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異世界に転生した平凡な私の非凡な日々~ドラゴンさんに懐かれました。  作者: もり


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49.入国

 

 一階に下りて、みんなに改めて会ったツグミさんはきちんと挨拶をしようとしたけど、それはできなかった。

 お父さんやお母さんたちの賑やかな歓迎の声にかき消されてしまったから。

 それはノスリも一緒だったけど、ツグミさんよりはうちの家族に慣れていて馴染むのも早かった。


 それから二日間は私とノスリとツグミさんの三人は部屋に籠って、地図を広げ、どこにまず向かうかを相談した。

 もちろんそれにはアウルも加わって、「この辺りかのお?」と曖昧なことを助言してくれる。

 やっぱりこの世界の地図はかなり大雑把だから、上空から実物を見ているアウルの記憶と合わせるのは大変みたい。

 衛星写真でもあれば便利なんだけど、まあそれは贅沢言い過ぎだね。


 そしてお兄ちゃんの意見も交えて、降下する場所をポタンの街というチャムラカ王国の中堅都市の手前にある林に決める。

 ノスリが言うには、街の近隣には村や小さな町が点在しているから、徒歩で街に入っても怪しまれないんだって。


 出発は夜明け前。

 私たちを乗せたスピードでも、この距離なら太陽が昇る前には林に到着できるだろうってアウルの意見。

 慣れない街で夜に宿を探すよりは、昼前には街に入ったほうがいいってお兄ちゃんが提案。

 もちろんノスリは賛成した。

 どうやらこの国と比べてチャムラカ王国内はあまり治安がよくないらしい。

 どうしても魔獣退治に軍の人員が割かれるらしく、警備兵などが人手不足になっているって。


 それは三年前よりひどく、妹さんの手紙で知ったみたい。

 ノスリは「国のことも心配だけど、あの小さかった妹から〝軍〟とか〝治安〟なんて言葉がでてきたことにも驚いたよ」って苦笑しながら言ってた。

 三年も経てば成長するよね。特に女の子は男の子より早いし。

 よし! 無事に妹さんと早く再会できるよう、頑張ろう!

 ……まあ、一番の役立たずだけど。


「じゃあ、くれぐれも気をつけるのよ? みんな無茶はしないで。ヒガラ、よろしくね?」

「わかってるよ、母さん。引っ越したばかりなのに手伝えなくてごめん。父さん、頼むね」

「おう! 任せとけ、ヒガラ! コルリはみんなに迷惑かけるなよ! ノスリ君、ツグミさん、ミヤコちゃん、アウル君、本当に気をつけるんだよ?」

「はい。皆さんには本当に色々とお世話になって――」

「いいってことよ! ノスリ君はもう息子も同然なんだからな!」

「……ありがとうございます」

「私までお世話になって、本当にありがとうございました。また改めてこのお礼は――」

「まあ、ツグミさんまで。いいのよ、気にしないで。いつでも帰ってきてくれていいからね」

「おば様……」


 いよいよ出発する時になって、家族のみんなは起きてきて見送ってくれた。

 元々がパン屋だから、朝早いのは得意なんだよね。

 ミヤコちゃんへはアウルが通訳してくれてる。


「ミヤコちゃん、アウル、悪い奴らをやっつけて来てくれよな!」

「頑張ってね!」

『うむ、我は何者にも負けぬのだ』

「余だって負けぬ!」


 眠い目をこすって起きてきた双子の言葉に、ミヤコちゃんもアウルも力強く頷いた。

 アウルは最初、アトリに呼び捨てにされるのが気に入らなかったようだけど、諦めたみたい。

 うん、アトリにとってはアウルは年下にしか見えないからねえ。


 それからは心配性のおばあちゃんとも挨拶を交わして、静かに外に出る。

 街はまだ夜明け前でしんと静まり返っている。

 ここは裏口で庭木に囲まれているから、超早起きの人にも見られないはず。


 いつものようにアウルは羊もどき――じゃなかった、白澤に戻り、ミヤコちゃんはなんと! ペガサスに変身してくれた。

 その優雅さに、みんな息を呑み、次いで感嘆してる。

 ふっふっふっ。ペガサスに関しては、私が説明してお願いしたんだよね。

 これからギリシャ神話英雄ペルセウスも真っ青のペガサスの大活躍物語になるかも。

 だけどベレロポンみたいにはならないんだ。


 私とノスリがミヤコちゃんに跨ると、アトリがすごく羨ましそうな顔をしていた。

 また帰ってきたら、お願いすればいいんだからね。

 まあ、跨ると言うよりは乗るってほうが正しいか。

 普通の馬の大きさじゃないので羽の間に座る感じ。

 それから、お兄ちゃんとツグミさんがアウルに跨る。

 そういえば、どうしてこの組み合わせになったんだっけ?


「じゃあ、いってきマス」


 小声でみんなに挨拶をして手を振ると、みんなも無言で手を振り返してくれた。

 ふわりとミヤコちゃんが浮き上がる。

 思わずしがみつくと、ミヤコちゃんが『落としはせぬから、安心せよ』と言ってくれた。

 うん。ミヤコちゃんのことは信用してる。ただの条件反射だよ。


「コルリ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫」


 ノスリが後ろから声をかけてくれる。

 でもミヤコちゃんに乗せてもらうのは、私のほうが慣れているもんね。

 だから支えてくれなくてもいいのに。


「ノスリは大丈夫? ミヤコちゃんはスゴク気を使っテくれるから、乗りやすいデしょ? すごい速さナノに風も感じないヨネ?」

「……そうだな」


 そう頷いたノスリが、お兄ちゃんとツグミさんのほうへ顔を向ける気配がした。

 二人とも私たちと同じようにまったく風に吹かれている様子はない。

 ノスリがアウルに乗って私たちの許にきた時って、かなり風に当たった様子だったよね。

 髪の毛も乱れて、葉っぱもついてたような……。

 それだけアウルは急いでいたのかな? 確かに、フェニックスミヤコちゃんより今のペガサスミヤコちゃんのほうがゆっくりな気がする。

 まあ、一番に速かったのはドラゴンミヤコちゃんだけどね。

 久しぶりにチビドラゴンなミヤコちゃんにも会いたいなあ。


 なんて考えていると、ノスリがぐっと体を近づけてきた。

 背中にノスリの体温が感じられて、ちょっとくすぐったい。


「……コルリ」

「な、何?」

「あの山を越えれば、俺の国――チャムラカ王国だ」

「あ、そうナノ!?」


 ノスリが指さす先、目の前にとても高い連峰が見えた。

 いよいよだと思うと、なんだか緊張してくる。

 だからきっと、胸がどきどきしているんだ。


「お兄ちゃん! ツグミさん! アノ山を越えたラ、ノスリの国なんだっテ!」

「うん、そうだね」

「まあ、もうクラサ連峰なのね」


 どうやらお兄ちゃんは私が言うまでもなく気付いていたようで、ゆっくり頷いてくれた。

 ツグミさんは速さに驚いたみたい。

 だって私たちの国からもう他の国を二つ超えたんだもん。


 あの山を越えたら、高度も速度も少し落とす予定。

 ノスリが自分の国がどんなふうになっているか見たいからだって。

 それにアウルも気が乱れている場所を調べるのに都合がいいらしい。

 ただ早起きな人に見られないように気をつけないと。


 そして、あっと言う間に山を越えて、ノスリの国に入国。

 後ろにいるノスリからすごく緊張している気持ちが伝わってくるよ。

 こんなノスリは初めてかも。

 どうか、チャムラカ王国がひどいことになっていませんように。

 そう祈る私は、ある異変に気付いた。


 おかしい。ミヤコちゃんが風に当たらないようにしてくれているはずなのに、なぜか時々風を感じる。

 頬をふわっと撫でたり、髪の毛を揺らしたり。


『ミヤコ、どうするのだ?』

『どうするかは、むこうの出方次第だな。我らに害をなすつもりなら、容赦はせぬ』

「ど、どうしたの? 何か問題?」


 アウルがミヤコちゃんに急に問いかけたかと思ったら、ミヤコちゃんはとても物騒なことを口にした。

 どういうこと? 何があるの?

 二人と私の様子に、ノスリやお兄ちゃん、ツグミさんまでもがどうしたのかと身構えた。

 瞬間、守られているはずの私たちを突風が襲う。 


 ええ!? 竜巻!?

 もちろん、アウルもミヤコちゃんも風に流されることなく、私たちも転げ落ちることはなかったけど、ちょっとびっくり。

 すぐに風は収まって、恐る恐る目を開けたら、私たちの前に立ちはだかる人物がいた。


 うわー! すごいイケメンだ! イスカ様以上だよ。

 だけど……うん。ここは……間違いなく上空だね。

 しかもイケメンはなぜか上半身裸。

 腰に巻きスカートみたいなのを付けてるだけ。それに肩には羽衣みたいな細長い布。

 いったいこの露出狂は誰だろう? っていうか、やっぱり魔獣ってこと?


『ほう、これが噂のドラゴンを従える娘か。しかも白澤までとは驚いたな』


 露出狂は私に向けていきなり話しかけてきた。

 でも、その内容は気に入らない。


「違うよ。ミヤコちゃんは――ドラゴンのミヤコちゃんは友達なの。白澤のアウルだって友達。従えるとか、そういう嫌な言い方はしないで」

『ミヤコ? アウル? まさか、そなたはドラゴンと白澤に名を与えたのか? しかもその名で呼ぶことを許されるなど、従える以外のなんとする?』

「だから、友達! ねえ、ミヤコちゃん、アウル?」

『うむ、我はコルリたちと友達なのだ』

『その通りである。余もこの人間たちと友達になったのだ。そもそも、そなたには関係ないであろう』


 私たちのやり取りを、ノスリもお兄ちゃんもツグミさんも黙って見ている。

 ごめんね、今はちょっと訳してあげられない。あとでちゃんと説明するから。

 そう思いながら、露出狂を私は睨むように見た。


「とにかく、私たちは急いで行かないといけない所があるんです。だからどいてくれませんか?」

『ほう。この先に進むも、ドラゴンと一緒であれば不安はないであろうな』

「この先……何かあるんですか?」

『さて、何があるのであろうな』

『答えぬのなら、我らの邪魔をせず、さっさと去るがよい。風の王よ!』


 珍しくミヤコちゃんが苛立った調子で露出狂に告げた。

 その言葉にちょっとだけ驚いたのは内緒。

 なるほど。考えればわかるよね。

 この露出狂は風の王なんだ。そうか……って、王様!?




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