87.熟睡しました
緊張しつつ部屋のドアをそうっと開けると、まさかのノスリが立っていた。
しかもご飯を載せたお盆を持ってるし。
「お前な、コルリ。風呂入る時はカギくらいかけろよ」
「うっかりしてタんだヨ。それに女性の部屋に入ルときはノックくらいシテよネ」
「したらしいぞ、何度も。それで俺が通りかかったときに心配してたから、俺も二回ノックした。で、応答がなかったからドアを押したら普通に開いたんだよ」
「デ、私の裸ヲ見た、と」
「見てねえよ!」
「知ってるヨ」
「はあ!?」
「ありがトう、ノスリ。じゃあ、また何かあっタらノックしてネ」
イラっとしてるノスリからお盆を受け取って、ドアを閉める。
だってびっくりしたんだもん。
まさかノスリがドアの外で待ってるなんて思わなかったから。
つい変な対応をしちゃったよ。
『ご飯であるか!』
「うん。ちょっと冷めちゃったけど、ミヤコちゃん温めてくれる?」
『任せるのだ』
お料理の温めは微妙な調節がいるので、私はちょっと苦手なんだよね。
お風呂のお湯なら熱ければ水を足せばいいだけなんだけど。
ご飯がちゃんと二人分用意されてるのはノスリが言ってくれたんだろうな。
まさかのキャットフードとかだったら、ミヤコちゃんがショックを受けるかもだし。
いや、意外といける?
「ツグミさんも誘えばよかったかな……?」
『それもそうだな。では、今から伝達魔法で誘おう。コルリ、手伝ってくれるか?』
「わかった」
そう言ってミヤコちゃんは私と手を繋いだ。。
私には伝達魔法は扱えないけど、ツグミさんに話しかけるようにする。
すると、不思議な感じで頭の中に声が聞こえた。
「ツグミさんはもう食べてしまったんだって。ツグミさんは食べるのいっつも早いからね。だからよかったら明日の朝一緒に食べようって」
『そうか。では、そうしよう』
お行儀はいいのになぜかツグミさんのお皿はすぐに空になってるんだよね。
今日はそれぞれのんびりして、また明日から一緒に行動したほうがいいかな。
椅子が足りないから、明日の朝は一脚運ばないとだね。
『ノスリは誘わぬのか?』
「たぶんノスリはここの人たちとたくさん話し合わないとダメだろうから、邪魔になっちゃうよ」
『そうか。ノスリはゆっくり休めぬのだな』
「そうだね……」
自分で言ってて気付いたよ。
せっかくの休息のチャンスだけど、ノスリは働いちゃうんだろうなあ。
でもこればっかりは止められないし、余計なことも言えない。
王子様として、ノスリはやることがたくさんあるだろうからね。
「……ミヤコちゃんはこの国の東の土地以外に、まだ魔獣が出没しそうな場所ってわかる?」
『どうであろうなあ。この地が異常なのは感じ取れたが、東の地に関しては何が問題かもわからぬからの。こういうことはアウルのほうが得意なようじゃ。役に立てなくてすまぬ』
「ううん! 全然そんなことないよ! 今すぐ知りたいってわけじゃないし、ちょっと訊いてみただけだから! 私のほうこそ、気を使わせちゃってごめんね」
『コルリには何をされてもかまわぬのだ』
「ミヤコちゃん……大好き!」
『我もコルリが大好きである』
こんなに全面的に信頼を寄せてくれるミヤコちゃんに私は何ができるかな?
もし東の地以外にも何か問題があるのなら、もう少しノスリと一緒にいられるかもなんて考えた自分が情けないよ。
「私に何ができるかはわからないけど、何もできないかもしれないけど、とにかく明日からは東の地の問題を解決できるよう頑張る!」
『コルリが頑張るなら我も頑張るのだ』
「ありがとう、ミヤコちゃん」
『コルリこそ、ありがとうなのだ。我の傍にいてくれて』
「……うん」
傍にいることで恩返しができるなら、いくらでも傍にいるからね。
もちろん、私がミヤコちゃんの傍にいたいからいるんだけど。
それからは少し早いけどベッドに入って、しりとりをしたりお話をしたりして過ごした。
ちょっと狭いけど平気。
ミヤコちゃんはあったかくてやわらかくて気持ちいいもんね。
それからやっぱり疲れていたのか、いつの間にか眠っていたみたい。
鳥の鳴き声が聞こえて目を開けたら、ミヤコちゃんがじっと私を見てた。
相変わらずこれには慣れないな。
「おはよう、ミヤコちゃん」
『コルリ……』
「うん、どうしたの?」
『おはようなのだ』
「うん? おはよう」
『コルリはこのまま起きないのではないかと思ったが、よかった』
「え? そんなにぐっすり寝てた?」
『うむ。いつもなら寝言とやらを言うし、何度も動くのにぴくりともしなかったから、死んでいるのではないかと何度か確認した』
「そっか……。ごめんね、心配かけて」
『元気ならいいのだ』
「うん。ぐっすり寝たおかげですごく元気だよ」
予想以上に疲れてたみたいで、超熟睡してたみたい。
ミヤコちゃんに心配かけて申し訳なかったな。
ほっとするミヤコちゃんを見てると、何とも言えない感情が湧いてきてぎゅっと抱きしめた。
『これ、コルリ。苦しいぞ』
「ごめんね。でももう少しだけ」
家族みんなが寝静まった夜中にふと目が覚めた時、すごく孤独で寂しく感じたことを思い出した。
長い間孤独だったミヤコちゃんの気持ちを思うと苦しくなってしまう。
昨日は、そんな寂しさをミヤコちゃんに感じさせてしまったんだ。
私の自己満足でしかないけど、ミヤコちゃんを抱きしめて孤独を蹴散らしてから、朝の準備に取り掛かる。
それからツグミさんと朝ご飯を食べてると、ノスリが出発の時間を伝えにきた。
やっぱり早く向かいたいんだね。
ミヤコちゃんは隊長さんたちに説明するのは面倒なので、人前に出るときは子猫の姿になってもらった。
「それでは殿下、皆様方、どうかご武運をお祈りしております」
「戦うわけじゃないけどな……たぶん」
隊長さんの挨拶にノスリは苦笑いで答えた。
うん。戦うことにならないといいけど……。
大丈夫だよね?
たとえミヤコちゃんが最強でも戦ってなんてほしくない。
しかも麒麟とだなんて。
ペガサスなミヤコちゃんが空に舞い上がると、またわっと歓声が上がった。
いってきます、みなさん。
この国にどうか平穏が訪れるように、私もできることは精一杯頑張るからね。




