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22話

 「村の者は、全員、集会所の中へ入るぞ」


村長の声が響いた。


「話は中でしよう。ここで話すには少々目立ちすぎる」


住民たちは静かに頷き、商店の近くにある集会所の中へ続々と入っていった。30人ほどいる村人たちが集まった。


私はソファに腰を下ろし、すぐ目の前に村長が屈み込んだ。彼の目は、厳しくも優しさがあった。


「改めて聞きますが……あなたは聖女様なんですか?」


村長の問いかけに、私は何も言えなかった。頷くしかなかった。もう、隠し通すことはできない。その時、農家の奥さんが声を上げた。


「……主人を救ってくださり、ありがとうございます!」


目の前にいる村長の目は、どこか優しさを含んでいるが、揺るがない強い意志を感じさせた。


「……あなた様の今までの功績、こんな辺鄙な村まで届いておりました」


低く、けれど力強い声が響く。


「今回も、我が村の農夫を助けていただき、心から感謝いたします」


村長の言葉に、周囲の村人たちが一斉に頷いた。ちらほらと村人たちから賛同の声が上がる。村長は静かに話を続けた。


「……それと、聖女様が失踪したという知らせもこの村に届いておりました。騎士団が聖女様を探しているという話もありましたが……この村には誰も探しに来ていないようです」


村長の言葉を聞き、私は不安な気持ちを抱きつつも、レオナード様の方へ視線を向けた。彼はいつものように冷静な顔で村長の話を静かに聞いていた。


レオナード様は何も言わない。ただ、私の視線に気づくとゆっくりと目を閉じて小さく一度頷いた。村長は続ける。


「大聖堂から何里も離れたこの村にまで、まさか追手が来るとは思いませんが……」


一呼吸おいて、村長は真剣な目で私を見据えた。


「我々もあなた様のお力になりたい!」


その言葉に、私は目を見開いた。


「……力になる、ですか?」


思わず訪ね返す。


「ええ。ここは小さな村で住民もこれで全員です。心許ない事は重々承知です。それでも、聖女様のお役に立ちたい!お守りしたいのです!」


村長の言葉に、村人たちが静かに頷いた。


「でも……でも……」


言葉が詰まる。


「もしも私がここにいるとバレたら、皆さんも罪を問われるかもしれないんです。それは……」


(それは……耐えられない)


せっかく優しい人たちに出会えたのだ。私のせいで彼らの生活を壊すわけにはいかない。

すると、村長が少し笑い、私の目をまっすぐ見つめた。


「……あなたは我が村の農夫を助けてくれたじゃないですか。このご恩は一生忘れません。そして、何より」


村長の声が一段と強くなる。


「あなたもこの村の住人です。同じ村の者として、助け合うのは当然のことです」


その言葉に、胸の奥が熱くなった。この村の温かい雰囲気は、土地柄や気候だけではなかった。住民の方々の温かい心がこの村の空気を作っているのだと、住み始めてから何度も感じていた。


村長の言葉が心に深く染み渡った。気づけばまた涙がこぼれていた。涙が止まらなかった。何度も手の甲で拭うけれど、次から次へと溢れ出してくる。私は立ち上がり、ここにいる人達に向けて言葉を発する。


「……私は聖女です」


村の人々が静かに耳を傾けているのが分かった。


「大聖堂から……逃げてきました」


言葉が震える。


「この村での生活は、私にとってかけがえのないものになっています。皆さんとお話をすることが、これからもずっと続いてほしいと……そう願っています」


ふらついた体をレオナード様がすぐに支えてくれた。


「私は、国から追われる身です。皆さんにご迷惑をおかけするかもしれません…」


胸が締め付けられるような思いだった。

すると、急に大きな声が響いた。


「迷惑なんかじゃないよ!!」


声のした方を振り返ると、ひとりの少年が立っていた。彼は拳を握りしめ、まっすぐな目で私を見ていた。


「僕だって、セシリアお姉ちゃんにたくさん遊んでもらったし! 一緒に釣りしてくれたの、嬉しかったんだからな!」


続いて、別の村の男性が声を上げた。


「そうだよ! 同じこの村の住人なんだ! お互い助け合いが大切だろ?」

「そうよ! それに、セシリアちゃんはすでに私たちにいろんなことをしてくれているわ!」


村の女性が優しい笑みを浮かべて言った。


「野菜の収穫も手伝ってくれたじゃない。大聖堂の聖女様じゃなくて、もうこの村の仲間よ!」


村の人々が次々に声を上げてくれる。


(こんな……こんなに……)


言葉が出ない。感情がぐちゃぐちゃになり、涙があふれて止まらなかった。


(嬉しい……こんなに迷惑をかけてしまうのに……)


レオナード様が、私の方をがっしりと掴み、こちらを向かせた。彼の瞳は強く、何よりも優しかった。


「セシリア様、よくお聞きください」


彼の静かな声が、私の心の奥底にまで届いた。


「前にも言いましたが、あなたは『聖女』だから慕われているのではありません。あなたの優しさが人々の心を動かしているのです」


私は驚いて彼の顔を見た。彼からは色んな言葉をもらってきたが、今が一番心に訴えかけている様だった。


「そして皆さんは、あなたを必要とし、あなたに必要とされたい。だから、セシリア様はここにいていいのです」


レオナード様の言葉に、村の人々が一斉に頷いた。村の人々の声が、温かさをもって私を包み込んだ。私は、私の感情が言葉にならず、ただ何度も頷いた。


「……ありがとう、ありがとう……本当に、ありがとうございます……」


涙はもう止まらなかった。それでも、心の奥には、確かな温かさがあった。レオナード様も村の人々も私をここにいていいと言ってくれる。


(私は……ここにいてもいいんだ)


私は、村の人々に向かい、深々と頭を下げた。村の人々は優しい笑みを浮かべ、私に向かって温かい拍手を送ってくれた。

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