ソロモニアの会議
一方、エストラ学生街の外れにある、破壊された研究所。その周りは、トロールが暴れたことにより、瓦礫の山と化している。
昼間であっても、そこに人がいるはずはない。ましてや今は深夜帯。にも関わらず、そこには複数の人影があった。
そこにいる者達は、一見しても分かるほどに不審者だ。黒いローブに身を包み、暗闇の中でフードを深く被り、口元しか見えないほどに顔を隠していた。
「…集まったな。では、報告を聞かせてもらう」
その中心に立つ一人の人間が、ゆっくりと口を開くと、座っていた男たちが各々、瓦礫を机の代わりに使用し、資料を広げた。
「はい、まず私から」
「どうだった」
一人の人物が挙手をし、指名される。指名された人物は、特に感情をあらわにすることなく、淡々と語り始めた。
「対象の悪魔の魔力についてですが、現場の調査で『白色の魔力』を発していた、という目撃証言が複数、私が潜入調査した警備隊の記録から確認されています」
「白色…高純度の魔力か…」
白色の魔力。相当に質が高いことが伺える。しかもそれを、トロールを一撃制圧できる火力で出せる、という話だ。
そんな魔力を持つ悪魔を自分達の意のままに扱えれば、それだけで兵器転用は十分できそうだ。
「最大出力がどの程度かまでは不明ですが…」
「十分だ。トロールを一撃で倒せる出力…しかも存在が伝説視すらされている白色の魔力なのだ、最大値などわざわざ確認するまでもない」
中心にいる人間は、それだけ言い切った。それを受けて、報告をしていた人物は報告をきり上げることにした。
「次はお前だ。報告を聞かせよ」
「はい。対象はエストラの五年三組、ペルセ。先週より留学にて人間界へと来た模様。トロール事件を受け、現在エストラ講師であるラウラが、送り迎えを担当している模様です」
その報告がなされると、集会の雰囲気が一気に重苦しくなった。
ラウラ。あの女が、いる。それだけで、その場にいる者達に不愉快な記憶が蘇る。
「…間違いなく、あの女なのだな?」
「はい。この情報をつかんだときは、反吐が出るかと思いましたが」
中心にいる人間が、大きく舌打ちをする。
二度と関わりたくないと思っていた相手。ヴァーレアを自分達から、ひいては我が国・ドゥローラから奪い取って逃亡し、挙げ句の果てに、今やエストラのあるこの国・エスカンへと亡命した女。
だが、ある意味で好都合かもしれない。
「…可能なら、ラウラも含めて一網打尽にする。対象個体は、子供なのだろう?」
「はい。小学部に所属していることからも、間違いなく子供、しかも少女です」
ーーーますます都合がいい。
ラウラならいざ知らず、子供だというのなら、恐らく不意打ちなどへの警戒心は極端に薄いはずだ。
露骨に襲いさえしなければ、騙して誘拐することも不可能ではないだろう。
「…まとめてさらえそうなら、ラウラも攫う」
「し、しかし、それをやるとエスカンとの戦争に…」
「ヴァーレアとペルセ、二人の悪魔を従えるのだ。エスカンごとき、いや、この世界をも支配可能だ」
「…確かに」
ドゥローラはあの事件以降、すっかり弱腰な国となってしまった。それもこれも、全てラウラの裏切りが切っ掛けなのだ。
ーーーその責任を取らせるのは、当然のこと。
「留学期間が終わる前に、さっさと事を済ませる。勘付かれたら終わりだからな…」
「分かりました。それでは、こちらのプランですと…」
そうして、廃墟での夜は更けていったのだった。




