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47.旅立ち

 

 家に帰ってからは、お兄ちゃんにタゲリのことを報告した。

 すると、お兄ちゃんからはノスリとは違う案が返ってくる。


「タゲリ君のことは僕もあまりいい印象はないけど、さすがに今回は期待させて待たせるのはかわいそうだよ。だから、出発時に手紙を託せばいいんじゃないかな? 国の機関で働くから引越し先は教えられないって。だから、手紙も書けないけど、元気で……とかってね」

「ああ、ナルホド」


 うん、そっちのほうが確かに気が楽かな?

 そう思っていたら、ノスリがぼそりと何か呟いていた。

 私には聞こえなかったけど、お兄ちゃんは聞こえたみたいで、困ったように笑ってる。

 ちょっと気になるけど、まあいいや。


 それからは明日のことを話した。

 実は計画変更があるんだよね。

 ノスリは寮を明日引き払った後、うちに滞在することになっていたけど、そのまま旅に出て宿に泊まることになった。

 荷物はもうすでにミヤコちゃんが空間魔法でうちに移動させてくれているので、うちの引越し荷物と一緒に運ぶだけ。

 でも木箱一つしかなくて、着替えと必要最低限の物以外、教科書や制服は寄付するんだって。


 何で一緒に出発しないことになったかと言うと、私たちは初めは西に向かうから。

 そしてノスリは東に――祖国に真っ直ぐ向かうんだよね。

 これも私たちの行方を誤魔化すため。

 もちろんアウルがノスリを途中で回収してくれることになってるけど、それは私たちが新しい街に着いてから。

 さらにはノスリと私は新しい街に着いても、できるだけ人には見られないようにしたほうがいいんだって。残念。

 ただでさえ新しい家族は目立つのに、すぐに私たち子供が二人も姿を消すと、街の人たちに怪しまれるかもしれないって。

 お兄ちゃん一人なら、引越しが落ち着いたので出稼ぎに出たとか言えるもんねえ。


 さらにはノスリの国へも、ミヤコちゃんとアウルに乗せていってもらうんだ。

 国内に入っても、アウルが気の乱れを感じる場所までは飛んでいこうって。

 旅とはいえ、かなり楽をさせてもらうんだよね。

 ミヤコちゃんとアウルには感謝感激だよ。

 ノスリなんて恐縮しまくってるし。……って、アウルもいる今、私の必要性を感じない。

 それが最近の悩みだったりする。

 ツグミさんと違って、そこまで魔力のない私はただの足手まといでしかないようで。


「コルリ、何を難しい顔をしてんだ?」

「え? いや、別に何でもナイよ」

「そうか?」


 ダメダメ。明日が出発なせいか、変に神経質になっちゃってた。

 一番不安なのはノスリだろうに、心配かけてどうする私。

 そう思っていると、ノスリがじっと私を見てくる。

 何? ひょっとして顔にパンくずでもついてる?


「なあ、コルリ。俺さ……」

「何?」


 さり気なく口周りを手で払いながらノスリの話を聞いてたのに、途中でやめちゃったよ。

 ひょっとして無事にパンくずが取れて、突っ込む必要がなくなった?

 そう思ってたら、ノスリの手がぬっと伸びてきて、私の頭をくしゃくしゃにした。


「ちょっト!」

「あ、すまん。つい」

「ついって何? もう! 乙女の頭をくしゃくしゃにするなんテ、サイテーだね! もうお風呂に入るケド!」

「だな。じゃあ、俺、帰るよ」

「え? ア……もう?」

「そりゃ、一応はまだ門限があるからな。次に会うのは十日後くらいか? アウル君、面倒をかけるけど、よろしく頼むな」

「うむ。余に任せておけば、大船に乗った気分になれるのだ」


 そうか。今、ここでノスリと別れたら、当分会えないんだ。

 そう思うと急に不安になってきて、アウルの変な言葉も気にならなかった。


「ノスリ、本当に大丈夫? こっそり隠れテ私たちト――」

「心配するな。何度も言ってるけど、俺は三年前は一人でこの国に来たんだから。今回はどれだけ楽をさせてもらえるか……。ありがとうな」

「うん、お礼はミヤコちゃんとアウルにだネ」

「もちろんそうだけど、やっぱり一番はコルリだよ」

「私? 私は何もしていナイよ」

「いや、俺にとってお前の存在が――」

「さーてと。そろそろノスリ君は寮に帰らないとね」

「あ、はい。すみません、ヒガラさん」

「うん? 何を謝るのかな? とにかく、気をつけてね、ノスリ君」

「……ありがとうございます」


 ノスリは私の両手を握ってお礼を言ってくれてたけど、本当に私は何もできていないんだよ。

 通訳くらい。でもそれだって、アウルがいる今は必要なくて……って落ち込みそうになってたけど、ノスリの言葉で少しだけ元気が出てきた。

 きっとミヤコちゃんやアウルと出会えたことにノスリは感謝してるんだな。


 それからは家族のみんなとノスリのお別れ挨拶大会。

 さっき私も不安になって寂しいって思ったけど、お父さんなんて今生の別れのように泣きながらノスリを抱きしめて別れを惜しんでいる。

 それを見ていると、私はなんだか冷静になれた。

 ごめんね、ノスリ。しばらくはこの暑苦しい家族ともお別れだから、少し息抜きしてね。


「それじゃあ、ノスリ。気をつけてネ! 何かあっタら、絶対に助けを呼んデよ? 私は無理だケド、ミヤコちゃんがすぐに駆けつけるからネ! ――ミヤコちゃんはノスリのピンチがわかるもんね?」

『うむ。任せるがよい』

「ミヤコちゃんモ、任せてだっテ」

「うん、ありがとう。それじゃあ、また!」

「ノスリ君、気をつけてね~!」

「すぐに会えるよね!」


 みんなで玄関先まで見送って、ノスリは寮へと帰っていった。

 すごく心配だけど、きっとノスリなら大丈夫だ。うん。

 アウルはなぜか「ノスリは気の毒だのう」なんて言っているけど、にやにやしていて言葉と合ってないよ。

 心配になるから変なこと言わないでほしいな。


 そして次の日、旅立つ私たち家族を、ご近所さんたちは盛大に見送ってくれた。

 すごく名残惜しいけど、平穏は必要だから。

 変な依頼をミヤコちゃん宛てに持ってくるお客さんが増えたから仕方ないね。


「って、タゲリ! 学校は!?」

「今日は遅刻だよ。ちゃんと届けも出してるから心配するな。俺がお前の見送りに来ないわけないだろ?」

「あ……ウン。えっと、アリガトウ……。その、これを誰かに預けヨウと思ってたから、ちょうどよかっタ」


 そう言って、用意していた手紙をタゲリに渡すと、タゲリは目を見開いた。

 いや、そこまで驚かなくても――。


「コルリ! ありがとう!」

「ぎゃっ!」

「タゲリ君、公衆の面前でやめてくれるかな? ――しばくぞ、このクソガキ」


 手紙を受け取ったタゲリに抱きつかれて変な悲鳴が出た。

 すぐさまお兄ちゃんが引き離してくれたけど、周囲が冷やかしで騒がしくなって、なんだか空耳がしたような?

 しかも私から引き離してくれた時にお兄ちゃんの肘がタゲリのお腹に運悪く入ったみたい。

 タゲリは屈みこんで呻いている。

 ごめんね、タゲリ。色々と。


「じゃあ、タゲリ……バイバイ」

「さよなら、タゲリ君。ちゃんと今から学校に行くんだよ」


 タゲリにお別れをして、最後に街の人たちに手を振って、馬車に乗り込む。

 御者はお兄ちゃんで、荷車はお父さん担当。

 でも、もう二十年以上馬を御していないんだよね、お父さん……。

 車内にはすでに乗り込んでいるおばあちゃんと双子たち、そして子犬に変身したアウル。

 私がミヤコちゃんと乗って、お母さんはお父さんの隣に座る。

 お母さん、チャレンジャーだね。それとも愛?

 色々と不安はあるけれど、それでも街の人たちに窓から大きく手を振りながら、私たちは出発した。




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