表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/45

2-2、家

 髭面(ひげづら)の男の名は、ルッグ。

 都市デクレスと都市リイドの間を行き来しながら商いをしている。


 同じように二つの都市を往復しながらの売り買いで生計を立てている商人(あきんど)は他に何人も居るが、自分はその誰よりも利ざやを稼いでいるだろうとルッグは内心思っていた。


 誰も通ろうとしない新街道こそが、ルッグの利益の(みなもと)、他の商人に対する彼だけの優位性だった。

 新街道を通れば、旧道を使う同業者より一日早く目的地に到着できる。宿代を倹約し、いち早く品物を売りさばくことができる。


 しかし彼は、怖くないのか? 日没とともに霧の中から現れ、人に取り()き、人を喰らう妖魔どもが……


 確かに、夜中に森の中を彷徨(うろつ)いたからといって、必ずしも妖魔に命を取られるわけではない。

 広い森の中で妖魔に出会うか出会わないかは、あくまで確率の問題だ。

 それに万が一、近くに妖魔が出現しても、人間の方がいち早く木の陰や(やぶ)の中に身を潜めていれば……朝まで妖魔に見つからなければ……命を取られることは無いという噂もあった。

 しかし、そんなあやふやな噂や確率に依存して、何年も商売を続けられるのだろうか?


 * * *


 新街道に接続した町の大通りから、すこしだけ細い道に入って、しばらく奥へ奥へと進み、かつては大商人の家だったと(おぼ)しき大きな建物の前を通り過ぎ、さらに角を何度か回って辿(たどり)り着いたのは、先ほど通り過ぎた大商人の家の裏庭だった。


 裏門の前に馬車を()め、(ふところ)から鍵束(かぎたば)を出して、そのうちの一つを門の鍵穴に差した。

 カチリと音がして錠が外れた。

 裏庭に入り、建物の通用口の錠も同様に解除し、ルッグは躊躇(ちゅうちょ)なく建物の中に入った。


 ある日とつぜん霧の中から現れた妖魔に襲われ、この豪邸が(あるじ)を失い無人となって二十年。建物には目立った瑕疵(かし)や劣化も無く、かつての美しさを良く留めていた。

 漆喰(しっくい)の白壁、美しいモザイク模様の(ゆか)、彫刻、絵画、調度品の数々……

 ほんの一つ、二つ、破損して横倒しになったまま捨て置かれた家具があった。

 家の中に(よど)んだ黴臭(かびくさ)い空気を入れ換えて(ほこり)()き出し、壊れた家具を撤去すれば、明日からでも住めそうな気がする。


 ……二十年前のあの日から、時間が止まってしまったかのようだ……ルッグはこの町に来るたびに、この豪邸に足を踏み入れるたびに、思う。


 埃を(かぶ)った彫刻の間を抜け、倒れた(たな)をまたいで、彼は豪邸の奥へ、廊下を歩いて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ