きな洞窟が口をあけていたあった。
地下へと通じる、大きな洞窟だ。
まるで地面から怪物が口をぽっかりと開けて待ち構えているようにも見える。
「ダンジョンか? これ」
アラドはハンドブックを開き、周辺にあるダンジョンを確認した。
が、
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周辺には登録されたダンジョンはありません。
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と、ハンドブックに表示された。
となると、目の前にある洞窟はダンジョンではないか、あるいは……
「ちょっとアラド! 勝手にドンドン進まないでよね!」
草むらをかき分けて、アーリンがようやくアラドに追いついた。
彼女の服にはたくさんの枯れ葉やら、虫やらがひっついていた。
「って、え? ダンジョン?」
そして彼女も、アラドと同じく目の前にある洞窟を見て同じことを考えた。
「これ、見てくれよ」と、アラドはハンドブックを彼女に見せる。
「……周辺に登録されたダンジョンは無い。ってことはつまり……これはダンジョンじゃないか、あるいは未踏査ダンジョンってこと?」
「そうなるな」
そう。目の前に洞窟があるのに、ダンジョン情報がないというのはつまり、
これがダンジョンではないか、あるいはまだ誰にも発見されていないダンジョンかのどちらかということになる。
「二人とも、まってよ!」
そこにミーシャも追いついた。
「あれ? ダンジョン?」
そして3人はその地面に開いた大口の前で立ち止まる。
これは本当にダンジョンなのか、あるいはただの洞窟なのか……
「ま、入って確かめてみるしかないでしょ」
アーリンが言う通りだった。
結局、ダンジョンかどうかを知るにはそこに入って確かめる他にない。
「……だけど、良いのかな?
確かダンジョンの攻略にも冒険者ランクがある程度必要だった気がするけど」
「そんなこと『知らなかった』って言えばいいでしょ」
アーリンはそう言って、一人先に洞窟の入り口へと下って行ってしまった。
「あ、おい!」
それを放置するわけにも行かず、アラドとミーシャの二人も彼女の後に続いた。




