76.楽しい時間
「ミヤコちゃん、お待たせ。話し合いは終わったよ。ごめんね、退屈だったでしょ?」
『いいや、退屈はしていなかったぞ。コルリの顔がころころ変わるのを見ているのは面白いからな』
「え? 私、そんなに面白い顔してるの!?」
『うむ。コルリはいつでも面白いのだ』
『なんだ、コルリは自覚なかったのか? 面白いぞ、コルリは』
「アウルまで……」
ちょっと待って、聖獣さんたちには私って面白い顔で通ってるの?
それで今までみんな仲良くしてくれてたとか?
それは知りたくなかった事実だよ。
いや、まさか……。
「ねえ、ノスリ。私っテ面白い顔してるノ?」
「……いや、コルリは普通に面白いと思う」
「そっカ……って、おかしくナイ? 普通っテなに?」
「コルリ、ノスリ君はお前の言動が面白いって言ってるんだよ」
「フォローになってナイし!」
言葉はわかるよ。でも動きって何?
それに顔……顔は平均だと思ってたのに。
「お二人とも少しどうかしていますよ? 面白いという言葉にかなり語弊があります。コルリさんはとても可愛い方です。ええ、と・て・も・可愛い方なんです」
「も、もちろんコルリは可愛いよ。なあ、ノスリ君?」
「は、はい。可愛いです」
ツグミさんが怖い。
嬉しいけど、笑顔が怖い。
お兄ちゃんもノスリも気圧されてるよ。
「あ、ありがトウ、ツグミさん」
「いいえ、本当のことだもの」
うふふと笑うツグミさんはとっても綺麗。
何だか最近のツグミさんは生き生きしてるね。
で、この間にアウルがミヤコちゃんにさっきの話をしてくれてた。
うんうんって頷きながら真剣に話を聞くミヤコちゃんが可愛い。
子猫なミヤコちゃんと子犬なアウルのじゃれ合いも可愛いけど、幼児な二人の真剣な話し合いも可愛い。
その意見にはどうやらみんな賛成らしく、ほんわか気分で眺める。
『なぜ皆、こちらを見てるのだ?』
「それはもちろん、みんなミヤコちゃんとアウルが大好きだからだよ」
『そ、そうか……』
やだ! ミヤコちゃんが照れてる!
かーわーいーいー!
アウルも嬉しそうににこって笑った!
何、この破壊力!
「コルリさん、大変です。以前、コルリさんがおっしゃってた『尊い』の意味がようやくわかりました!」
「でショ、でショ! これ、これナンだよー!」
「コルリ、ツグミさんも落ち着いたほうがいいよ」
きゃっきゃっとはしゃぐ私たちに、ノスリが冷静に突っ込むけど、本当は自分だって悶えてるくせに。
お兄ちゃんはノーコメントみたいで苦笑してるよ。
ミヤコちゃんは不思議そうに首をこてんって傾けてたけど、急に表情を変えて辺りを見回した。
何? 何かあったの?
『ミヤコ、わかるか?』
『当然である。だがこれは――』
アウルも何かに気付いたみたいで、途端にみんなが緊張した。
そこにいきなり、地中からぬっとヒッキーが現れてびっくり。
「ヒッキー! まさかもう終わったの?」
『あと少しといったところである。しかし、本日はこれまでだ』
「うん、わかった。ありがとう、ヒッキー」
ずぶずぶと泥の中にまた入っていくヒッキーにお礼を言って手を振る。
太陽はすっかり昇ってるし、十分働いてくれたもんね。
『私は静寂を好む。よって、いくら聖なる乙女の知り合いでも、あまり騒がれては困る』
「う、うん。気をつける」
沈んでいくヒッキーは首から上だけの状態で呟いた。
生首が置かれてるみたいで怖いよ。
そんなに騒いでたっけ? とは思ったけど、ノスリたちが帰ってきたから注意されたのかもしれない。
壁の薄いアパートとか、上の住人の足音とか聞こえるらしいしね。
「これカラ、ヒッキーはお昼寝するカラ、静かにしてほしいっテ」
「そういう意味ではないぞ、コルリ」
「え? 違うノ?」
みんなに注意したけど、アウルに否定されてしまった。
どうやらヒッキーが言いたかったのは違うみたい。
アウルがはあっとため息を吐いて、私を見てからノスリを見る。
「土の王は人見知りだからな。これ以上の人間の紹介はいらぬということだ」
「紹介? デモ――」
意味がよくわからなかった私でも、徐々に聞こえてきた音はわかった。
これはあれだ……。
何て言えばいいか複雑な気持ちになってると、ノスリが立ち上がって音のするほうへと向かった。
「ノスリ、危ナイよ! 行っちゃ、ダメ!」
「大丈夫だよ。なあ、アウル?」
「うむ。それに何かあれば余もミヤコもいるのだ」
本当は私だって大丈夫なのはわかってるよ。
でもまさかこんなに早いなんて思わなかったから。
この国の王都に連絡が行ってから三日。
そんなに王都が近いはずがない。
だからきっと寝る間も惜しんですごくすごく急いだんだと思う。
それとも王都から来たんじゃないのかも。
『コルリ、心配はいらぬのだ』
「うん……」
「コルリさん」
私の不安を感じ取って、ミヤコちゃんが慰めて手を握ってくれる。
ありがとう、ミヤコちゃん。
反対側からはツグミさんが手を握ってくれた。
ありがとう、ツグミさん。
たぶんツグミさんには私の不安の原因もわかってるんだと思う。
音だけじゃなくて、土煙とともに見えてきたのは馬に乗った騎士たちの姿。
土煙が今度は泥となって跳ね上がってるのは、水の王様が泣いたからだね。
もうすぐ気脈の修正も終わる。
そうしたら、ノスリは王子様に戻っちゃうのかな。




