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38.退学手続き

 

 その日の夜は、ずっともやもやしてなかなか眠れなかった。

 あったかいミヤコちゃんがいないっていうのも大きかったとは思う。

 色々な考えが浮かんでは消えて、何度寝返りを打っても落ち着かなくて、気がついたら朝が来ていたって感じ。

 完全に寝不足だ。


 不機嫌なままノスリと一緒に登校すると、クラスの男子の一人が冷やかしてきた。

「お前らもう夫婦なのかよ」って。

 ガキか! くだらない。

 ふんっと鼻で笑って睨みつけると、男子は後ずさって机にぶつかった。

 馬鹿じゃないの。

 すると、男子の友達らしいもう一人の男子が私を見て、ミヤコちゃんがいないことに気付いた。


「な、なんだよ、お前……もう使い魔に逃げられたのか?」

「はあ? そう思ウ? でモほら!」


 私は負けずに言い返して、男子の後ろを指さした。

 男子はびくりとして振り返る。

 まあ、何もないけどね。


「お前……」


 男子は馬鹿にされたことに怒ったらしく、私を睨みつけてきた。

 ふん。やるなら、やってやるんだから!

 タゲリにだって何度も向かっていった根性を久しぶりに見せてやる!

 そう闘志を燃やした私だったけど、突如として頭を軽く叩かれて、試合終了。


「ほら、馬鹿なことやってんじゃねえよ。授業始まるぞ」

「ノスリ、痛い」

「痛いのはお前の言動だよ」


 苦情を言うと、呆れたようにノスリに返された。

 何だよ、何だよ。

 私のこの行き場のない闘志をどうしてくれる。

 ちょうどチャイムが鳴ったので、私は仕方なく席に着いた。


 それから授業を受けて、お昼休み。

 ノスリは事務局に退学の手続きに行くって、教室を出ていき、私はツグミさんたちとお弁当。

 みんなで広場に集まった時に、一人がミヤコちゃんがいないことを訊いてきた。


「今はちょっト……お遣いに行っテもらってるの。またちゃんと帰ってくるヨ」


 逃げたわけじゃないよってつもりで言うと、みんながほっと安堵の息を吐いた。

 どうしたのかと思ったら、ツグミさんが答えてくれる。


「よかったわ。てっきりまた魔獣が現れたのかと思ったの。でも、違ったのね」

「あ、うん。大丈夫! そ、そレに、ミヤコちゃんが言うニは、魔法使いが敵わないような強い魔獣はもう出現しナイだろうっテ。……もちろん絶対とは言えないケド」

「そうなのね? よかったー。最近、何だか魔獣の発生が多かったから心配していたの」

「あれかな? 時期的なものもあるのかな?」

「どうなんだろうねえ? 魔獣の研究も早く進めばいいのに……」


 みんなでお弁当を囲んで食べていたけど、やっぱりミヤコちゃんがいないのは寂しいな。

 いつもはお父さんの焼いたパンを美味しそうにつついているのに。


「そういえば、聞いたわよ。今日、ノスリ君と一緒に登校したんだってね?」

「え?」

「本当に仲がいいよねー」

「い、いや。ノスリとはパートナーだかラ。しかももう三年も一緒だモン」

「えー、私も三年間パートナーは変わってないけど、そこまで仲良くないよ。あくまでも業務的」

「そうナノ?」

「そうだよー。特に男女の場合はねえ。けっこう面倒だったりするんだよね。だから基本的には男女で組ませないようにしてるみたい」

「そうなんダー」


 じゃあ、ノスリと組んだのが私でよかったよね。

 男子はともかく、他の女子と組んでたら好きになられちゃったりして修羅場になったりとかありそうだもん。


「でも、今朝のことを馬鹿な男子が冷やかしてきた時、コルリさんはしっかり言い返してたものね?」

「あ、うん。ついネ……。でもああいう男子っテ、ねちっこそうだカラ、あとでまた何かされそう。だかラ、やられたらやり返すつもり」

「コルリさん、男前!」

「あら、それは大丈夫だと思うわ」

「どうしテ?」

「だって、あの時、ノスリ君は間に入りながらも、しっかり馬鹿な男子たちを睨んで牽制してたもの。私でも怖かったくらいの威圧感を発してたわ」

「え? 気付かなかったナ……」

「やだ、ノスリ君ってば、さらに男前! そういうの聞くとダメだわー。好きになりそう……。ノスリ君にはコルリちゃんがいるのに」

「ちょっ! いないヨ! 私とノスリは友達だモン! パートナーだモン!」


 一人の女子が胸を押さえながら訴えたことにびっくり。

 もう、そういうからかいは好きじゃないのに。


「これって照れてるの?」

「たぶん、本気よ」

「ノスリ君、気の毒に……」


 慌てて否定してたら、ツグミさんともう一人の子がこそこそと話してる。

 しっかり聞こえてるから!

 ああ、もう。これで二人して学校を退学したら何を言われるやら……。

 というか、みんなにはいつ打ち明けようかな。

 お兄ちゃんが何日付で退学の手続きをしたのか聞いてから、折を見てみんなには話そう。


 また今度は別の誰それが付き合ってるらしいとか、別れたらしいとかって恋愛話になって、それからは私もノリノリで参加した。

 うん、自分がネタにされるのは勘弁だけど、他人のゴシップは面白いもんね。

 ええ、ゲスですみません。


 そのうち予鈴が鳴ったので、お昼の女子会もお開き。

 ツグミさんと一緒に教室に戻る。

 ノスリはもう席に着いていて、教科書を広げていた。

 ちゃんと手続きできたのかな? いつ退学するつもりなのかな?

 訊きたかったけど、本鈴が鳴ったので諦めた。


「俺もお前も、十日後な」

「え?」

「退学の日。授業料の支払いが、ちょうどキリがいいんだよ。ヒガラさんもどうせ同じ額払うなら、受けられるものは受けないともったいないって言ってたしな。俺も賛成。お金は無駄にしたくないからな」


 午後の授業が終わって、いきなりノスリに言われた日数にびっくりしたけど、そうか。

 退学する日ね。


「うん、わかった。えっト、明日にでもみんなに伝えていいカナ? ノスリも退学するコトも……」

「うーん。俺の退学は別にかまわないけど、お前のことについてはどうだろうな……。あんまり人には言わないほうがいいんじゃないか? ヒガラさんに相談したほうがいいと思うぞ」

「そっか……。そうだヨね」


 夜逃げするわけじゃないけど、できればひっそり別の場所で暮らそうって話なのに、退学するってみんなに言ったら、街中に広がる可能性もあるもんね。

 ただ何も言わずにお別れっていうのも寂しいし、ノスリの言う通り、お兄ちゃんに相談してみよう。


「コルリ、今日も一応送っていくよ」

「……うん、ありがトウ」


 またみんなにからかわれるかなあと思いつつ、気にしても仕方ないしと素直に甘えることにした。


「わざわざ、ごめんね」

「いや、今はミヤコちゃんもいないし、危ないだろ?」

「そっか、そうダね」


 ノスリの心配通り、街を歩いていたら、肩にミヤコちゃんはいないのに、昨日と同じように色々な人に声をかけられた。

 すると、どんどんノスリの顔つきが怖くなってくる。


「ノスリ、怒ってるノ?」

「は? いや、そうじゃなくて……コルリに関しては十日後なんて呑気なことは言ってられないんじゃないかって考えてた。今日もヒガラさんは家にいるんだろ? ちょっとそれも相談したほうがいい」

「わかっタ」


 ああ、なんだかもうノスリには苦労かけっぱなしだよ。

 ようやく家に帰り着いた時には、ちょっと疲れてたけど、お兄ちゃんの部屋でまた話し合った。

 それで結局、私は明日から学校を休むことになってしまった。

 ミヤコちゃんが帰ってきたらすぐに教えるって約束して、ノスリにお土産のパンをいっぱい持って帰ってもらう。

 お兄ちゃんもなんと、仕事を辞める手続きをしたらしい。

 それも長官の手回しがあったとかで、もう長官には足を向けて寝られないよね。……長官の家がどこだか知らないけど。

 うーん。それにしても、これからいったいどうなるんだろう。




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