魔術学校・エストラ
一方の、人間界にて。
魔術学校、エストラの職員室の中に、一人の赤い修道士のような服を着た女性、ラウラが戻ってきた。
ラウラは先程、エストラの学長に、留学の件について進捗の確認をしたところだ。
ラウラは自身のデスクに戻ったうえで、大きくため息を吐いた。
「お?どげんしたつ?」
そんなラウラに、能天気な様子で声をかけてくる者がいた。
そちらに顔を向けると、丸メガネをかけた、淡い橙黄色の魔女っ娘衣装を着た、長い耳を持った小柄なエルフの女性がいた。
ーーーエストラの魔力薬学系列講義を担当する、エルフィーだ。
「…エルフィー先生」
「何か、らしくない顔ばしとるばい。何かあったとね?」
エルフィーは眼鏡をキラリと光らせながら、心配よりも明らかに面白がってるような笑顔を向けてきた。
絶対、イジってくる。仕事付き合いも短くない相手ゆえ、そのくらいは分かった。だが、今回の件は、ここで言わなくてもどの道学長からの話がある。
ラウラは瞬時に観念することにし、口を開いた。
「…留学の件です。近いうちに、ヴァーレアを通じてこちらへの打診がある予定です」
「ヴァーレア通じて?…っちゅうことは、魔界からの!?…ほー…」
エルフィーはラウラの説明を聞き、感嘆の声をあげた。
だが、エルフィーが驚くのも無理はないだろう。何せ、魔界からの留学生は数百年ぶりなのだ。未確定とはいえ、そんな話をいきなりされたのだから。
「その件を、学長に確認してたんです」
「で、反応はどげんやったと?」
「好感触です。制度そのものは残ってましたので」
「数百年前の制度ばそんまま残しとったんか、ウチの学長」
「…多分、あなた含めた人外達のせいです」
ラウラは若干の皮肉を込めたつもりだった。だが、エルフィーはそれに気付いたのか否か、ケラケラ笑うだけであった。
数百年使われてない制度など、通常なら廃止にしてしまうであろう。だが、ここは長命種であるエルフや、その他の人外を受け入れてきたエストラだ。運営する側が持つ時の流れの感覚が、人間のものから外れてても不思議ではない。
「おいおい、言い方あるやろ!?」
エルフィーは若干ジト目でこちらを見てきている。だが、その表情に責める意図は微塵もなく、何なら鼻で笑ってすらいた。
「貴女相手だからですよ。ヴァーレア同様、気遣いの必要性を感じません」
「ウチはアレと同じ扱いかい!?」
「うるさいですし、馴れ馴れしい。面倒な部分でかぶってますから」
「…相変わらずばい」
エルフィーがどう取るかはさして興味ないが、これはラウラにとって偽りのない本心だ。だが、エルフィーは満更でもなさそうな表情を浮かべていることだけが不可解ではある。
だが、そんなラウラの内心を気にする様子もなく、エルフィーは言葉を続けた。
「ばってん、魔界からの留学生が来ることになった経緯が気になるばい」
「…ヴァーレアを通じて、と言ったはずですが」
「そらそうやけど…そんなら、ラウラ先生がわざわざ学長に進言せんでもよくなか?」
ーーー妙に鋭い。
見た目が中学生未満くらいには幼く、普段の態度も軽薄なエルフィーだが、やはりエストラの誇る薬学の講師だ。
だが、ラウラは表情一つ変えず、言葉を紡いだ。
「…恥を晒すようで、あまり言いたくはないのですが」
「あんた何ばやらかした!?」
「何で私がやらかす前提なんですか?…まぁ、実はですね…」
ラウラはそこから、ヴァーレアから聞いた魔界側とのやり取りや、向こう側が自身をホストファミリーとして指名してきたことを話した。




