キーアの加害動機
今、この光景は現実なのか。
権力者を自宅に招いてる、というだけでもなかなか胃の痛い事態だが、その権力者が自分の知り合いに土下座までしている。
マールも止まっていたが、ハイーラも止まった。
「…ここまでやられるとは」
「見えないー」
イアノはペルセを膝の上に乗せながら、その様子を冷静に見ていた。ただ、ペルセの視界を隠していたようで、ペルセはこの異常事態を直接見てはいないようだ。
「リリエス、話を戻しますわ。謝罪だけが、本要件ではないはずですわよ」
「…そうですね」
「マールさんも、お座りになって?」
イアノの一言で、リリエスは元の席へ戻り、固まってたマールもハイーラの隣の椅子に座った。
ハイーラもイアノの言葉で、ようやく我に返った。
「…今回、キーア達の処遇について、正式に決定したので、それの共有をさせていただきます」
リリエスはそう言うと、掌の中に魔力を練り込み、机の上に魔力の紙として広げた。
その中身を、イアノを除く全員が眺める。
未だイアノの膝の上にいるペルセは中身がよく分からないようで、首を傾げていた。
そんなペルセの頭を、イアノは優しく撫でている。とても、心地よさそうだ。
ーーーこうやって見ていると、ただひたすらに可愛く甘える子供だ。
そう思いながら、ハイーラは書類の中身を確認する。
「罪状としては、マールさんへの長期に渡る加害、不当な住居追放。そしてベリアスでの大規模詐欺、それで得た富を用いての役員への贈収賄、及び子供達の長期に渡る監禁」
リリエスが書類に書かれている罪状を読み上げる。
何度聞いても酷いものだ。こうして並べられると、余計にそう感じる。
隣で聞いているマールも、若干引いているようだ。
「…キーアへの尋問の末に、動機も発覚しました」
リリエスも呆れたように、一息をついた。
キーア達の動機など、ハイーラには何となく読めている。
あれ程家柄と看板を重要視する連中だ。大方、それを守るため、とかそういうことだろう。
リリエスは一瞬、ペルセの方を見た。そして、遠慮がちに、しかし重々しく口を開いた。
「…子供もいるのでオブラートに包みますが…。『淫魔の幻惑の才がない者は、家にはいらない。徹底的に、公私共にいない者とする』。これが、マールさんへの加害の動機になります」
「予想はしてました〜」
マールは能天気に笑っている。だが、そんな笑って流せるような動機ではない。
予想はしていた。でも、それを突き付けられるのはキツい。
「マールさんを傷付けようとした悪魔がいたの!?それは誰!?」
「悪い悪魔はやっつけたから大丈夫ですわよ〜」
鼻息荒く話に入ってきたペルセを、イアノが優しく止めている。
良かった。とりあえず、ペルセのトラウマを刺激せずに済んでいる。
何より、マールのために怒ってるのが、自分だけではなかった。その事実と、ペルセの子供らしい怒り方に、何だかほっこりした。
リリエスはその空気を読まずに、話を続けた。
「あと、子供の監禁についてですが…『公的に消すのは面倒だから、最初から出さなければいい』という結論に至ったようです」
「そんなことで、閉じ込めたのですか…!?」
リリエスの言葉で、暖かくなっていた感情が一気に冷やされた。
随分とふざけた理由だ。マールを社会的に抹殺する手間が面倒だったから、その後生まれた才能ない子供は、最初から生まれたことすら公にしない、ということか。
もはや、怒りも沸かない。
「子供達は、私達キュエル家で、責任持って面倒を見ます」
「…お願いします」
リリエスはそう言いながら、真っ直ぐにこちらを見る。元々疑うわけではなかったが、その目には強い覚悟が宿っている。
ハイーラはその厳格な雰囲気に釣られ、思わず会釈してしまう。
「…リリエス、キーアへの処罰のお話もされないと」
「そうでしたね」
イアノは自身の膝の上に居座り続けて甘えるペルセの相手をしつつ、リリエスを一瞥する。
リリエスも軽く頷き、資料を一枚めくった。




