13.家族と友達
「……その子もドラゴンに攫われていたのか?」
「え? あ、そうじゃナクて……」
家族はみんなぽかんとしてたけど、その中で口を開いたのが、今まで黙っていたノスリだった。
えっと、どうしよう……。
「ねえ、ミヤコちゃん。ミヤコちゃんがドラゴンだってことは、隠してたほうがいいかな?」
『別にかまわんぞ。我に恥じることは何もないからな』
「そっか。じゃあ……」
こそこそとミヤコちゃんに訊ねると、堂々とした答えが返ってきた。
とはいっても、どう説明すればいいのかわからないんだけど。
ここはもう単刀直入に言っちゃおう。
「あのネ、ミヤコちゃんはドラゴンなノ」
「は?」
「へ?」
「ん?」
「え?」
「へ~、ドラゴンって小さいんだねえ」
「あたしが見たドラゴンは大きかったんだよ」
「じゃあ、大人のドラゴンだったのかな?」
ノスリとお兄ちゃん、お父さん、お母さんは、何言ってんの? って感じ。
だけど、セッカとおばあちゃん、アトリは普通に受け入れてくれた。
まあ、ノスリたちの反応は予想内だから、補足説明をする。
かくかくしかじかで……って、どんどんみんなの視線が胡乱なものになっていく。
えー。本当なのに。
「お前、散々みんなに心配かけといて、それ?」
「ほ、ホントだモン! 嘘言ってナイ!」
ノスリが呆れたように言うけど、正直に話してるのに!
私は生まれてこのかた、嘘なんて吐いたことがほとんどないんだから、信じてくれたっていいじゃない。もう!
ぷりぷりして私が答えると、ミヤコちゃんが私の服をつんつんと引っ張った。
『どうした、コルリ? あの者はコルリの敵か? やっつけるか?』
「え? ……って、違う違う! やっつけない! ノスリは私の友達! ただちょっと、意見の食い違いがあっただけ! ほ、ほら、友達の友達は友達だから……ミヤコちゃんの友達だよ?」
『我の友達? あの者がか? ……ふむ。そうか』
勝手にノスリとミヤコちゃんを友達にしちゃったけど、ミヤコちゃんはちょっと嬉しそう。ああ、ダメ。やっぱり可愛い。
美少女がちょっとツンな感じでいながら、こっそり照れたり喜んだりする姿がこんなに可愛いなんて。
そうか、これが萌えなのか。
へにゃっと自分の顔が崩れているのを自覚したのは、みんなからの訝しげな視線に気付いたから。
そうだ。忘れてた。
これはもう、あれだ。目は口ほどにものを言う……じゃなくて、百聞は一見に如かずだ。
「ねえ、ミヤコちゃん。申し訳ないんだけど、今ここであの小さいドラゴンの姿になることができる? 私と同じ大きさの」
『ふむ、かまわんぞ』
大きさについて念を押してお願いすると、ミヤコちゃんは何でもないと言うように了承してくれた。
そしてキラキラ輝きだしたので、ちょっとだけ離れて場所を空ける。
「あ、みんなモ、ちょっと下がってくれル?」
輝きだしたミヤコちゃんにびっくりして、またぽかんと口を開けたみんなを、私は警備員のように下がらせる。
はい、下がって、下がって。危ないよー。……たぶん。
みんなは私に押されるがまま下がってくれるけど、まん丸になった目はミヤコちゃんから離れない。
そして、ベキッ! と音がして慌てて振り返ると、裏口のドアにちょっとヒビが入ってしまっていた。
ああ、尻尾の長さを考えていなかった……。
『むむ? 何か当たったぞ?』
「あ、うん。またお父さんに直してもらうから、大丈夫。それよりも、わざわざありがとう、ミヤコちゃん」
『これくらいかまわんぞ。コルリとは友達だからな』
「うん、そうだね!」
ちょっと照れながら友達って言うミヤコちゃんが、やっぱり可愛い。
それだけ寂しかったんだろうなとしみじみ思いつつ、意外と幅を取ることに驚いた。
あ、女の子に幅を取るとか失礼だよね。
でも、あの時は小さく感じたけど、あそこは広かったからなあ。
なんて思いながら改めて紹介しようとすると、みんなはこれでもかってくらいに口があんぐり開いていた。
おばあちゃん、顎の調子がまた悪くなっちゃうよ。
しかもノスリまで口が開いている。珍しい。
「えっと、改めて紹介スルね。ドラゴンのミヤコちゃん。今はお願いシテ小さいサイズになってもらってるんだケド、本当はとっても大きいの」
「それは……知ってる……」
答えたのはノスリで、その声にみんなはっとして口を閉じた。
うん、わかってくれたところで、そろそろミヤコちゃんにも家族を紹介したいんだけどな。
「ミヤコちゃん、ありがとう。また人間に変身できる? 私の家族を紹介するよ」
『うむ、了解したぞ』
ちょっと場所とっちゃうしね、そろそろみんな椅子に座って落ち着いたほうがいいだろうし。
またミヤコちゃんがキラキラし始めたところで、私はやかんに水を入れて火魔法で沸騰させる。
こういう時に魔法って便利だなって思う。
そこでふと気付いた。
そういえば、ミヤコちゃんの服……って、なぜか私のコート着てるし。
うーん、さすがファンタジー。細かいことは気にしないでおこう。
「ねえ、みんなそろそろ座ろうヨ。――ミヤコちゃんも、ここに座ってくれる?」
『座る? ふむ、尻をそこにのせるのだな』
私が声をかけると、みんな呆然としたまま席についた。
セッカやアトリは目をごしごし擦ってる。うん、夢でも幻でもないからね。
ミヤコちゃんには、私の椅子をとんとんと叩いて示すと、みんなの様子を見様見真似で座った。
お母さんは私の行動に気付いて、さっとテーブルの上のカップを集めて、水魔法で洗い、お茶を淹れるのを手伝ってくれる。
そして、もう二つカップを出してお茶を淹れると、私は予備の椅子を出して、ミヤコちゃんの隣に座った。
その間、微妙な沈黙がキッチンに漂う。こんなにキッチンが狭く感じるのも初めてだな。
「えっト、改めてミヤコちゃんにみんなを紹介スルね。――ミヤコちゃん、こちらが私のお父さんで、こっちがお母さん、お母さんの向こうに座っているのがおばあちゃん……お母さんのお母さんね。で、その隣に座っているのが弟のアトリと妹のセッカ。ミヤコちゃんの隣に座っているのがお兄ちゃんのヒガラで、その向こうが友達のノスリ」
『うむ。要するに、コルリの家族だな。それと、友達のノスリだ』
「うん、そうだね」
みんなに紹介することを言ってから、手で示してミヤコちゃんに紹介していると、みんな一応ぺこりと頭を下げてくれた。
ミヤコちゃんはとりあえず大雑把に把握したみたい。
だけど、友達認識しているノスリには、指をさしてにっこり笑った。
途端にノスリはちょっと驚いたように目を見開く。
「まあ、なんだ……その、コルリがそのドラゴン? と話していることはよくわからんが、とにかく、その子もここで一緒に暮らすということか?」
「そう、そうなノ! いいカナ?」
「そうねえ、ドラゴンさんは何を食べるのかしら? やっぱりお肉がいいのかしら?」
「ドラゴンさんじゃナクて、ミヤコちゃん。可愛い名前でショ? ――そういえば、ミヤコちゃんは何を食べるの? お母さんが訊いてるんだけど、やっぱりお肉?」
『うむ。我は草でも肉でも溶岩でも、何でも食べるぞ。世話になるのだからな、贅沢は言わん』
「お母さん、ミヤコちゃんは何でも食べれるって」
「あら、そうなの? じゃあ、みんなと一緒でいいわねえ」
「それよりも、ミャーゴちゃんが着ているのは、コルリのコートだろう? ちゃんとした服はないのかい?」
「ああ、そうなんだヨネ。ねえ、お母さん。私の昔の服、あるヨネ?」
「ええ、セッカに着せるつもりで、まだちゃんととってあるわよ」
「あ! あたし、どこにあるか知ってるから、取って来る!」
「ずるいぞ、セッカ! 俺も行く!」
お父さんの疑問にお願いで答えると、お母さんがご飯の心配をした。
これって、もう一緒に住むことは了解してくれたってことだね。
ミヤコちゃんとみんなは言葉が通じないから私が通訳すると、お母さんは安心したようだった。
すると、今度はおばあちゃんがミヤコちゃんの着ている服に気付いた。
でも、ミヤコちゃんの発音がおかしいよ、おばあちゃん。
双子たちが先を競って二階の物置部屋に駆けていく。
よかった。みんなミヤコちゃんを受け入れてくれて。――と思った瞬間。
「ちょっと、皆さん。ドラゴンと一緒に住むって……それでいいんですか?」
あ、ノスリは我が家の呑気さを知らなかったんだね。
まあ、言葉が通じないのは不便だからなあ。もっとちゃんと話し合いは必要だ。
「まあ、それはいいんじゃないか? それよりも、コルリが無事に戻ったことを、国に説明しないとなあ」
ああ、そういえば、それもあったね。
お兄ちゃんの言葉に、ノスリは呆気に取られていた。
うん、散々心配かけておいて、ごめんね、ノスリ。うちの家族ってこんな感じなんだ。




