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40.白澤

 

 突然の白澤に呆気に取られて言葉を失っていると、白澤はちっと舌打ちをした。

 ええ? 白澤まで、それしちゃうの?


「何だ、ここの人間どもは口がきけぬのか」

「え?」

「コ、コルリ。お兄ちゃん、疲れているのかな? この犬もどきがしゃべったように聞こえるんだけど」

「あー、大丈夫ダヨ、お兄ちゃん。幻聴じゃナイから」


 そうか。白澤は人語を操ることができるんだ。

 そのことを思い出して納得したけど、ミヤコちゃんが美少女姿のまま、すごい顔で白澤を睨んでいた。

 ひょっとして嫉妬?


「ミヤコちゃん! 言葉は通じなくても、お兄ちゃんもノスリもミヤコちゃんのことが大好きだからね! さっきもすごく心配したし、ミヤコちゃんが留守の間はずっとずっとみんな落ち着かなくて、早く帰ってきてほしくて、会いたくて、とにかく大好きなんだよ!」

『そ、そうか……。我もみんなが好きである』

『ははは。まさかその娘が、そなたの言うておった〝友達〟ではないだろうな? ただの人間ではないか』


 かっちーん! 何、この犬もどき? ムカつくんですけど! 

 白澤を睨みつけても、ふんっと鼻で笑われてしまった。

 そういえば、ミヤコちゃんのことを馬鹿にしたって言ってたよね。


「じゃあ、崇高な存在のあなたのお友達はどこにいるの?」

『何だと?』

「ミヤコちゃんには、ただの人間でしかない私と、ノスリっていう友達がいて、お兄ちゃんやお父さん、お母さん、おばあちゃんに、弟と妹のアトリにセッカ――家族がいる。でもあなたにはさぞ崇高なお友達がいるんでしょう? どこにいるの? 東の大陸? どんな名前なの?」

『そ、それは……名前……ええっと……』

「ええ? 友達なのに、名前が出てこないのお? やーだー、信じられなーい。私が友達だったら、ショックで立ち直れなーい」

『コ、コルリ……?』

「名前がわからないなら、どんな存在なの? 同じ白澤? それとも麒麟? 鳳凰?」


 私の勢いにミヤコちゃんが驚いていたけど、止まらなかった。

 魔獣だか神獣だかしらないけど、そんなに偉いの? いや、偉いのか。

 でもだからって、友達を馬鹿にするのは許せない。

 そう思って、白いくるくる犬もどきを見下ろしていたら、犬もどきは震えだした。

 あ、やばい。マジで怒らせちゃったかな?

 白澤が怒ったとして、どれくらいの力なんだろう? ミヤコちゃんに迷惑かけちゃうかな? なんて考えていると、犬もどきの大きな目から涙がぼたぼた溢れだした。


『余は……余は……崇高な存在なのだ! だから孤高であって、別に友達なんていらないのだ!』


 あ、友達いないんだ。って、要するにミヤコちゃんが羨ましかったパターンか!

 というか、打たれ弱っ!

 そんな大きな三つの目に涙をためてぷるぷる震えたって全然……。


「コルリ、お前、何を言ったんだ? 泣きだしたじゃないか」

「え?」

「そうだぞ、コルリ。小さな生き物には優しくしないとダメだぞ」

「ええ? わ、私、別に意地悪を言っタわけじゃ……」


 いや、言ったのかな。

 でもノスリとお兄ちゃんに責められるなんて。

 何を言っているのかはわからなくても、私が白澤に向かって怒っていたのはわかったみたい。


「こ、こやつは……余に、友達がおらぬと馬鹿にしたのだ!」


 ええ? 言いつけちゃう系?

 しかも馬鹿になんてしてないし。いや、やっぱりしたのか……。

 お兄ちゃんとノスリからの冷たい視線を受けて、いたたまれない。

 ミヤコちゃんは白澤が泣きだしたことに驚いたのかぽかんとしている。

 ああ、もう! 確かに私も言い過ぎたもんね。


「ごめんネ、白澤さん。私が言い過ぎたヨ。よかったら仲直りしナイ?」

「な、仲直り……?」


 別に今まで仲が良かったわけじゃないから、直るものはないか。

 いや、そんな言葉の意味にこだわっている場合じゃなくて。

 白澤の前に膝をついて、握手のつもりで手を差し出したけど、なんだか〝お手〟みたい。

 だけど白澤は私の手をぺしっと払いのけた。

 この意地っ張りわんこめー! そんな子は、こうしてやるー!


「こ、こら! 何をする! 余は、余は、人間どもに尊信されている――」

「はいはい。崇高な存在ですネー。偉いですネー」

「コ、コルリ……」


 がしっと白澤を抱えて、わしわしと撫でまくる。

 お兄ちゃんやノスリが引いてるけど気にしない。

 予想通り、白いクルクルの毛はモフモフで気持ちがよくて、抵抗されようが逃がすわけがないよ。

 だって、私は前世で紀州犬を飼ってたから慣れてるもんね。

 まあ、紀州犬の毛はこんなに柔らかくなかったけど。


『これ! コルリ! 何をしておるのだ! コルリは我の友達だろう!?』

「もちろんだよ、ミヤコちゃん。でもね、友達はたくさんいたほうが楽しいでしょ? この白澤さんは、本当はミヤコちゃんと友達になりたいんだよ」

『なんと!』

『べ、別に余は友達になど――』

「白澤さん、素直じゃない! ここで意地を張ったら、後で後悔するよ。後になればなるほど、言い出しづらくなるんだから。そもそも白澤さんはなんでここに来たの? ミヤコちゃんの後を追って来たんだよね?」

『そ、それは……』

『何だ、はっきり言うてみよ』

『う、あ……よ、余と友達になってください!』


 私の腕から抜け出した白澤は、片前足をミヤコちゃんに向けて差し出した。

 このお付き合いしてください的な展開、おもしろいんですけど。

 だからまあ、私の手を払いのけたことは許してあげよう。

 私と、細かい内容はわからないままのお兄ちゃんとノスリは、ミヤコちゃんと白澤のやり取りを固唾をのんで見守った。


『べ、別に友達になってやってもよいぞ』


 そう言って、美少女ミヤコちゃんは少しだけ屈んで白澤の片足を掴んだ。

 思わずガッツポーズした私はもう、お見合いおばさんの気持ちそのもの。

 そしてお兄ちゃんが拍手をして、ノスリもつられて拍手をしている。

 何だろう、このカオス。

 えっと、とにかくおめでたいこと……だよね?


「おめでとう、白澤さん。友達ができたね? ミヤコちゃんも新しい友達ができてよかったね」

『うむ。そうだな』

『余は……余は……っ!』


 お祝いの言葉でいいのかわからないけれど、とりあえず口にすると、ミヤコちゃんは重々しく頷いて、白澤は目にまた涙をためて、部屋の中を走り回り、お兄ちゃんのベッドの下に隠れてしまった。

 ええ? 何、このわんこ行動。

 白澤のイメージが……なんとなく、長官のような何癖もありそうなお爺ちゃんなイメージだったんだけど、違うみたい。


『こやつは何をやっておるのだ?』

「ミヤコちゃんと友達になれて、嬉しいけど恥ずかしいんだよ」

『ほう?』

『余は別に恥ずかしがってなどいない!』


 嬉しいってことは否定しないんだ。

 ベッドの下から叫ぶ白澤に、お兄ちゃんとノスリは状況をつかめていないようなので説明した。

 すると、二人とも生温かい目でベッドの下から尻尾だけ出している白澤を見つめる。

 尻尾があるんだな。なんて思いつつ、何かに似ていると考えて、思い出した。

 そうだ、狛犬だ!

 って、それはどうでもよくて……。


「ねえ、白澤さん。白澤さんは人間に変身できたりはしないの?」

『ふ……余がそのように簡単なこと、できぬわけがない』

「じゃあ、してみて!」


 これはただ単に好奇心。

 ミヤコちゃんのように、人間の姿になったら人間的年齢とか性別とかわかるかなって思ったから。


『やれやれ、人間はこれだから困る。すぐに我が儘を申すでな』

「え? できない言い訳?」

『できると言うておろう!』

「じゃあ、お願い」

『うむ。我も見てみたいぞ』

『え……お、お前もか? なら仕方ないな……』


 ほっほーう。

 何だか、本当にお見合いおばさんな気分。

 私たちがじっと見ている中で、恥ずかしそうにもそもそと出てきた白澤はお腹の辺りに埃がついていた。

 お兄ちゃん、ベッドの下も掃除しないと。


 そんなことを考えているうちに、白澤はミヤコちゃんと同じようにキラキラと輝いてその輪郭がぼやけ、次に瞬きした時には人間の姿になっていた。


 あー、うん。

 予想はしてたよ。してたけど、まさかミヤコちゃんより年下っぽいなんて。

 美少年というにもまだ早い。可愛いらしい男の子。

 アトリと同じくらいかな。

 まったく、イケメンはどこにいるんだ。


 心の中で嘆きながらも、白澤の顔にはやっぱり目が三つ、額に一つあることに気付いた。

 ってことは、確か体にも六つ目があるはず……と思って視線を下にずらしていったら、白澤の前にノスリが立った。

 そしてお兄ちゃんがさっとベッドカバーを取り上げて白澤に巻き付ける。

 ああ、なるほど。

 でも別にアトリで見慣れてるんだけどなって視線をお兄ちゃんに向けると、にっこり怖い笑顔が返ってきた。

 はい、すみませんでした。

 よくわからないけど、男子には男子のルールがあるようだ。




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