88.魔法陣
ペガサスなミヤコちゃんはすごいスピードで飛んでいってくれた。
昨日ゆっくり休んだから元気になったんだって。
睡眠はとってないし、休んだって言えるのかはわからないけどね。
そのおかげであっという間にお兄ちゃんとアウルが待つ東の地――海が見える場所までやってきた。
わー、海だ!
ちょっとテンションが上がるけど、それどころじゃないから。
うん。だってほら、まただよ。
『わはははは! 久しいな、皆の者』
「うん、久しぶり。一日ぶりくらいかな? みんな元気だった?」
『俺様はいたって元気だ』
「……それはよかったね。じゃあ、さよなら」
『どうした、コルリ。何をそんなに拗ねておるのだ? 俺様に会えなかったらか? 悪いが、俺様は忙しいのだ』
「そっか、じゃあ引き留めても悪いし、さようなら」
いや、ほんと面倒くさいんですけど。
ミヤコちゃんも無視してるし、私もとりあえず後はスルーしよう。
下を見るとお兄ちゃんたちが手を振ってて、ミヤコちゃんがゆっくり降りてくれた。
「悪いね、急かして。無事に気脈は修正できたらしいね」
「うン、ヒッキーもジャッキーも大丈夫だっテいうカラ。アウル、後でまたチェックしテくれるカナ?」
「うむ。かまわぬぞ」
ミヤコちゃんが華麗に着地すると、お兄ちゃんとアウルが傍にやってきた。
お兄ちゃんもアウルもひとまず元気そうでよかったよ。
麒麟に何かされたってことはないだろうけど、ここが問題の土地なんだよね?
「アウル、ヒガラさん、ご面倒をおかけしてすみません。さっそく何があったか教えてくれますか?」
ノスリは待ちきれないように話しかけ、それから私たちのほうに振り返る。
うん、何?
「コルリたちは休んでいてくれないか。ミヤコちゃんもずっと飛んでて疲れただろう?」
「私は大丈夫ですわ」
「私もダヨ。それヨリみんなで話し合ったほうガいいヨ」
ほんとノスリは水臭い。
できるだけみんなを巻き込まないようにしてるけど、今さら手遅れだからね。
女の子に変身したミヤコちゃんが亜空間からテーブルセットを出して、みんなで座る。
なぜか権兵衛も一緒にテーブルを囲んでるのは気にしない。
しかも椅子ないよね?
そろりとテーブルの下を覗くと、権兵衛はまさかの空気椅子だった。
突っ込めばいいのか、感心すればいいのか。
って、悩んでる場合じゃないよ。
ここはすぐ近くに海岸があって、波が打ち寄せる海も見えるんだけど、人影はまったくない。
どうやらこの辺りは漁師町だったらしいんだけど、漁ができなくなって人がほとんどいなくなったんだって。
ほそぼそと暮らしている人はいても、お年寄りが多くて若い人は出て行っちゃったって。
「海に魔獣が出るのですか?」
「ああ、以前聞いたことがある、軟体の長い足を何本も持った魔獣らしい。それが船ごと人々を海に引きずり込むそうだ」
あ、それってやっぱりクラーケン?
でもクラーケンってもっと沖にいるもんじゃないのかな。
よく知らないから勝手なイメージだけど。
そう思ったらやっぱりその通りらしい。
アウルの説明にみんな渋い顔になった。
「本来、烏賊魔獣は深海に棲んでいて、めったに海面には出没せぬ。それをこんな浅瀬に度々やってくるなど異常なのだ。それで調べてみた」
「では、その原因がわかったんだね?」
「うむ。烏賊魔獣にしろ、他の海洋魔獣にしろ、ここに引き寄せられていたのだ」
「引き寄せられて? それは気脈が狂っているってこと?」
「それは……」
言いかけたアウルは急に立ち上がった。
それからとことこ歩いていくからみんなもついていく。
何なんだろう。麒麟がまさかいるとかじゃないよね?
不安に思いつつ、立ち止まったアウルをみんなが囲む。
お兄ちゃんはもう知ってるからか、みんなより一歩後ろ。
「原因は……これなのだ」
「……これ?」
アウルが指をさしたのは、松のような木々の間にどんとある大きな岩。
その岩の側面に何か落書きのようなものが書いてあった。
「あ! これ、知っテる! 魔法陣っテいうカ、護符っテいうカ、呪符っテいうカ……何かダヨ!」
「うん、何かだな」
上手く説明できない私にノスリが突っ込む。
ごめん、邪魔しちゃった。
だけどアウルは大きく頷いた。
「そのとおりだ。よくコルリは知っていたな?」
「え? ほんトに?」
まさかの正解とか。
で、どれが正解?
「これは東の大陸の魔法陣のようなものだ。これらは特殊な文字で、この文字を組み合わせた文様で様々な魔法を発動させることができるのだ」
「まあ、そのようなことができるのですね」
「それで、この文様でどんな魔法が?」
「これは気脈を乱れさすようなものなのだ。要するに、魔獣を引きつけることができる。それがこの辺りにいくつも描かれているのだ」
アウルが説明してくれる間、お兄ちゃんはずっと黙ってた。
ミヤコちゃんは言葉がわからないはずなのに、真剣な睨むような表情で文様を見てる。
「いったい誰がこんなものを!? この国は東の大陸と争ったりなどしていない! なのになぜ……」
ノスリが悔しそうに訴えるけど、何も言えないよ。
ほんと意味がわからない。
「この力はおそらく、東の大陸の……麒麟が描いたものだ。かなりの霊力が込められており、簡単には消すことができ――!?」
「ミヤコちゃん!?」
アウルの説明が終わらないうちに、幼女なミヤコちゃんがいきなり岩を殴った。
うん。殴ったんだよ、ミヤコちゃんが。
結果、文様が描かれた大岩は粉砕されちゃった。
破片が飛び散らなかったのはミヤコちゃんが防壁魔法をしてくれてたからかな。
『この岩は気に入らぬ。あやつの嫌なにおいがする』
「そっかあ。それじゃ仕方ないね」
アウルもみんなもぽかんとしてる中で、ミヤコちゃんはとっても満足そうだった。
すっきりしたならよかったよ。
だけど、ここまでミヤコちゃんが嫌うなんて。
いったい麒麟はミヤコちゃんに何をしたの?




