86.お風呂
「麒麟って……アウルはあまり好きじゃない感じだったよね?」
『うむ。麒麟はかなり気位が高いからな。我もあまりよい感情は抱いておらぬ』
「ミヤコちゃんが?」
それはびっくりだよ。
ミヤコちゃんは誰に対しても優しくて公平で……いや、権兵衛のことは面倒くさそうだったけど、それは仕方ないからノーカウントで。
でもそういえば、前に視察に行ってくれたとき、麒麟の名前が出たら嫌そうな顔になってたな。
何があったんだろう。気になるけど、それはあと。
「ノスリは知ってるのかな? 麒麟が原因だって……」
『いや、麒麟に関しては我にだけ伝えてきおったのだ。ヒガラがノスリに伝えると動揺するのではないかと申したらしい』
「なるほど」
さすがお兄ちゃん。
ノスリのことをよくわかってる。
東の地とかの荒れてる原因が神獣の麒麟だとしたら、ノスリはすごくショックを受けると思う。
私でもショックだもん。
麒麟って神獣だよ? どうして人間に意地悪するのかな。
「コルリ殿はこちらの部屋をお使いください。あ、ミヤコ殿とご一緒でよろしいでしょうか?」
「はい、ありガとうございマス」
「ツグミ殿は隣のこちらをお使いください」
「ありがとうございます」
「お食事は本来なら感謝と歓迎の気持ちを込めて、宴を開きたいところですが、お疲れでしょうから各お部屋にお運びいたします」
「ありがとうございまマス。お気持ちモ嬉しく思いマス」
「お心遣い痛み入ります」
応接室っぽい部屋があった棟の半地下がお客さん用のお部屋みたい。
半地下って普通は使用人用だったりするんだけど、ここではいつ魔獣の襲撃があるかわからないから寝起きする場所はみんな半地下にあるんだって。
これからは見晴らしのいい場所でも寝れるようになったらいいね。
「じゃあ、ノスリ。またね」
「ああ」
ノスリは少し離れた部屋っぽいので挨拶したら、傍にいた人たちがざわついた。
しまった。
王子様相手に馴れ馴れしすぎたかな。
ツグミさんとも挨拶をして部屋に入ってから反省。
室内にはテーブルと椅子が二脚、長椅子とベッドだけでとても簡素だった。
「ちょっとベッドが狭いけど大丈夫?」
『このままの姿のほうがよいか?』
「私は大丈夫だよ。ミヤコちゃんが子猫でも女の子でも」
さすがにミニドラゴンだと困るけど。
小鳥さんだと潰しちゃいそうだしね。
するとミヤコちゃんは子猫から女の子に変身した。
そして一緒に部屋の中を探検する。
といっても、家具の他に扉が二つ。
一つは小さなクローゼットでもう一つはバスルームだった。
「ミヤコちゃん、久しぶりに一緒にお風呂に入ろうよ」
『ふむ。それはよい考えである』
今まで魔法で綺麗にはしてたけど、やっぱりお湯をいっぱい張った湯船につかりたいよね。
バスタブを発見してテンションはだだ上がり。
私でもできる水魔法と炎魔法の応用でお湯を用意して、服を脱いで二人で入った。
「あ~気持ちいいねえ」
『コルリは本当に風呂が好きなのだな』
「それはやっぱり……リラックスできるからねえ」
『ふむ。りらっくすか』
「……ミヤコちゃんは懐かしくならない? あの火山のこと。ずっとあそこにいたんだよね?」
『まったくないな。あの場所はただの住処であるからな。それよりもお父さんの作ったエピが懐かしい』
「じゃあさ、この国で魔獣がたくさん出没する原因がわかって全部解決できたら帰ろうね」
『うむ。みんなで帰るのだ』
ミヤコちゃんにとって、お父さんのエピが――家族のことが懐かしいと思ってくれるのが嬉しい。
だからノスリは帰れないけど、今は言わなくていいよね。
「そろそろ上がろうか? のぼせちゃうからね」
『コルリはのぼせるのであったな』
「ミヤコちゃんは強いもんね」
ミヤコちゃんには弱点ってほんとないなあ。
あれ? でもまさか……麒麟ってことはないよね?
うーん、と考えながらお風呂から上がってあまり拭き心地のよくない布で体を拭く。
ふわふわタオルがないのがこの世界の残念なところだけど、別に不便はしてないのでこのままでいいと思う。
それに髪の毛は魔法で乾かせるしね。
「あ、着替えを持ってきてなかったね」
『鞄の中か? 我が出そうか?』
「ううん、大丈夫」
亜空間のじゃなくて、鞄の中に洗濯したやつが入ってるからね。
できるだけ鞄の中に入ってるもので旅していこうって自分で決めてたから。
まあ、マットレスとか出してもらって野宿する時点で、ミヤコちゃんに甘えてるけど。
タオルっぽい布を体に巻いて、バスルームから出る。
その瞬間、ドアが開いてノスリが入ってきた。
「あ……」
「コルリ、お前――」
「殿下、コルリ様はどちらに……」
「いた! いたから、出よう!」
ノスリはあとから入ってこようとした誰かを押し出して、そのまま出ていった。
って、うわー! ドアにカギをかけ忘れてた!
こんな姿をノスリに見られちゃったよ!
『コルリ? どうかしたのか?』
「ううん! 何でもない!」
『だが今、ノスリが入ってきただろう? 美味しそうな匂いもしておったぞ』
「そうだね! ご飯の時間だからね!」
ご飯を持って来てくれた人が、応答がないから心配してノスリに言ったのかも?
うう。恥ずかしい。
急いで鞄から出した下着を身につけて服を着る。
布で隠すことなくすっぽんぽんなミヤコちゃんにも、同じように服を着せてから準備完了。
恥ずかしいけど、ご飯を持って来てくれた人には見られてないはずだし、ご飯を引き取りに行こう。
どうかノスリと会いませんように。




