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77.王子様


「ノスリ殿!」


 先頭を走っていたのは隊長さん。

 かなり手前で馬をゆっくり走らせて、それから十メートルくらい手前でみんな馬から下りた。

 だけど他の騎士さんたちは訝しげに隊長さんを見た。

 そうか。ノスリはノスリじゃないからだ。


『うむ。やはりあの魔力はタイチョウであったか。微小ゆえ、確信は持てなかったがな』

「……さすがだね、ミヤコちゃん」


 隊長さんを見て満足そうなミヤコちゃんには、そう答えるしかないよね。

 いや、ほんとにすごいんだけど。

 ドラゴンなミヤコちゃんからしてみれば、隊長さんの魔力は微小どころじゃないと思う。

 ノスリは隊長さんたちに近づいていって、私やお兄ちゃん、ツグミさんは自然に立ち上がってた。

 つられてミヤコちゃんとアウルも。


「殿下! よくぞご無事で……」


 隊長さんよりも立派な雰囲気の先頭の騎士さんが膝をついて泣き出した。

 いや、正確には泣いてないっていうか、唸っているっていうか。

 他の騎士さんたちも声を殺して泣いてるみたい。

 そりゃそうだよね。三年間家出してた王子様が帰ってきたんだもん。


「フォーシン殿、以前説明した通り、気脈の修正はまだ終わっていない。なのになぜ皆を近づけたのです?」

「お叱りは覚悟の上です。しかし、皆どうしても殿下のお姿を一目拝見したいと……。もちろんこれ以上は邪魔にならぬよう、すぐに撤退いたします」

「そうか……。皆、私の勝手で心配をかけました。申し訳ありません」

「いいえ! 殿下がご無事ならそれでよいのです! それどころか――」

「マーヤト殿、それ以上は……」

「そうでしたね、フォーシン殿。それでは殿下、私どもはこのままフォーシン殿と駐屯地にて待機しておりますゆえ、何かございましたらお声をおかけください」

「ああ、ありがとう」


 全然知らない。あんなノスリは知らない。

 ノスリをすごく遠く感じて、私はただ立って見てるだけしかできなかった。

 隊長さんは私たちのほうにぺこりと頭を下げてから、また馬に乗る。

 だけど、騎士さんたちは全く私たちを見ない。

 私たちには興味ないのかもしれないけど、ミヤコちゃんやアウルのことは聞いてないのかな?

 何だろう、この寂しさ。

 王子様なノスリはすごく遠いよ。


「すみません、ずいぶん騒がせしてしまいました」

「いや、僕たちはかまわないけど……ノスリ君はもう少し話をしなくてよかったのかい?」

「ええ。今は気脈を修正することが一番ですし、彼らがいると気が散ることもありますから」


 確かにヒッキーは騎士さんたちに会いたくなくて土に還った……いや、戻って休んでるんだけど。

 でも久しぶりの再会なのに、騎士さんたちはあんなに感動してたのに、本当にいいのかな?


「ねえ、ノスリ。ここハ私たちだけデモ大丈夫だヨ? 騎士さんたちトもっとちゃんト話をしたホウがいいんじゃナイ?」

「……彼らとは、この修正が終われば話ができる。だけど……まあ、とにかく急ぐ必要はないだろ」

「うン……そうだネ」


 そうか。急ぐ必要はないんだ。

 だって、もうノスリはこの国から離れることはないから。

 修正が終わったら、騎士さんたちと一緒にお城に帰っちゃうのかもしれない。

 そうしたら私は――私たちは何をすればいいのかな?

 何もする必要はないのかな?


「……アウル、水の王様は今も修正をしてくれてるのかな?」

『うむ。ご機嫌で新たな湖を造成中だな』

「そっか……。じゃあ、この調子でいけばどれくらいで修正は終わる?」

『ふむ……。明日には地脈の修正は間違いなく終わるだろう。水脈に関しては……かなりペースが早いようだから、やはり明日の夕方までには終わるのではないかと思う』

「明日の夕方……」


 じゃあ、明日の夕方にはノスリは駐屯地に戻るってことだよね。

 私たちはどうしたらいいんだろう……。


『コルリ、どうしたのだ? 元気がないようだが、心配事があるのか?』

「ううん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、ミヤコちゃん」


 私の不安が伝わったみたいで、ミヤコちゃんに心配をかけてしまった。

 これじゃダメだ。

 修正が終わるのはすごくいいことで、ノスリが王子様に戻るのはみんなにとっていいことなんだから。

 寂しいなんて思うのは私のワガママだよ。

 感傷に浸ってる場合じゃなくて、これからどうするかだよね。


「えっト、修正が終わったラどうしタラいい? 他の場所はどうだっタ?」


 私の質問にノスリとお兄ちゃんはちらりと視線を合わせた。

 それからアウルを見る。

 何? 何なの? 何か変なことを言った?


「気脈が大きく乱れておるのはこの場所だけであるので、精霊の王たちに頼る必要はない。ここの気脈が正常化すれば魔獣の出没も落ち着くだろう」

「それハ、よかったネ」


 うん。本当によかった。

 これでこの国の人たちが魔獣の被害に苦しむことが減るんだから。

 とはいえ、強力な聖獣はいないから、他の国に比べて魔獣の出没頻度は高くなるんだよね。

 何か対策ができないか、これからみんなで相談したほうがいいかなって考えてたら、ノスリが言いにくそうに口を開いた。


「あのさ、コルリ。ツグミさんもミヤコちゃんも聞いてほしいというか、頼みがあるんだけど……」

「うン、何? 今さら遠慮なんて必要ナイよ」

「ええ、コルリさんの言うとおりだわ」

『ノスリの頼みなら何でもかまわぬぞ』


 私だけじゃなく、ツグミさんも、アウルに訳してもらったミヤコちゃんも快諾。

 どんなことでもノスリの頼みなら聞いてあげたいもんね。

 無理なことは無理だけど。

 さあ、王子様に戻りたいとか何でもこい!




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